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重さに関係無く同じ速度で落ちる理由と、落下する時に無重力になる理由を簡単に説明

たとえば、パチンコ玉と、パチンコ玉と同じ大きさにした綿球を高い所で放すと、綿球よりパチンコ玉の方が早く地面に着きます。
同じ大きさの球なら空気抵抗の影響を受けやすい軽い綿球の落下が遅くなるので、重いパチンコ玉が早く地面に到達するのです。
ガリレオは重い物も軽い物も同時に地面に着くと唱え、科学的には真実ですが、私たちの経験とは違います。
空気抵抗などの邪魔物は考えないで、$g$を重力加速度とすると、
質量$m_{1}$の物には、力$ F = m_{1}g $という力が下向きに加わっているので支える物が無ければ落下します。
質量が大きければ下向きの力は大きくなるので早く落下するはずです。
パチンコ玉と綿球なら重いパチンコ玉が早く地面に到達してよいはずですが、ガリレオ先生に怒られるので

重さに関係無く同じ速度で落ちる理由

次に、質量を持った物を動かす立場で考えます。
力を加える物の質量を$m_{2}$とします。
先ほどの質量$m_{1}$が得る下向きの力$F$が質量$m_{2}$の物に作用したとすると(摩擦は無し,ロープの伸縮は無いとしています)
重さに関係無く同じ速度で落下する説明図
運動方程式 力=加速度×質量 から
$ F = m_{1} g = α m_{2} $ $α$は$m_{2}$が得る加速度
$ α = \frac{m_{1}}{m_{2}} g $
質量$m_{1}$と質量$m_{2}$が等しければ、$ α = g $となって落下する物の加速度は質量に依存しなくなり、ガリレオ先生の説が正しいことになります。

$m_{1}$を重力質量、$m_{2}$を慣性質量と言います。重力質量と慣性質量は実験によって等しいと検証されています。
すると、落下する物の加速度は、重力質量に比例し、慣性質量に逆比例すると言えます。
重力質量は簡単にはバネ秤で量れますが既知の重力が無ければ量れません。慣性質量は力の大きさとその力による加速度が判れば求められます。

空気抵抗があるときの落下

ガリレオ先生はピサの斜塔で実験したと言われますが(ニュートン先生の林檎と同じで創り話?)、無風の時に高層マンションの屋上から落として実験出来るはずが無いので、ニュートン先生発案の微積分で数学的に実験してみましょう。シュミレーションですね。

落とす物の質量を$m$、重力加速度を$g$とします。
物が動くときには力$F$が必要です。力が加わらなければ、物は今の状態を維持し続けます。
運動方程式は $$ F = am \tag{1} $$ ただし、力の向きは、上をプラス、下がマイナスです。
落とす物に作用する力は、重力の$-gm$と空気抵抗の$-bv$
ただし、$b$は空気抵抗係数、$v$は速度
空気抵抗は速度が小さい時には速度に比例して速度の向きとは逆方向になります。空気抵抗は速度が速い時は速度の二乗に比例しますが、物を落とす時は初速$0$からですから速度が遅いという条件を使います。
ということで、
式1は、
$$ F = am = -gm - bv \tag{2} $$ 加速度は、極短い時間の速度の変化なので、式2は
$$ m \frac{dv}{dt} = -gm - bv $$ $$ \frac{dv}{dt} = -g -b \frac{v}{m} \tag{3}$$ 式3を見ると、加速度$ \frac{dv}{dt} $が$0$になるのは、
$ 0 = -g -b \frac{v}{m} $として速度$v$を求めると
$ v = g \frac{m}{b} $
空気抵抗がある時に落下させた場合には、上式で求めた速度$v$以上には速く落ちないことになります。

微分方程式の式3から$v$を求めると $$ v = C e^{\frac{-bt}{m}}- \frac{mg}{b} $$ $C$は積分定数です。
上式に初期条件を入れて$C$を求めます。
落とすだけですから、時刻$t$が$0$の時に速度$v = 0$が初期条件です。
すると、
$ C = \frac{mg}{b} $
$$ v = \frac{mg}{b}(e^{\frac{-bt}{m}} -1) $$
複雑な解になりましたが、式中に落ちる物の質量$m$と空気抵抗係数$b$が入っていて、質量が大きく、空気抵抗が小さいもの程速く落ちることを表しています。
ただし、$e$の指数部が十分に小さい時(空気抵抗係数$b$が小さく、時間$t$が短く、質量が大きい)には、
$$ e^{\frac{-bt}{m}} = 1- \frac{bt}{m} $$ と考えて差し支えないので $$ v = \frac{mg}{b}(e^{\frac{^bt}{m}}-1) $$ $$ = \frac{mg}{b}(1 - \frac{bt}{m} -1) $$ $$ = - \frac{mg}{b} \frac{bt}{m} $$ $$ = -gt $$
となって、見慣れた$v = -gt $になります。

落下する時に無重力になる理由

エレベータを吊っているワイヤーが切れて、何の束縛も無く落下しているとします。
不幸にもこのエレベーターに女性が乗っていて、彼女は手に財布を持っています。
落下中、彼女はうっかりして財布から手を離してしまいました。
さて、財布は?
財布は手を離した位置に留まっています。要するに空中に浮いています。
落下するエレベーター内が無重力になる理由
なぜなら、エレベーターの中は重力が掛かっていない世界だからです。
既に記述したように、質量の大きさに関係なく同じ加速度で落ちるのですから、この加速度で落ちて行く座標上で考えれば重力は無いのです。
たとえば、一定速度で航行している航空機内では地上に居ると同じ感覚で行動できるのと同じです。

しかし、エレベーターの外に居る人が見れば、エレベーターと一緒に女性も財布も重力加速度$g$で落下しています。
この状態を説明しなければなりません。
落下しているエレベーター内の彼女にも重力$F$が掛かっていますが、
何らかの力$f$も掛かっていて、加速度$α$で動いているとすれば、運動方程式は $$ F + f = mα $$ 彼女は落下している座標上では静止しているので加速度$α$は$0$
ゆえに、 $$ f = -F $$ 重力と同じ大きさで向きが反対の力$f$がエレベーター内の彼女と財布に掛かっているために釣り合って無重力になっています。
力$f$は、慣性力と言われている見かけの力です。

アインシュタインの特殊相対性理論

上記の説明はニュートン力学によるものでしたが、特殊相対性理論では加速によって生じる見かけの力と重力は同じものです。これを「等価原理」と言います。ですから、重力質量と慣性質量は同じものなので当然その値は等しくなります。

エレベーターを落下させる重力は地球の質量によって生じているので、実際には作れないような特大エレベーター内では一様な無重力は作れません。
超特大エレベーターでは無重力ならない
上図で、AよりCの方が大きな質量Oに近いので重力が大きく、Cより早く落ちます。同時に落下させればAとCの間隔は大きくなっていきます。
BとDは重力の大きさは同じですが、重力の方向がBとDを近づける方向に向いています。落ち続ければBとDはぶつかります。
私たちが何処まで許容するかによるのですが、広い範囲で無重力を作ることは出来ないということになります。これは、エレベーターが特大になれば重力が一様で無くなることが理由なのでニュートン力学で考えても同じです。