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方解石などに見られる複屈折と屈折率楕円体の説明

『複屈折』のポイントを先に書いておきます。
  1. 複屈折は光が“結晶”に入射した時に起きる現象
    電場内あるいは磁場内に置かれた等方性物質(物質の物理的性質が方向によって異ならない)でも起きます。
    また、透明な物質を外部からの力で変形させても起きます。 例えば、透明なプラスチックを手で曲げても起きます。
    “液晶”も結晶状態になるので、“液晶ディスプレイ”に関係している現象です。 
  2. 結晶に入射する光は、入射角度によって屈折率が異なります。 
  3. 結晶中に 入った光は、互いに振動方向が直交する2つの直線偏光に分かれます。
  4. 分かれた二つ の光線は“位相速度(注2)”が異なります。 
  5. 複屈折を起こす結晶は、特定の直線偏光を吸収します。

複屈折が簡単に見られる例は、“方解石”を通して物を見ると、その物が二重に見える現象です。
理科や物理の授業でご覧になった方もいらっしゃると思います。これは、方解石が光を入射させた時に2つの屈折光が現れたからです。

結晶中に侵入した光は、原子の規則的配列のために、『互いに直交する2つの平面波(注1)に分かれ、異なった位相速度(注2)で進みます』
互いに直交する2つの平面波ということは、分かれた光は“直線偏光”しているということです。

注1:平面波: 例えば、波の高い点を結んだ線が平行な波。
平面波と球面波の説明図
注2:位相速度:単色光の波面の移動速度 現実に観測される光は色々な波長が混じった合成波なので“群速度”という。

ところで、結晶によっては入射光の角度によって屈折率が違います。
3次元で各方向に対する屈折率で図を作ると、 屈折率楕円体 といわれるものが出来ます。
屈折率楕円体の説明図
この楕円体を中心(X−Y−Z軸の原点)を通る平面で切ると、“真円”になる角度があります。
この平面(円)を含む軸を“光学軸”といいます。
この軸が1つものを“光学的一軸性 ”、2つのものを“ 光学的二軸性 ”といいます。

屈折率楕円体の図で、屈折率をX−Y−Z軸に分解した時の屈折率をそれぞれNx,Ny,Nzとすると、 Nx=Ny=Nz の時、楕円体は球となり複屈折はしません。
立方系の結晶(ダイヤモンド・方鉛鉱・黄鉄鉱など)です。

Nx=Ny≠Nz の時は、“一軸性結晶”で、楕円体の光学軸はZで、Z軸方向に進行する光は“複屈折”はしません。
他の方向に進む光は、光学軸に直角に振動する光(常光線(注4))と、常光線と垂直に振動する光(異常光線(注4))に分かれます。
方解石、水晶、電気石などです。
結晶に進入した異常光と常光の説明図

Nx≠Ny≠Nz の場合は、光学軸が2つあり、光学軸以外の方向に進む光は“複屈折”しますが、分かれた光線は両方とも“異常光線”です。
雲母などで見られます。

結晶に光を入射させると、直線偏光した特定の光(波長)の吸収も起きます。
この現象は非偏光から偏光を取り出すために使われます。

結晶に入射した光は、常光線と異常光線に分かれますが、屈折率が異なって分かれているので当然“位相差”があります。
波の位相の説明図

光学軸に垂直な結晶断面に直線偏光が垂直に入射すると、常光線と異常光線とに分かれますが、この二つの光線には位相差(屈折率が違う)があるので、射出してきた光線が合成されると位相差により
直線偏光→楕円偏光(円偏光を含む)→直線偏光
に変化します。
この位相差は、結晶の厚さ(光の通過する距離)に比例します。
ですから、結晶状態を変化させられれば、好きな偏光が得られます。

注4:常光線・異常光線
常光線というのは、“スネルの屈折法則”すなわち、
スネルの屈折法則の説明図
 n1×sin(i1) = n2×sin(i2)
 n1:入射する前の媒質の屈 折率
 n2:入射した媒質の屈折率
 i1:入射角
 i2:屈折角
の関係式に従う光線。
異常光線は、この法則に従わない