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静電気を防止する方法

静電気で困ることはたくさんあります。 乾燥している時季には、帰宅時に金属性ドアノブに触れたときに電撃を受けたり、セーターを脱ぐとパチパチと音がしたり、スカートがまといついたりします。
レジ袋がぴったりくっ付いて口が開け難いことなどです。 スーパーのレジ袋が季節に関係なく開き難いのは、生産過程の機械的刺激で帯電しているからです。
私が一番困るのは乾燥した冬季にアクリル製の毛布などを干して取り込むときです、毛布などを抱えて金属製ドアノブに触ると必ず電撃を受けます。 これは乾燥した空気と毛布の摩擦で起きた静電気です。

意外なところでは、銀塩カメラ(フィルムを使って現像に出さなければならないカメラです)です。撮影の為にフィルムを巻き上げると帯電し、放電が起これば放電がフィルムを感光させ、写真に光点を写し込んでしまいます。
パソコンなどの電子機器を組み立てる場合には、 作業に当たる人や道具に帯電している高い電圧によってICやLSIなどの電子部品が破壊されることがあります。 最近の電子部品は静電気に強くなっていますが、静電気の持つエネルギー量によっては1000ボルト程度で破壊されることもあります。
静電気の1000ボルトは容易に起こるものなので、乾燥している時季は、パソコンのメモリーの増設時はもちろん、SDメモリーカードなどの端子に触れないようにしなければなりません。(メモリーの端子を触る場合は、手を水で洗ったり、手を湿らす、アルミサッシの窓枠などに手を付けて静電気を逃がしておきます)

物騒な例では、ガソリン類などの給油や貯蔵施設です。施設に出入りする車両が帯電しているのはもちろんのこと、 施設内のパイプにガソリン類などを通せばそれだけで帯電し、ガソリンが漏れているところに放電が起これば悲惨な結果になります。

帯電防止剤で静電気を防ぐ

スカートがまとい付くことを防ぐために、スプレー式の帯電防止剤が売られているのはご存知の通りです。
先ず、この帯電防止剤 の説明をします。
静電気は導電性(電気が流れる)の金属面でも起きますが、普通は静電気を意識することはありません。 この理由は、発生する静電気量より金属部分を通って漏洩する電気量が多いからです。
ですから、布の表面の導電性を上げるものを吹きかければ静電気が苦にならなくなります。 完全には布表面を金属メッキしてしまえば良い訳ですが、布がごわごわになって現実的ではありません。
そこで登場するのが“界面活性剤 ”なるものです。
界面活性剤が洗剤に使われているのは周知ですが、洗浄の仕組みは、界面活性剤の分子構造中の汚れ(脂質)と仲の良い部分が汚れを衣類などから引き離し、界面活性剤の分子構造中の水と仲の良い部分(親水基)の力によって汚れを洗濯液中に運んでくることによります。

なぜ、この界面活性剤が静電気防止に使えるかと言うと、布表面に界面活性剤を塗布したとき、 分子構造中の水と仲の良い部分(親水基)を外面に向けることが出来るからです
界面活性剤の働き
水と仲の良い部分ですから導電性が高く、また空気中の水蒸気を引き付けいっそう導電性が高くなります。
もちろん、親水基部分の全てが外面に向くことはありませんから導電性もそれほど上がる訳ではありませんが、 布表面の抵抗値が10の10乗から11乗オーム以下になると、生産される電気より漏洩する電気の方が多くなって不快現象を起こすだけの電気量が溜まらなくなり、 目的を達することが出来るのです。
とはいえ、界面活性剤にも問題があります。
例えば、界面活性剤としてアルキルリン酸エステルを使った場合、水になじまない化学繊維に塗布すると親水基部分が外面に向きますが、 木綿などの水になじむ繊維では親水基部分が繊維の方に向いてしまい、逆に抵抗値が高くなって静電気量が多くなってしまいます。

