ギリシャ神話ゼウス誕生

大地母神と結婚して世界を創った神の地位を得たウラーノスは次第に増長するようになり、 自分に反抗する息子キュクロープスたちを暗黒の奈落タルタロスに落としてしまいました。
これに怒った大地母神は息子の七人のティーターン(巨人)に父ウラーノスを懲らしめるように命じました。

先頭に立ったのは末息子のクロノスです。
クロノスは母からもらった燧石(すいせき)で作られた鎌で寝込んでいたウーラノスを襲いましたが、命だけは助けてやりました。
このとき、ウラーノスの傷口から溢れた血が大地母神の上に落ち、 報復する三姉妹と「とねりこ(モクセイ科の落葉小高木)」のニンフ(妖精)たちが生まれました。

この後、クロノスはキュクロープスたちを暗黒の奈落から救い上げ、宗主権を与えられましたが、 最高権力を握ると、再び、キュクロープスたちを始め、大地母神の子供たちを暗黒の奈落に突き落とし、 レーアー(地球?)を妻にして、地上を統一しました。

しかし、クロノスにとっての穏やかな日々は長くは続きませんでした。
やっと生きながらえていた父ウラーノスが、クロノスも自分と同じように 息子の一人に権力を奪われるだろうと予言したのです。
怯えたクロノスは、乱心したかのようにレーアーが生んだ子供たちを次々に飲み込みました。
レーアーは憤り、真夜中、生き物の気配さえ感じられないリュカイオン山の頂で息子を産みました。
この男児が3番目の息子で、ゼウスになります。

レーアーは大地母神にゼウスを託し、彼女はクロノスの目を逸らすために産着で包んだ石を抱いて去りました。
その後、大地母神は、この土地の王メリッセウスの二人の娘、 とねりこのニンフ(妖精)のアドラステイアと彼女の妹イーオー、 アマルテイアという山羊のニンフにゼウスの養育を頼みました。

赤子のゼウスは、天と地からゼウスを付け狙うクロノスから逃れるため、 木の枝から吊り下げられた黄金の揺り篭に入れられ、その周囲には、クーレースたちが陣取り、 彼らはゼウスの鳴き声がクロノスに聞こえないように武器を打ち鳴らしました。

ここまでは、ゼウスが育った環境を記述していますが、 既に、正当な権力がクロノスからゼウスに渡っていることを推察させます。
第一に、ゼウスを養育した女性が、アドラステイア、イーオー、アマルテイアという名を持っていることです。
彼女たちの名は、それぞれ、老婆、成人女性、少女を表し、 月の女神が月の三相(下弦、満月、上弦)になぞらえて3つの名前を持っていることに類似しています。
第二に、ゼウスを警護しているクーレースたちは女王レーアーの息子で、 女王から一時的に王権を授かっている聖王を警護する武装集団のことです。
一説には、未開部族が武器を持って輪になって踊る祭事に、 クーレースたちがゼウスの鳴き声をかき消すために武器を鳴らした行為が残っていると言われます。