樟脳船が進む理由

何十年も昔(第二次世界大戦後~)、薄い鉄板を折り曲げたり型押しして作った自動車や飛行機などの「ブリキ玩具」と呼ばれるものや、セルロイドで作られた玩具が全盛でした。
当時の ブリキ玩具に使われたブリキは空き缶の再利用が多くあり、セルロイドは樹木から作られるパルプが原料です。 ブリキ玩具が全盛だったのは、当時の日本は貧しく、輸入しなければならない鉄鉱石や石油では子供の玩具を作れなかったでしょう。
当時の子供たちがよく遊んだ玩具に「しょうのう船」があります。セルロイドで作られた薄っぺらな舟の船尾に、家庭で衣服が虫に食われないようにように使っていた防虫剤の 樟脳 の欠片を載せて、水を張った盥(タライ)に浮かべます。すると、舟は前に進むのです。
樟脳は、楠(クスノキ)の幹・根・葉を 蒸留してつくり、水に溶けず、揮発性の物質で、固体から液体を飛ばして気体になります。個体から液体をにならずに気体になる、逆に、気体から液体にならずに個体になる事を 昇華 と呼びます。アイスクリームを購入したときに貰う ドライアイスも空気中に置くと液体にならずに二酸化炭素の気体になります。これを昇華と呼びます。
水は個体(氷)から液体そして気体(水蒸気)となるので通常は昇華になりませんが、冷凍庫では気体から個体(霜)になる昇華が起こります。

「しょうのう船」ですが、高さが数ミリしかない船の最後尾の水中に沈む所に樟脳の欠片をつけただけです。すると、下図のように樟脳が溶けて水面に油膜を作ります。
樟脳船が進む理由の説明図
船の周囲は 表面張力 で水が船を引き付けていますが、油膜が出来ると、水の表面張力が無くなるので、船を前に引く表面張力が強くなって船を前に進めるのです。 ですから、水表面の油膜部分の力が小さくなるだけなので、船が重かったり、深くまで沈んでいたり(喫水が深い)すると、船は前に進みません。
表面張力は、分子が隣の分子に結合しようとする力です。液体は自由に形を変えられるので器に入れると盛り上がり、空中では水滴に、無重力状態の空中では球になります。
個体の場合は形を変えられませんが、接触した物にくっつこうとします。これが摩擦のある理由です。