原子時計の仕組み

以前、日時計について書きましたが、日時計が最も古く、且つ、生活に密着した時計とするなら原子時計は最先端の、且つ、生活実感からはかけ離れた時計とも言えます。
さて、1秒間は生活上は1日を24で割り、更に60で割り、更に60で割った時間です。12の倍数という数字は紀元前3000年頃に栄えたバビロニア時代からの慣習です。
時間は光速に近づくほど遅く進み、最終的には物の質量が無限大になって止まってしまうということですし、 日常生活でも楽しいときは時間が早く進むように感じると言いますから、どうして、1日を(24×60×60)で割った時間が1秒間なのだと考えても意味がありません。

原子時計の原理

原子時計での1秒間の定義は、「セシウム133原子の基底状態の二つの超微細準位間の遷移に対応する放射の周期の9192631770倍の継続周期」となっています。
原子の基底状態とは、原子が一番安定している状態を言います。
原子に外部からエネルギーを与えると、その原子核の周りにある電子がエネルギーの高い軌道(電子殻)に移って不安定になるので、そのような状態になっていない原子です。
二つの超微細準位とは、原子の中心にある原子核が自転している為に磁場が発生し、電子はその磁場の中でスピン(自転)しているために、電子のスピンによって作られる磁場(磁気モーメント)の方向が二通りのものが生まれ、このため、原子核と電子の相互作用によって生じるエネルギーに差異が出来、 持っているエネルギーの高い状態の原子と低い状態の原子が生まれます。
遷移に対応する放射というのは、持っているエネルギーが高い状態にある原子が低い状態の原子に戻るときにはエネルギーを放出しなければなりません。
このとき、その放出エネルギーに見合った電磁波を放射します。逆に見合った電磁波を吸収させれば低い状態から高い状態の原子に移ります。
原子時計では、二つの超微細準位の間でエネルギーの放出或いは吸収を起こさせる訳です。

実際の原子時計の構造

先ず、セシウム原子を加熱して蒸気にして噴出します。
蒸気中のセシウム原子には、磁場の方向が違い、持っているエネルギーの高いものと低いものとがほぼ半々含まれています。
ここではエネルギーの低い原子だけ必要なので、磁石の磁場を通して低いものだけを集めます。 原子の持っている磁場の方向が違うので磁石で選り分けられます。
この後、エネルギーの低い原子は、ラムゼー共振器に導かれます。
この共振器にはマイクロ波発信器が接続されていて共振器中を通る原子にマイクロ波が当てられます。 すると、一部の原子がマイクロ波からエネルギーをもらってエネルギーの高い原子に移ります。
この原子は直ぐにエネルギーの低い原子に戻ってしまいますが、その前に再び磁石の磁場によってエネルギーの高い原子だけ集め、検出器でエネルギーの高い原子を数えます。
エネルギーの低い原子から高い原子に移る数が多いほど、マイクロ波が原子に与えるエネルギーが、 エネルギーの低い原子の状態から高い原子の状態に移るために必要な原子固有のエネルギー(波長)の大きさと合っているということなので、 エネルギーの高い原子の個数が多くなるようにマイクロ波の周波数を制御します。
理論上は、このときのマイクロ波の周波数が 9192631770Hz になり、周期を数えて919263177回になったときを1秒にすれば時計になります。

しかし、実際にはセシウム原子を蒸気にすると、セシウム原子が高速で飛び出すのでマイクロ波を当てられる時間が極短くなってしまい、エネルギーの高い原子の個数のピークが鋭くならず、マイクロ波の周波数制御に誤差が出てしまいます。
その為、最先端の原子時計では蒸気にしたセシウム原子に反対方向から光(レーザー)を当てて原子のスピードをゼロにして、自由落下させながら1秒間という長時間マイクロ波を当てます。
光でスピードを落とせるのは、原子に光粒子を衝突させて原子の持っている運動エネルギーを吸収させてしまうからです。
この方法で時計を作ると、2千万年に1秒もくるわないものが出来るそうです。