新しい1kgの定義

現在、質量の基準は1889年に制定された 湿度50%の状態において「キログラム原器の質量を1kgとする 」という定義によっています。
このキログラム原器はジョンソン・マッセイ社(英国)が作ったもので、主成分の重量比は、プラチナ89.69%、イリジウム10.14%となっています。

ところで、長さや時間などの科学で使うような単位から商取引に使う単位まで単位は人為的なものです。為政者の自己満足やその地方で誰にでも入手できて変わらない物が基準に選ばれて来ました。
情報や交通網が発達すると、何処の国や地方でも同じ基準が求められるようになり、現行のキログラム原器は、1リットルの蒸留水の質量に最も近くて変化しない物 として選ばれています。
しかし、質量測定技術が進歩すると、人工物を使った現行のキログラム原器の欠点が顕になってしまいました。 現行のキログラム原器は湿度50%の空気中における質量なので、原器の表面に 付着している水を含めての値です。
ですから、湿度50%の正確さや原器表面の汚れや表面の変化によっても表面に付着する水の量が変化して原器の値が狂ってきます。
条約加盟国に配られた、キログラム原器とほぼ同じ成分の副原器の示す値が100年間でマイナス50~プラス65マイクログラムとばらつきが出来ていることでも判ります。
また、原器の劣化や汚れ以外にも、地磁気や、空気の密度や原器の体積の影響を受ける浮力などの影響を受けます。
元々、人為的な定義なので、実際の値がどう変化してもキログラム原器に合わせておけば一般生活に問題が出る変化ではありませんが、 時間や長さなどの他の計量基準が量子論の考えを基準にして極めて正確に定義されてくると、質量だけが曖昧模糊としたものでは、質量の関係する理論の信頼性が損なわれてしまいます。

そこで、質量原器も自然界に存在する不動なものにしようという考えが起きてきました。
その候補に挙がったのが、 アボガドロ定数 プランク定数 です。
まず、アボガドロ定数は質量数12の炭素の同位体12グラムに含まれる炭素原子の数6.0221・・・の10の23乗個です。
ですから、1kgには5.018・・・の10の25乗個の炭素原子が含まれます。
(1000g÷12g×6.0221・・・の10の23乗個)
1kgは基底状態(エネルギー的に安定した状態)にある5.018・・・の10の25乗個の炭素原子の質量と定義されます。

そして、炭素原子と任意の他の原子との質量比が判れば、他の原子でも1kgが作れます。
原子の質量比は、原子の運動性が質量と帯びている電気量によって異なることを利用して、原子をイオン化(電気を帯びさせる)して電磁気力によって原子を振り分けることによって求めます。
同じ風圧を受ける物なら風に吹かれたときには軽い物ほど遠くに飛ばされるというイメージでしょうか。
アボガドロ定数を使ったkgの定義はイメージしやすいのですが、プランク定数を使った
エネルギー=プランク定数×電磁波の周波数
と、アインシュタインの有名な エネルギー=質量×光速の二乗 から
電磁波の周波数=(質量×光速の二乗)÷プランク定数
という式を導き
この式に、質量1kgと既知の光速とプランク定数を入れて電磁波の周波数を求めます。
そして、質量1kgはこの電磁波の周波数が持つエネルギーと等価であると定義しよう と考える方があります。
質量を周波数で表すことにすると、質量が出てくる力の定義なども周波数で置き換えられるのですっきりします。
プチ知識として、電子と陽子のモル質量比と電子と陽子の質量比が等しいことと、 実験から求められた後に量子論で求められたリュードベリ定数からアボガドロ定数とプランク定数には厳密な関係が成立します。