身近な自然と科学

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月や惑星の速度を利用して人工衛星の速度を上げるスウィング・バイの方法

昨年は、小惑星探査機「はやぶさ」や金星探査機「あかつき」が話題になりましたが、これらの探査機は地球の引力から逃れて旅立たなければなりません。
よく知られているように地球の衛星になるには秒速で約8km以上、太陽の惑星になるには約12km以上の速度が必要です。
しかし、人工衛星になるだけで燃料の大半を使ってしまい、更に速度を上げるための燃料はありません。 というのは、速度の比の二乗で燃料消費は増え、その燃料も消費するまではロケットの荷物になって更に燃料が必要だからです。 単純計算でも人工衛星の(12÷7)の二乗で約3倍の燃料が必要になります。
そこで、地球の支配から逃れる必要のある探査機では、先ず、月の引力と月の公転速度を借りることがあります。

先ず、探査機は月の公転方向の斜め前方から月の横近くを目指して進路をとります。
月に近づくと、月の引力によって探査機の速度が増して行きますが、探査機には月の公転速度も加わるようになり、 探査機の進行方向は最初に探査機が持っていた速度と月の引力による速度、月の公転速度の合成で決まります。
このとき、月の背後(公転の進行方向を前として)を回って月の進行方向側に出るように探査機の速度を選んで置きます。
ぶらんこが高い所から落ちて再び高い位置に戻るような感じです。こうすると、探査機は月の背後を回る双曲線軌道を描くように飛行します。
探査機が月の後ろ側を過ぎると、探査機の進行方向は月の進行方向に近くなり、巧く行けば月の進行方向と、探査機が月の引力によって加速された速度方向が一致します。 すると、探査機の速度に月の公転速度が加わって探査機の速度が増します。(方向が一致しないときは合成される)
月の引力によって増した速度の基準は月ですが、地球や太陽を基準にすれば月そのものも動いているので、月を基準にした速度が加わります。
もし、月が太陽や地球に対して静止していれば、探査機はぶらんこと同じで、月に近づくときは速度が増しますが、月から離れるときには速度が落ちるので、 損失を無視すれば最初と最後では速度の絶対値は変わりません。
このように天体の引力とそれが持っている速度を利用して速度を上げる方法を スウィング・バイ(swing by)またはフライ・バイ(fiy by)と呼んでいます。
もちろん、月だけでなく、火星や木星なども利用できます。ただ、逆に、惑星の公転方向の前に回り込むように探査機を送り込むと、逆に速度が落ちてしまいます。