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カメラのオートフォーカスと遠近感

趣向を変え、下手な小説風に書いてみました。

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雪子は真新しいデジタルカメラを覗いて喜んでいた。
彼女が持っているのは、難修の持っているバカチョンカメラと違い、交換レンズが使える高級カメラだった。
初めて出会った日、青空から舞い降りてきた風花を見て「私の名前は雪子」と名乗った。
難修は雪子に関してそんなあやふやな事しか知らなかったが、今こうして高級カメラを覗いている雪子を見ると、彼女はお金持ちかもしれない、とまたあやふやな想像をするのだった。

雪子は艶やかな長い黒髪が顔に垂れ下がっているのも構わず、カメラの被写体を探して構える度にカメラから微かに音が聞こえる。
ピントを合わせる度にレンズが動 いている音だろうか。
まだ聴力は衰えていないらしい、難修は奇妙な満足感を覚えた。

「ねぇ、オートフォーカスって何?」
「自動でピント合わせをてくれる奴だろう」
「そんな事は知ってるわよ、どういう仕組みになっているかってこと」
難修は戸惑った。
「難修先生、お願いします」
雪子はカメラを下に下げ、微かな笑みを浮かべた。
知らないの、という軽蔑の嘲笑にも、知らなくてもいいわよ、という優しい笑みにも思えた。

「難修先生がお答えします」
と、難修はおどける様に応えて続けた。
「デジタルカメラの仕組みは知っている?」
「知っていたら訊きません」
雪子は少し角口をした。
「それは関係なかったか・・・・失礼」

難修はポケットから小さな紙包みを出した。
「何?」
「カメラの老眼鏡」
「・・・・?」
「老眼鏡の話は後にしよう」
紙包みを開くと、青いプラスチックの枠に入ったレンズが出てきた。
「これは凸レンズ。ボールペンか何か、書くものを持っている?」
と訊きながら、難修はズボンのポケットを探り、さっき近くのコンビニで買った、2人分のパンと
パック入りミルクのレシートを出し、その裏に雪子がバックから出してボールペンで

・A ・B ・C

と3つの点を1cmほど離して描き、それぞれの横にA,B,Cと書いた。
それから、雪子に凸レンズを渡し、 「点Bに太陽の光を集めてごらん。紙を焼くんじゃないよ」
「あらぁ、学校でやった実験は焼いたわよ」
「とにかく焼いたら駄目。焼けない内にレンズと紙の距離を遠ざけたり近づけたり・・・。
そのときの点A、点B,点Cを見比べて」

雪子は何度かレンズを動かして
「何かあるの?」
「太陽の光が点Bに集まったときの点Bの明るさは、点Aと点Cの明るさと比較して相対的に明るいだろう。太陽の光が点Bに集まらなかったときは・・・」
「同じような明るさ」
「もう解った?点Bに光が集まっているときがピントが合っている状態で、点Bと点Aや点Cとは明るさが大きく違う。一方、点Bに光が集まっていないときはピントが合っていない状態で、点Bと点Aや点Cの明るさは大して変わらない」

「ということは、点A,B,Cの明るさを測って、その値の差が一番違うときがピントが合っているということ?」
「その通り、デジタルカメラはレンズで作った像を、横1600、縦1200ぐらいの桝目に区切って、その一つ一つの桝内の明るさを記録して画像を記録する仕組みに成っているから、桝内を明るさを測る事は簡単。画面の何処の明るさの違いが大きくなったらピントが合ったとするかは、ハード部分、機械的構造を変えなくて自由に出来る。フィルムカメラには無い利点だね」

難修長い弁舌を振るっている内に雪子の尊敬の眼差しを感じ、それを表情から隠さなければな らない衝動、或いは焦りから、 「他にご質問は、難修先生で何でもお答えします」
と、先にもましておどけて言ったのだが、 もっと難しい質問をされたら、と不安が過ぎった。

「では、質問」
雪子も難修につられてかおどけて
「望遠で撮ると遠近感が無いの?」
難修はホッとして、 「画を描くときはどうやって遠近感を出す?」
「それは・・・」
今度は雪子が不安そうな表情を浮かべた。

「遠くの物は小さく、近くの物は大きく描くだろう。
望遠レンズで像を作るということは、狭い角度の中に見える景色を引き伸ばしているだけだから、その中の遠くの物と近くの物との大きさ、というか見える角度が大して変わらない。
遠近感が誇張されるのは、広角レンズで作った像。
広い範囲内の景色を小さな像に押し込めるから、近くの物はより大きく、遠くの物はより小さく見える。
広角レンズで女性は撮らないようにするのが、素人カメラマンの心得。