ベガ と こと座 と 七夕

こと座のα星ベガの名は、アラビア語の「急降下する鷲」という意味に由来します。
こと座なのに鷲というのは変ですが、ベガが近くの星と逆「く」の字型を作り、それが急降下する鷲の翼に見えたのだそうです。

私たちはベガと呼ぶより、「織女星」とか「織り姫星」の方が親近感が沸きます。
「織女」は中国名、「織り姫」は日本名で、その他に「たなばた女」「さきたなばた」などの名を持っています。言うまでも無く七夕の主役です。
七夕は中国の「乞巧奠(きこうでん)」と日本古来の「棚機つ女(たなばたつめ)」が習合した行事です。
中国の乞巧奠は、機織の名人・織女のように成りたいと願うことから始まり、手芸が上達するように願う行事で、日本では奈良時代に宮中で行われ、江戸時代には庶民の間にも広まりました。
織女には下記の話があるのはご存知のとおりです。
織女と牽牛は結婚して幸せのあまり仕事を怠け天帝を怒らせてしまいました。
天帝は天の川を挟んで二人を引き離し、1年に1度7月7日に逢うことを許します。
しかし、7月7日、天の川は直ぐに水嵩が増して舟では渡れません。
織女が天の川の辺で悲しんでいると、哀れんだカササギが鳥の橋を作って織女を牽牛の居る向こう岸に渡してくれました。
一方の日本古来の「棚機つ女」は、機織の乙女が水辺で神の降臨を願う農村に伝わる話です。
禊(みそぎ)の行事ですが、神の降臨を願うぐらいですから、この乙女は不幸せだったのでしょうか。

また、織女と棚機つ女の話には機織と水という共通点以外に、「女の仕事は○○だ」と決め付けたがる男社会が見えます。
西洋ではおとめ座に描かれている農業の収穫の女神プロセルピーナの左手に麦穂を持たせています。

ベガの属する星座を「こと座」と呼びます。
星座に描かれている琴はギリシャ神話で非常に優れたハープ奏者と言われている「オルフィウス」の琴です。
オルフィウスは音楽にも秀でていた神アポロンを父とし、人間の知的活動を司るミューズ神の1人カリヨーぺを母として生まれました。
琴はゼウス神の子・ヘルメスが海で拾った亀の甲羅にプレアデス七姉妹に因んで7本の弦を張ったものを、ヘルメスがアポロンに与え、それをアポロンが子のオルフィウスに与えたものです。
オルフィウスはミューズの神々について一生懸命修業しました。
その甲斐あって、オルフィウスが琴を奏でると、野獣までがおとなしくなり、風は止み、川は流れを止めるまでに上達しました。
しかし、多くの神話が悲しい筋書きを持っているように、オルフィウスにも悲しい運命が待っています。
オルフィウスは妖精ユーリディケを妻としましたが、ユーリディケが毒蛇に咬まれて死んでしまったのです。
オルフィウスは悲しみのあまり琴を携えて冥府に妻を追いました。
冥府には色々な悪魔がたくさんいましたが、自慢の琴を奏でて制し、ついに冥府の王ブルートと「連れ帰る間振り返らなければユーリディケを連れ帰っていい」という約束を交わしました。
しかし、オルフィウス、途中、オルフィウスは妻が気になって振り返ってしまいました。
その後、オルフィウスも非業の死を遂げます。
そこで、ゼウスが哀れんで琴を天に上げて星座にしました。

こと座α星ベガの光度は約0等、全天ではシリウス、カノープス、ケンタウルス座α星、アルクトゥールス、 次ぐ5番目に明るく、北半球で最も明るい星です。
地球からの距離は約26光年。

興味深いのは今から1万3千年前にはベガが北極星だったことです。
ご存知のように、地球は自転していますが、自転軸(北極と南極を結ぶ直線)が小さな円を描いて回転しています。
イメージが沸かない方は倒れかけた独楽を想像してみてください。
独楽の軸が大きく傾きながら回転しています。
自転軸を北に延長した方向にある星を北極星としているので、1万3千年前にはその方向にベガがあったのです。
自転軸の方向が元に戻るまで2万6千年かかるので、あと1万3千年経てばベガが北極星として燦然と輝きだします。
因みに、現在の北極星はこぐま座α星ポラリス。

更に興味深いのは、ベガの放つ光は白色(人によっては青色)なのでベガは高温のはずなのに、同時に多量の赤外線を放射していることです。
赤外線は赤色の光より波長が長い電磁波(電波)で、温度が低いものから放射されます。
極端な例を挙げると、可視光を出していない人間も赤外線は放射しています。
そこで、ベガの周囲(と言っても最大で地球太陽間の距離の80倍)には温度の低いものが存在するのでは無いか、それは岩石だろうと考える研究者が現れました。
そして、地球のような惑星は、恒星の周りを回っている岩石がくっついて出来たと考えられているので、ベガは惑星を持つ前の太陽の姿と考えました。
しかし、残念なことに、ベガのエネルギー消費は早いので、惑星が出来て、その上に生命が誕生するまで、ベガ自身が恒星として存在しないだろうと言われています。