⇒ 自然・科学系記事一覧

電磁波の人体への影響について

電磁波の人体への影響がホットな話題になったのは、私の記憶では、「軍事用高出力携帯無線機を扱う兵士に脳腫瘍が多い」というアメリカでの報告からです。今までならごく特殊な分野の職業病で済んだのでしょうが、携帯電話の普及がこの特殊な職業病を一般の心配に変えたようです。
ちなみに、電磁波の悪影響が初めて認識されたのは、第二次世界大戦後、レーダー技術者に白内障が発見されてからです。

問題の電磁波の影響の有無ですが、現時点では不明です。
政府や携帯電話業界は、実験結果などから人体に悪影響を与えないと言い、影響を憂慮する人たちは、実験期間が短すぎることや実験方法そのものに疑問を呈しています。
また、無線LANや無線でネットに接続するサービス時に起きる・・・電波を24時間365日浴びることを心配する方も居ます。
このため、アメリカのワイヤレスネット接続業者は、電磁波の影響に関する実験と株主・消費者の反応を注視しているようです。
ということで、今回は一般論です。

電波は、電波時計と言われるものに時刻信号を送信している波長の長いものから始まって、波長が短くなるに従って、AMラジオ、 ・・・FMラジオ・・・テレビ・・・コードレス電話・・・携帯電話・・・衛星通信・電子レンジ・レーダーというように使われています。
電波の持って居るエネルギーからみると、波長の短い電波ほどエネルギーを持っています。言い方を変えれば、波長が短い電波ほど危険ということです。
電波の波長をどんどん短くすれば、有害な紫外線になり、もっと短くすれば恐ろしいエックス線になります。
通常使っている強さの電波は危険ではない、という根拠に、赤外線や可視光が危険でないのにこれらより波長の長い電波が危険なはずは無いというものがあります(注1)

人体の電波の吸収

皮膚や筋肉、内臓などはなどは水分を含んでいるので、電気抵抗が小さいため電波は吸収されやすいです。
骨は水分が少ないので電気抵抗が大きいため、電波は吸収され難く、場合によっては反射させます。
電波の周波数別では
  • 150MHz以下の電波(注2)
    人体で殆ど吸収されずに通過します
  • 150MHzから1GHz(注3)
    吸収量は多く、殆どは人体の深部で吸収されます
  • 1GHz~3GHz(注4)
    吸収量はかなり多く、人体表面と深部で吸収されます
  • 3GHz以上(注5)
    殆ど人体表面で吸収されます

前述しましたように電波はエネルギーを持っているので吸収されると熱に変わります。大きなエネルギーを持った電波を吸収してしまうと、極端な話、煮えてしまいます。 この現象を利用したのが“電子レンジ”です。
電波による熱発生で影響を受けるのは、“眼”のように水分を多く含む器官です。 眼の温度上昇の許容範囲は、8度ありますが、角膜や水晶体に血管が無いために放熱がうまく行かずに影響を受けます。
肝心の脳に付いてですが、脳は頭蓋骨で守られ、骨は前述のように電波を反射する場合もあるのですが、脳の重要性から考えてたら心配です。

電波の人体の影響

次に、電波がもたらす熱以外の影響ですが、これが最も厄介な問題で、議論を呼んでいるものです。
  • 電磁波が人体内の大きな分子を振動させる
  • 電磁波の電界が細胞内の粒子の配列方向を変える
  • 生体内組織で整流されて細胞の興奮を高める。(電磁波は交流ですが、交流が直流に変換されることを整流と言います)
  • 量子理論上の現象
などが影響するのではと考えられています。

放送局や通信社の送信所アンテナ近くの住人や技術者、或いは動物実験等では、 向上意欲や理解力の減退、頭痛、目の疲れなどの不快症状、染色体異常などが報告されていますが、 動物実験は電波を浴びせる期間が短く、不快症状にあってはその性質上、評価が一定しません。
電磁調理器で不快症状が出たという話もありますが、この場合は電波というより電磁界が問題になります。 通信用送信アンテナの場合も直ぐに減衰して伝わらない強い電磁界が発生するために人が入れない防護範囲が定められています。 しかし、電磁調理器もオール電化住宅では日常的に使われているもので。

  1. 注1:可視光線が眼にとって真に安全かどうかは????
  2. 注2:160MHz以下の電波
    民間航空無線、FM放送、防災同報無 線、軍用無線、CB、 短波ラジオ、AMラジオなど
  3. 注3:150MHzから1GHz
    テレビ、軍事用航空無線、コードレス電話、官庁連絡用、一般業務無線、 タクシー無線、パーソナル無線、携帯電話など
  4. 注4:1GHz~3GHz
    携帯電話、衛星通信、レーダー、電子レンジなど
  5. 注5:3GHz以上
    衛星通信、レーダー、放送衛星など
参考書籍:アンテナ工学ハンドブック(電気通信学会編・オーム社)他
追補
2016年5月31日 Impress Watch
携帯電話の電磁波による腫瘍発生の可能性を報告
米国国家毒性プログラム(NTP)は26日(現地時間)、携帯電話が発する電磁波の影響により、心臓および脳に腫瘍が発生する可能性があることを示唆する報告書を公開した。
中略
NTPは、2年間にわたり、ラットを使ってGSMおよびCDMAの電磁波を照射する実験を行なった。
その結果、電磁波を浴びなかったラットには病害は一切発生しなかったが、電磁波の照射を受けたラットは、90体中2~3体程度について、 脳と心臓に腫瘍などの発生が確認された。 また、病害の発生数と電磁波の強度にはある程度の相関関係が認められた。
後略
個人的でも因果関係に不安がある機器との付き合いは、ほどほどに、イヤホンマイクを使ってスマホを近接距離で使うのは控えるなど上手に使うぐらいしかないと思います。