光の伝搬物質探しや光速測定が招いた絶対空間理論の瓦解

日常、私たちは空間の中心に自分を置いて動いています。
自分を座標(X−Y−Z軸)の原点に置き、時間は自分の時計の速度で動きます。
他の人にもそれぞれの空間と時間があるので、自分と他の人の関係は相対的なものです。
この関係が最もよく理解できるのは乗り物に乗っているときです。
自分と他の人がそれぞれの別の自動車に乗っていて、互いの相手しか見ていなければ自分の自動車の速度に関係なく、前進、停止、後退など様々な状態を体験することが出来ます。
自動車という小さな空間では自分が動いているという意識が勝ってしまい、これらを体験することが難しいかも知れませんが、電車の線路が複々線になっているところでは、同じ方向に走る向こう側の電車だけを見ていると、向こう側の電車が走り出すと自分の電車が後退しているように感じることができるでしょう。
このように勝手に任意に座標と時間を創った空間を「 相対空間 」、この座標系を「 慣性座標系 」と呼びます。
月の位置を求めるときには地球の中心を原点として計算する方法が手っ取り早いですが、これも慣性座標系ですし、 惑星の位置を求めるときは太陽を中心とした慣性座標系を、太陽の位置を求めるときは銀河の中心を、というように慣性座標系は限りなく続きます。

まだ、宇宙の概念がこんなに広くなかった頃、 ガリレイ(Galileo Galilei 1564-1642)は、どの慣性座標系でも運動法則は同じように適用されると提唱しました。
これをガリレオの相対性原理と呼びます。

ところで、相対空間に対して絶対空間、すなわち、 不動の原点と時間を持つ座標 があるという考えがあります。
これは日常的にはごく自然な考えです。
太陽などの天体が地球の周りを回っているという天動説では地球が原点ですし、地球や他の惑星が太陽の周りを回っているという地動説に変わっても原点が太陽になるだけです。
この絶対空間 は、物理学や数学、天文学に留まらず、広い分野で権威を持っていた ニュートン(Isaac Newton 1642-1727)によって支持されました。
物理学者たちは、絶対空間の中での地球の動きを探ろうとしました。

当時、光が波動だと説いた ホイヘンス(Christiaan Huygens 1629-1695) の「 光は エーテル という媒質の中を伝わる」という説が支持されていました。
電磁波の存在を理論的に予測し、光が電磁波だと説き、電磁波論を築いた19世紀最大の物理学者マクスウェル(James Clerk Maxwell 1831-1879) でさえ、エーテル説を支持していました。
そこで、エーテルの中を伝わる光の速度を測れば、絶対空間の中での地球の動きが判ると思われました。
飛んでいる飛行機の速度を測るには、飛行機に対する空気の速さを測るのと同じ考えで、空気に相当するエーテルの速さを測れば地球の速さが判ると思われたのです。
(現在の飛行機はGPSや対地レーダーなどの電波航法を使うと思いますが)

そこで、エーテルの速さを測るためにエーテルの中を伝わる光の速さを測ることになりました。
この理屈は音でたとえると解り易いです。
音は空気という媒質の中を伝わりますが、空気が流れると一緒に音も流れて、空気の流れと同じ方向には早く伝わり、逆方向には遅く伝わります。極端な事を言えば、強風のときには音源が風下にあったら聞こえません。
エーテルを媒質とする光もエーテルが流れると速さが変わると考えたのです。
この測定に挑んだのが、1887年アメリカの物理学者マイケルソン モーレー です。
彼らは地球の公転方向と、それと直角方向に光を放ち、二つの光の時間差で地球の速度を測ろうとしました。 マイケルソンとモーレーの実験
しかし、時間差は観察されませんでした。

この実験結果について、地球と一緒に周囲のエーテルも動いていたのだとか、光の速度が遅くでる実験の時にはエーテルの影響で光の通る経路が短くなったのだとか、 エーテル説を擁護する主張がなされましたが、この実験は、動いている光源から出る光と静止した光源から出る光の速度が同じであることを示し、 アインシュタイン(Albert Einstein 1879-1955)の特殊相対性理論 に繋がって行きます。
アインシュタインの相対性理論によれば、時間や空間は変動するものなので絶対的な空間は存在しません。