赤外線放射温度計のしくみ

赤外線放射温度計(infrared thermometer)は、黒体の単位面積から放射される単位時間当たりの電磁波のエネルギー I と その黒体が持つ熱力学的温度 T は比例するという関係(シュテファン=ボルツマンの法則)を用いた温度計です。
黒体というのは、電磁波全てを吸収する理想的な物です。私たちの眼が感応する可視光も電磁波なので吸収されて跳ね返って来なければ完全な「黒」として見えます
黒体の場合は
I =σ×Tの4乗 
ただし、σはシュテファン=ボルツマン定数
実際の物は黒体では無いので黒体を1としたときの係数(ε= 0~1)が入り
I =ε×σ×Tの4乗
となります。
この式の係数εを放射率と呼びますが、放射率は波長によって異なるために I は近似値になります。多くの物の放射率は0.95前後ですが、 アルミニウムの様に光っている物の放射率は0.1以下です。
上記した式から解かるように、放射温度計では放射率が異なると測定値も実際とは違ったものになってしまいます。
正確な値を計測するためには、放射率が判っているテープや塗料を測定したい物に貼ったり塗ったりするか、接触型温度計(熱電対温度計など)で温度を測って放射率を推算しておきます。
実用上は、接触温度計で測った温度になるように放射温度計の放射率設定を変えます。

今回入手した赤外放射温度計は、放射率0.95で変更できず、下写真の様に、測定対象付近の目印としてレーザーを照射します。 (このレーザーは、周囲が暗ければ20m位離れていても見えます)
赤外放射温度計
D(距離)とS(測定範囲の直径)の比が8対1の機種なので、測定した対象物までの距離が100cmの場合は、レーザーが当たっている付近の直径12.5cmが測定範囲になります。
赤外線放射温度計は、DとSの比、測定出来る温度範囲が機種によって大きく異なります。

何を測定しているのか判りませんが、真冬の様に寒い3月の夕方、空に向けて測定開始ボタンを押してみました。
値は、マイナス38度でした。7月の梅雨空の朝は21.4度。
ガラス戸とプラスチックダンボールの温度差の実験写真
次に、室温が約10度のとき、上写真のサッシのガラス戸に向けて測ると、6.1度
ガラス戸内側の障子戸2枚重ね部分では、9.2度
障子戸1枚では、8.2度
ガラス戸の内側に立てかけたプラスチックダンボール(プラダン)部分は、8.8度
室内壁(京壁)部分は、9.7度
物によって放射率が異なるために各部の温度が何処まで信用できるかは疑問ですが、 簡単な放射温度計でも、室内の熱が逃げる部分、外の熱が室内に入る部分を探すぐらいには利用出来そうです。