身近な自然と科学
  1. 病気の豆知識
  2. 身近な薬用植物

薬草としてのニンニク

にんにくは神話時代から西洋医学が発展した近世まで重要な薬用植物の一つでした。
古代ギリシャ時代の著名な医師ヒポクラテスやローマ時代のディオスコリデスたちは、外傷、消化器や循環器系の疾病、感染症、狂犬病にも効く万能薬用植物と考えていました。
19世紀中ごろになると、西洋においては、にんにくの薬草としての評価は下がり始めますが、貧しい人々の間では重要な薬草という地位は変わりませんでした。

『原色日本薬用植物事典(木村康一著 保育社 昭和56年)』241ページには、鱗茎を大蒜(たいいん、Allii Bulbus)と呼び、 食品あるいは食品香料として多量に用いられる。・・・・漢方では、駆虫、健胃、整腸、止瀉、解毒、利尿薬として、新鮮品あるいは粉末を用いている。・・・
ヨーロッパでも急性および慢性の胃腸炎、赤痢、チフス、動脈硬化などに用いられるとあります。

ニンニクに含まれる成分の科学的な解明は、1844年ヴェルトハイムに始まります。
彼は、ニンニクを潰して煮立たせ、その蒸気を液化させて油を抽出し、それを硫化ジアリルと名付けました。
その後、1892年A・P・セムラーはヴェルトハイムが硫化ジアリルと名付けた成分が、二硫化ジアリル60%、三硫化ジアリル20%、その他の化合物であることをつきとめました。

その後、アーサー・ストール、エヴァルト・ゼイベックは、にんにくを低温下で潰したものを精製して、含硫濃度の高いアミノ酸を発見し、アリインと名付けました。

にんにくの細胞が傷つくと、細胞内にあるアリインは、アリインと分けられて細胞内に存在する酵素(アリナーゼ)の働きによって、アリシン(チオスルフェン酸ジアリル)に変化します。
生のニンニクを齧ったときの刺激臭と口内粘膜に感じる痛みは、このアリシンによるものです。
アリシンは非常に不快な物質ですが、強い薬効があるために重要なものです。

しかし、アリシンは反応性が高いために、低温下で保存したり、ビタミンCを添加しない限り、2,3日で分解して、二硫化ジアリル、三硫化ジアリルなどの硫黄化合物となってしまいます。
また、アリシンは熱に弱いため、調理したニンニクや調理液に含まれる成分はジアリルなどの硫黄化合物になっています。
ご存知のとおり、これらの化合物にも強い臭いがあり、アリシンより弱いですが薬効があります。

ですから、強い薬効を期待するときには、ジアリルに変化する前に利用するようにします。
特に、風邪やインフルエンザなどの感染症予防に食べる場合には、アリシンが多く含まれる形、すなわち、生のニンニクを齧ったり、すりおろしたものを食べる必要があります。
アリシンには、抗生物質の数分の一程度の殺菌効果があるため、抗生物質が発見される前には感染症治療に多用されました。
肺結核など重篤になる感染症には、生のニンニクを日に何度も多量に食べさせ、アリシンやジアリルが放つ刺激臭を吸い込ませました。
また、生ニンニクの搾り汁に、レモン汁、蜂蜜、胃腸障害を和らげる薬草を加えたシロップが作られました。
アリシンが抗生物質同様の効果を持つのは、含まれている硫黄成分が、病原菌の細胞膜内やその下の触媒を阻害して病原菌が殖えないようにしていると考えられています。

アリシンは硫化ジアリルに変化しますが、硫化ジアリルをそのまま放置しておくと更に分解してポリスルフィドになります。
ポリスルフィドは無味無臭ですが、薬効はほとんどありません。

その他、古来より言い伝えられている消化器や循環器系の疾患には「にんにく特有」と言われるほどの薬効は無いようです。
にんにくに含まれている硫黄成分がコレステロールを生成する酵素の働きを阻害したり、殺菌力によって腸内の悪玉菌が殖えるのを抑制することによって、いくらかの健康維持効果を生み出しています。
もちろん、消化器や循環器系についての健康維持効果が強く期待できる成分も、活性力のあるアリシンです。

にんにくの薬効でおもしろいのは、ビタミンB1の吸収を良くするということです。
ビタミンB1は糖質をエネルギーに変えるときに必要なものですが、ビタミンB1分解酵素によって容易に分解されてしまいます。
しかし、にんにくの細胞を傷つけたときに合成されるアリシン(allicin)はビタミンB1と結合し、B1の作用を持ったアリチアミン(allithiamin)という化合物になり、B1の体内への吸収や効果を高めます。
にんにくにはビタミンB1が可食部100gあたり0.19mg含まれていますが、鰻の蒲焼、豚肉、蕎麦など、ビタミンB1を多く含む食品を食べるときには、アリシンを含む大蒜や葱類を一緒に食べるようにしてください。

にんにくを健康維持目的で食べる場合の注意点です。
生にんにくを潰したり、或いは細かく刻んで細胞を壊して直ぐに食べるのが最も効果的ですが、刺激性が強いので口内の粘膜を傷めてしまいます。
そこで、水や牛乳などを口内に含んでから口中に入れます。
摂取する量は、1回に一欠(1鱗片)、数時間置きに1日3回までとします。
胃腸の弱い人は生食を避けて調理して食べてください。
日本ではにんにくは香味野菜の一つですが、生食の大量摂取には副作用があります。

次に、健康維持目的でにんにくを食べる場合にはにんにくを選ぶ必要があります。
にんにくの有効成分は硫黄ですから、土壌中に硫黄が多く含まれているところでとれたものが良く、特有の刺激臭が強いものほど良いものです。
食べてもにんにく臭くならないように加工されたものには病原菌に対する効果はあまりありません。

生ニンニクは保存性が無いので大きめに切って乾燥させておきます

利用するときには粉末にして水や蜂蜜などと一緒に飲むか、口中で砕きながら水などと一緒に飲みます。
このようにすると、水溶液中でアリインと酵素が接触するためにアリシンが口内や胃腸で合成されます。

ただし、上記の方法はにんにくを食べた後に胃あたりが気持ちが悪くなることがあります。
効果は多少落ちると思いますが、簡単にニンニクを摂るには、卵焼きの具として乾燥ニンニクを入れると良いです。

私は電子レンジで卵焼きを作るときに市販の乾燥ニンニクを入れて食べています。
(写真は卵の上にニンニクを載せていますが、卵と混ぜてから電子レンジで加熱します。500Wで1分程度)
ニンニク系サプリメントよりニンニクを摂った気になりますが、ニンニクの量を増やすと気持ちが悪くなります。
生ニンニクをそのまま食べたときの気持ち悪さと同じです。食べすぎにはご注意ください。


プライバシーポリシー

連絡先(fnas_web@yahoo.co.jp)