作れないタイムマシンの作り方

タイムマシンは、時間を旅して未来や過去に行ける機械です。「タイムマシン」という名は、1895年に発表されたH・G・ウェルズの小説「タイムマシン」に由来します。
過去や未来から来た人を扱った小説や映画、テレビ番組などは数々ありますが、今、誰でも想起出来るのは、アニメの「どらえもん」や「おじゃる丸」では無いでしょうか。
「おじゃる丸」は、千年前の貴族の五歳児「おじゃる丸」が現代で暮らす話です。彼は水面に映った満月に飛び込んで、千年間を旅して二つの世界を行き来しています。

冷凍保存法

先ず、彼が千年後の世界に行く方法を考えてみます。
直ぐに思いつくのは、彼を冷凍保存し、千年経ったときに解凍して生き返らせる方法です。冷凍したときに彼の意識と細胞活動は停止し、彼の時間は停止します。
そして、解凍して生き返ったときに意識と細胞活動が動き始め、彼の時間は進み始めます。冷凍されていた時間だけ、彼は時間を旅して未来に着いたことになります。
この方法は今現実に海外では行っている会社があります。不治の病に侵されて亡くなった方が未来の時代では病気を治す方法が見つかっているに違いないと信じて遺体を冷凍保存しているのです。 病気を治す方法が見つかったとして生き返らせる方法があるのか? 等々疑問ですが、古代エジプトのミイラで解るように不死は古代からの人類の夢ですから。

非常に早い乗り物を使う方法

冷凍保存法ではタイムマシンという感じがしないので、タイムマシン論議に拍車を掛けたアインシュタインの相対性理論に頼ることにします。
特殊相対性理論によれば、速く動く物の中にある時計(時)はその外にある時計(時)と比較して遅く進みます。 光速に近い非常に速い乗り物の床に電球を置き、電球の光が乗り物の天井に届く時間を測る思考実験をしてみます。 この乗り物に乗っている人から見ると、乗り物が停止していても亜光速で動いているときとでも何の変化もありません。
しかし、乗り物の外に居る人から見ると、床の電球から出た光が天井に届く間にも乗り物は動いているので光は斜めに進んでいるように見えます。 ということは、外に居る人から見ると、乗り物が停止しているときより亜光速で動いているときの方が光は長い距離を進んだように見えます。
ここで、光の速度は常に変わらないという大原則を思い出してください。光が短い距離を進んでも長い距離を進んでも速度が同じなら、 長い距離を進んでいるときには時計(時)の進みを遅くするしかありません。
ですから、時を旅したい人は速く動く乗り物で移動し続け、適当なときに乗り物から出れば、乗り物内の時計と外の時計の時差だけ未来に行けることになります。 この、高速で移動する乗り物がタイムマシンになります。
この方式の欠点は、光速より1%だけ遅いという非常に速い乗り物に乗っても外の時計は内の時計より7倍しか早く進まないということです。
亜光速の乗り物が作れるか? 亜光速まで短時間で加速したら人間は生きていられないだろう?
という疑問はありますが、タイムマシンは現実離れした話の上に成り立っているので気に留めないでください。

非常に大きな重力を使う方法

別の方法を考えてみます。
一般相対性理論によれば、時間の速さは重力が大きい所ほど遅くなります。時間が遅くなる理由は、あなたや私が重い物を持ち上げたときに疲れるのと同じです。
重力の大きい所から、例えば青い光を発信すると、重力に逆らって進むためにエネルギーを失って青い光が赤っぽくなります。(波長が長い光ほど持っているエネルギーが小さい)
光が重力の影響を受けるのは、有名な エネルギー=質量×光速×光速 で理解できます。
実感することは不可能ですが、東京スカイツリーの展望台は地面上より重力が小さいので展望台に居る人は地面に立っている人より早く老いることになります。
重力が非常に大きいところはブラックホールです。1秒間隔で信号を出す発信機を持ってブラックホールに近づいて行くと近づくにつれて、 ブラックホールから遠い所に居る受信者が聴く信号間隔は長くなって行きます。そして終には、信号間隔は無限大の長さになります。
ブラックホールに飲み込まれた発信機が壊れずに1秒間隔で信号を出し続けていても遠くの受信者にはブラックホールに飲み込まれた人が止まっているように感じられます。
ブラックホールから無事に脱出出来れば、未来に着きますが、ブラックホールからは理論上も脱出できません。

ワーム(トンネル)を使う方法

また、別の方法を考えることにしましょう。
別の空間に通じているトンネル(ワーム)がある可能性があるそうです。重力が大きいと空間が歪むので、ある場合には空間を結ぶトンネルになるらしいです。 しかし、このトンネルは重力が大きいために直ぐに潰れてしまいます。
そこで、トンネルを発見したら、或いは作ったなら直ぐにトンネルの中にマイナスの引力を出す物質を充填してトンネルが潰れないようにします。 そして、トンネルの一方から入ると、他方の出口には瞬時に着きます。
トンネルは非常に大きな重力によって作られているのでトンネル内は実質的に時間が止まっているため時間が掛からないのです。 トンネル内にはマイナスの引力を出す物質を充填し、重力を打ち消していますから時間が止まるのか? と素朴に思いますが・・・
これだけでは、トンネルを通って瞬時に別の所に行けるだけでタイムトンネルにはなりません。
次に、光速に近い速度でトンネルの出口を引っ張って希望する時間に持って行きます。こうすると、トンネルを通れば瞬時に未来に行けます。
先述した「おじゃる丸」が水面に映った満月に飛び込んで千年間を行き来できるのは、このワームなのでしょう。
しかし、このワームを人工的に作ったというなら「おじゃる丸」は千年間を行き来出来ません。
というのは、トンネルの出口を引っ張る速度は光速を超えられませんから未来に持って行くことが出来ても過去には持っていけないからです。
2012年にワーム式タイムマシンが完成して千年後の世界と通じ、千年後の人がワームを通って2012年まで来られても、 彼らも2012年に生きている人も2012年より過去には行けません。タイムマシンが完成したときより過去には行けないのです。この話は、未来人に出会わない理由になっています。

時の流れはループしている?

では、過去には行けないか、というと。 時の流れが環になっているらしいという説があるそうです。
過去、現在、未来が鉄道の環状線のようにループになっていて、亜光速で進めば、未来を通り過ぎて過去に辿り着くらしいです。 しかし、この説が正しいとすると、今の私や貴方が何回り目の私や貴方かは判りませんが、未来は決まっていることになってしまいます。

過去に戻れたときの因果律の破綻

ところで、過去に戻れたときに問題になるのが「因果律」の破綻です。
因果律とは、原因が無くては何も生じないというものです。
因果律が破綻しないように、「過去に行けても過去を変えることは出来ない」と言ったり、過去に行けるタイムマシンは自然が許さないと言っています。
自然が過去に戻ることを許さない簡単な例は、熱です。
お風呂の湯が熱いからと冷たい水を入れて温度を下げることは出来ますが、温くなり過ぎたからと思っても熱い湯と冷たい水に分けることは出来ません。
机から床に落ちた本を元の位置に戻す場合も、位置エネルギーは取り戻すことは出来ても、本が落ちるときに生じた熱(空気や床との摩擦で生じたもの)は回収できません。
映画やドラマの「奥様は魔女」やアニメの「魔法使いサリー」では、床に落ちて壊れた花瓶が魔法で元通りになる場面がよく出て来ましたが、 元通りにするためには少なくとも失われて戻って来ない熱エネルギー分だけは魔法使いが補充している訳です。
自然は価値あるものを無価値にする方向に進みたがります。(自然はエントロピーが増大する方向に進む)