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原子力発電の仕組みとウラン235を使う理由

原子力発電は、運転中は勿論のこと、廃棄後も長期間に渡って放射能を放出する廃棄物を出す厄介な代物ですが、夢のエネルギーと謳われて実用化され、 福島原発の事故前には、私たちが使う電気の3割が原子力発電で賄われていました。

原子力発電の構造はどうなっているのでしょうか?

原子力発電は原子の中心部にある「原子核」の結合エネルギーを熱エネルギーとして取り出し、 この熱によって高圧の水蒸気を作り、水蒸気タービンを回して発電機を回しています。火力発電は高圧の水蒸気を作るのに重油を焚いています。
原子核が持っている結合エネルギーとは、幾つかの「陽 子」と「中性子」を原子核という塊にしているエネルギーです。
原子核には、プラスの電気帯びた陽子と、プラスの電気もマイ ナスの電気も帯びていない中性子しか無いので、本来なら原子核という塊にはなりません。
ところが、陽子や中性子の極々近くに他の陽子や中性子が入り込むと「核力」と呼ばれる非常に強い引力が働いて陽子や中性子が塊になります。この核力は1000万電子ボルト(熱で表すと摂氏100億度)という非常に大きな力です。原子核と電子の間には外側の電子で1電子ボルト、原子核近くの電子でも数万電子ボルトなので核力が非常に強いことが解ります。
ただし、核力は10兆分の2cm程度の距離内でしか生じません。ここが電気による力と違うところです。電気による引力や斥力は離れていても弱いながら力が働く場(電場)が存在しますが、核力は10兆分の2cm程度以内なら非常に強い力なのですが、この距離より離れると、まったく力が生じません。ですから、隣の原子核との間は離過ぎているので核力は働きません。

発電の熱源として考えると、火力発電は原子核と電子の間に働いている力を取り出して熱を発生させ、原子力発電は陽子や中性子の間に働いている力を取り出して熱を発生させています。原子核と電子の間に働いている力は、陽子や中性子の間に働いている力よりはるかに弱いので、原子と電子間に働いている力の弱い物質を選ぶことによって私たちが簡単に行なえる燃やすという方法でエネルギーを取り出せる訳です。核力を同じ方法で利用しようと思ったら100億度を作らなければなりません。

核力が生じる理由は、陽子や中性子の周囲に存在する中間子によります。陽子や中性子は「核子」と呼ばれますが、核子Aの極々近くに核子Bが近づくと、お互いの周囲に存在する中間子を交換します、その結果、核子Aと核子Bの間に非常に強い核力が生じます。
核力が極々近くでしか生じないのは、中間子には質量があるので遠くに飛んで行けないためです。

核融合反応 と 核分裂反応

この結合エネルギーを取り出す方法には 「核融合反応」と「核分裂反応」があります。
核融合、核分裂反応共に、原子核の持っている結合エネルギーは、原子量が60ぐらいが低く、原子量がこれ以上小さくても大きくても大きい という性質を利用しています。
鉄の原子量が約55.8なので、結合エネルギーの点ではが一番安定している元素です。 宇宙では、水素原子の核融合からヘリウムが生まれ、次にヘリウムの核融合、というように核融合によって生まれた原子が次の核融合の元になって核融合を繰り返し、最後に鉄が生まれます。

例えば、原子量235の原子を分裂させて原子量140の原子を作ったとします 。
このときは原子量235の原子核が持っている結合エネルギーは、原子量140の原子核が持っている結合エネルギーより大きいので、この差が核分裂反応によって放出されます。
逆に、原子量2の原子を融合させて原子量4の原子に変えた場合には、原子量2の原子核が持っているエネルギーの方が 原子量4の原子核が持っているエネルギーより大きいので、 この差が核融合反応によって放出されます。
上記の関係を解りやすく図示したのが、原子力発電所は何のエネルギーを電気に変えるか です。
上に挙げた、核分裂反応は現在実用化されているウラン235による核分裂反応です。
核融合反応は太陽などの恒星のエネルギー源である 重水素 (普通の水素の原子核が陽子1個だけなのに対して、重水素は原子核が陽子1個と中性子1個で出来ている)を利用したものです。
また、重水素を利用した核融合反応を実用化したものが水爆です。

核分裂反応は、原子核がより小さな原子核に分裂するもので、どんな元素の原子核でも起こりますが、核分裂反応が起こり易いウラン235 が使われます。
ウランには、原子量が238と235の二つが存在します。(原子量は、陽子の数と中性子の数を足したものです)

原子力発電で使われるウラン235で、自然界ではウラン全体の0.7%しかありません。
ウラン235が微量しか無いことは、ある意味幸せなことです。
それは、なぜか?