物質の表面に水を含ませて静電気を防ぐ

化学繊維より木綿で作られた衣服が静電気を帯びづらいのは経験で判ります。この理由は、木綿が水分を含むことにあります。
ですから、水分を含まない物質の表面には、水分を保持する物質を塗布すれば良い訳です。
簡単ですが実用的でない方法に“塩”を塗布する方法があります。塩を空気中に放置すると湿ってしまうように、塩は水分を集める性質があります。風水占いなどでは、盛った塩が湿ると邪気を吸い取ったような事を言いますが、吸い取ったのは邪気では無くて空気中の水分です 。 湿った塩の一部はイオンになるのでより導電性が増します。
物質の表面に水を含ませるのに塩は使えませんから、実用的には グリセリンなどの多価アルコール が使われます。 手っ取り早く、簡単に静電気を防ぎたい、静電気を帯びている物から静電気を直ぐに除去したいときは、 霧吹きや加湿器から出る蒸気やミストで気持ち程度でよいですから湿らせれば乾くまでは静電気が防止できます。手を洗うというのも同じです。

表面にイオン性物質を塗って静電気を防ぐ

イオンは正か負の電気を帯びていますからある程度自由に動けるようにすれば導電性が増します。 実際はイオン性物質だけでは効果が無く、前記した水を含むことが出来る物質と混ぜて使います。

導電性繊維で静電気を防ぐ

静電気を防ぐ目的でブレスレットの様な物があります。これは炭素などの導電物質を練り込んだ繊維で出来ていて、 人体に帯電しているものを空気中に浮遊しているイオンと相殺する仕組みらしいですが、使ったことが無いので効果の程は私には判りません。
引火性ガスや粉塵を取り扱う作業所などでは導電性繊維で作られた作業服を着用しています。 これは繊維の直径が小さく帯電する電気量は極めて少ないために、放電しても引火に至らない事を利用しています。

給油所や生産現場での静電気防止方法

工業的にはもっと積極的に静電気を除去する必要があります。
冒頭に触れたガソリン類などの給油や貯蔵施設などでは車両のタイヤには導電性の物を使い、乾燥している時季には水を撒くことがあります。
そして、ガソリン類が流れるパイプや貯蔵タンクは大地と電気的に繋げています。 これを“アースをとる”と言い、電気的に繋げている電線を “アース線”と呼びますが、 大きな施設でなければ帯電した物から大地に流れる電流は100万分の1アンペアーという単位で測れる程度の大きさしかないため、 アース線の直径は1.3ミリメートル程度、大地との間の抵抗は(接地抵抗)は、 10の6乗オーム(1メグオーム)あっても支障ないとされています。
漏電時の感電を防ぐアース、避雷針のアース、電波送信用アンテナのアースなどに比べて極めて簡単なもので良いということです。

因みに、感電を防ぐアース、避雷針用アース、無線通信用のアースは太い銅線を使い、接地抵抗も数オームを要求します。
接地抵抗の数オームは、地面に深い穴を掘って銅板を埋めたぐらいでは得られず、かなりの面積のある銅板を使い、 その周りには広い範囲に渡って水を保持する薬品や炭を埋め込んで得られる値です。
数十年も前のラジオやアマチャ無線の本には、水道管に繋ぐのが最も良いアースがとれると推奨されていました、 当時の水道は導電性の高い鉛管が多く、地中に張り巡らされていた為、接地抵抗は極めて低かったのですが、水道管が塩化ビニールに変わった現在ではアースの用をなしません。
ガス管は今でも金属性が多いですが、ガス管に繋ぐと引火爆発の危険がありますからアースとして使ってはいけません。

高分子化合物(合成繊維やプラスチック)のフィルムなど、ちょっとした機械的刺激で静電気を帯びやすい物を作る現場では 製造過程の刺激で帯電してしまうので出来上がった製品から静電気を取り除く必要があります。
この場合の最も簡単な方法は、 大地と電気的に繋がっている金属ブラシ状の物で、 (電気は先の尖った物の方が放電しやすい)フィルムなどの製品表面の極近くを非接触でなぞります。 もっと積極的には、製品に外部から高い電界を掛け、製品に帯電している電気と外部からの電気を中和する方法を採ります。