ウラン235は塊にしておくだけで核分裂を起す

 ウラン235を大きな塊にしておくと、自然に核分裂が連鎖的に起きて核爆発になってしまうのです。
自然に核分裂が連鎖的に起きることを臨界、それを引き起こす量を「臨界量」と言います。

ウラン235は自然界に放置された状態でも中性子を放出しています。
中性子は電気を帯びていないので、電気を帯びている陽子や電子に引き寄せられることがなく空中に散ってしまいます。
ところが、ウラン235を大きな塊にしておくと、一つのウラン原子から飛び出した中性子が空中に飛散する前に 他のウラン原子核に衝突する確率が高くなります。
中性子がウランの原子核に衝突すると、衝突されたウランの原子核は分裂し、複数個の中性子を放出します。
放出された中性子は、別のウラン原子核に衝突、 原子核が分裂、膨大な原子核の結合エネルギーの放出すると共に 複数個の中性子を放出します。
この中性子が原子核に衝突、原子核の分裂、原子核エネルギーの放出、複数個の中性子の放出という過程をウラン235が無くなるまで繰り返します。
核分裂の度に衝突した中性子より多くの中性子を放出することになるので、核分裂は加速度的に多くなり、爆発となります。
これを人為的に起こさせるのが 原子爆弾です。

原子爆弾の保有疑惑でウラン濃縮という言葉が出てくるのは、自然界に微量しか無いウラン235を、 核爆発が起きるまでに集める手段が、ウラン235とウラン238の質量差を利用した高速遠心分離機による「濃縮」だからです。
(ウラン235とウラン238は同じ元素の同位体なので化学的な差が無く、質量の差を利用するしか分離する手段はありません)

話がずれましたが、少しずつ核分裂を起こさせることが出来れば、核爆発せずに、その際に出るエネルギーを利用できるのではないか、 という考えが浮かびます。
その為には、ウランから飛び出る中性子の数を、他のウランに衝突する前に何かに吸収させて減らすという方法で制御する必要があります。
実際には、濃縮したウラン235で多数の孔を開けた燃料棒を作り、燃料棒の孔の中に、中性子を吸収する物で作った制御棒を入れます。
制御棒を全て入れると、ウラン原子核に当たる中性子の数が少なくなって分裂が止まるように設計しておきます。
逆の話ですが、濃縮率の低いウラン235で効率良く核分裂反応を起こす為には飛び出してきた中性子の速度を落とさなければなりません。 核分裂反応によって飛び出した中性子は高速なのでウラン原子核に効率良く当たらないで燃料棒を飛び出してしまう可能性が高いのです。
中性子の速度が落ちると、あちらこちらにぶつかるのです。(ただし、高速増殖炉の場合は、中性子の速度が落ちると不都合)
しかし、 中性子は陽子や電子のように電気を帯びていないので電界や磁界では速度を落とせません。そこで、原始的な方法ですが物に衝突させて速度を落とします。
この衝突させるものは水素原子が適しているので 速度を落とす物(減速材)として水素原子で作られている「」を使います。
その為に、燃料棒の周囲に水を循環させますが、この水は熱くなるので核分裂反応によって得られるエネルギーを取り出すための媒体となります。

核分裂反応の熱を取り出す、ということは逆に言えば、燃料棒などを冷ます働きなので冷却水、最初に冷やす水なので一次冷却水と呼びます。
一次冷却水は放射能を帯びているので、容易に扱うことが出来ません。そこで、放射能を防いで熱だけ伝える「熱交換器」を介し、 全く別の水に一次冷却水の熱を伝えます。 この水を二次冷却水と呼び、この二次冷却水で発電機を回します。

事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所の場合には、中性子がウランに当たらないようにする制御棒は核燃料に入って臨界は止まったが、 燃料棒の周囲に無ければならない一次冷却水が何らかの原因で無くなってしまい、余熱で燃料棒が熔けて落下したらしいです。
熔けて塊りになってしまえば、核燃料と制御棒の位置関係が変わってしまいますから、制御棒が本来の役割を果たせなくなっていることも考えられ、 再び中性子がウランに当たり、このウランが中性子を出す、を玉突きのように繰り返す臨界状態になる再臨界も理論上は考えられます。

原子力発電所の事故で恐いのが、一次冷却水を流すパイプの破損、一冷却水を循環させるポンプの故障、ポンプを動かす電気の喪失です。(2019年10月17日更新)