自動車バッテリー用パルス充電器を自作してみた

2022年11月9日更新

自動車のバッテリーには鉛蓄電池が使われています。
鉛蓄電池は、内部抵抗が数ミリオームと低いのでエンジン始動に必要なセルモーターに数十アンペアーの電流を供給出来、 継ぎ足し充電をしてもメモリー効果無い(供給電力量が減らない)といった大きな利点があります。

メリットが大きければデメリットが大きいのが世の常ですが、鉛を使っているので非常に重い、 安価な開放型の場合は倒れると電解液の希硫酸が零れる、 何より最も大きなデメリットは、放電(電気を使う、無負荷でも電力が失われる自然放電)すると、 正極と負極に絶縁物質の硫酸鉛の結晶が析出し、 有効な電極面積が減り、電力容量が減ってしまうことです。(サルフェーション)

放電時には、正極では極板の二酸化鉛が硫酸鉛に、負極では極板の鉛が硫酸鉛に変化します。
充電時には放電時の逆の反応が起きて硫酸鉛は二酸化鉛と鉛となります。
ですから、放電したら直ぐに同じ量の充電をすれば電解液中の硫酸鉛が結晶として極板に付着することはありませんが、 どうしても充電量が不足気味になって硫酸鉛が塵も積もって極板の有効面積を狭めて行き、 数年後にはセルモーターを回す電力が供給出来なくなってバッテリーの交換となります。

そこで、極板に付着した硫酸鉛を剥がし、出来れば再び電解液に戻すことを出来ればバッテリーが復活することになります。
ということで、検索すると、先達さんが「パルス充電器」を自作して好成績を得ているらしいので私も自作してみることにしました。

安価で購入できるのでわざわざ自作することも無いのですが、自作した場合はメーカー品で充電拒否されるような鉛蓄電池にでもパルス充電を継続できることです。 ただし、何が起きても自己責任なので充電中は目を離さない等の注意が必要です

先達さんが自作したものはバッテリーの端子間電圧が規定値以上になったときに自動的にパルス充電するものですが、 私のように月に1度乗るかどうかの車では待機電力でバッテリー上がりになるリスクがあるので、 電圧を安定化した外部電源とバッテリーの間に入れて充電するものに変えました。
最初、外部電源に安物のバッテリー充電器を使ったのですが、商用電源の交流100Vを全波整流し、過負荷保護回路を付けたぐらいのものでは、 電圧変動が後述する2SK2382をONにし、過大なサージ電圧が掛かったらしく、3端子電源ICとタイマーICを壊してしまいました。

下記が今回自作した回路です
接続コード、充電器用ワニ口クリップ以外は、秋葉原の秋月電子通商でそろえました。
修理に2SK2382を買おうとしたら無かったので、2SK3628に変更しました。
2SK3628
ドレイン・ソース間電圧230V、ゲートソース間電圧±30V、ドレイン電流20A、許容損失100Wなのでちょっと大きいです。
この回路では単純なスイッチング動作なので、電圧、電流、許容損失が小さくなければ代替え品に難しい条件はありません。
自作パルス充電器回路図
左側にあるタイマーIC NE555でパルスを周期的に発生させ(約23kHz)、 NE555の出力から抵抗R4とコンデンサーC6を介して、 MOSFET 2SK2382のドレインとソース間に流れる電流をON/OFFします。
NE555の出力電圧が9V程度になると、2SK2382のドレインに繋がっている100μHのコイルL 2に電流が流れ、 L2に流れる電流はL2内に磁気エネルギーとして蓄えられます。
NE555の出力の電圧が下がると、2SK2382のソースとドレイン間はOFFになり、 コイルL2に蓄えられた磁気エネルギーは解放されてダイオードD2を通して一気に鉛蓄電池のプラス極に加わります。
ダイオードD2は逆流防止に入れていますが、5A以上流れることがあるので熱くなります。放熱板が付けられるダイオードを選んだ方がよいかもしれません。
ダイオードD2を除くと、このページの末尾に書いたように充電が進んでもパルスの先頭値が高くなります。

下記が実際に組み立てたもの(抵抗R4は100Ω3本を直列にしています)
自作パルス充電器基板写真
(出来れば、NE555の電源回路と外部電源入力にサージ電圧吸収用ツェナーダイオードを入れた方が良いで す)
外部電源に12V定電圧電源を使う場合は、3端子電源IC LM2940と、コンデンサーC2、C3,C4を省いても支障ないです。
ただし、3端子電源ICを省いた場合は、この回路の定数では、外部電源の電圧が13Vを超えると、 出力電流が増して2SK2382が熱で壊れるリスクが高まります。
外部電源が13V以内でもパルスの尖頭値は20V近くなるので充電は出来、次第にバッテリーの電極間の電圧が15V近くなり、 ダイオードD2が温まるぐらいの電流は流れます。
15V弱ぐらいの定電圧充電を兼ねる場合は、3端子電源ICを入れるかNE555の電源端子と外部電源の間に数十Ω程度の抵抗を入れてください。
抵抗を入れると、NE555の外部出力の電圧と電流が下がり、2SK2382の出力電流も下がります。
この抵抗を300Ωぐらいにすると、パルスの尖頭値が17Vぐらい、回路全体に流れる電流は70mAぐらいまでに下がります。
NE555の電源の最大電圧が16Vなので、周囲の温度が上がっても超えないようにしてください。

パルス回路はデジタルテスターでは見当も付かないので、 ブラウン管のアナログオシロスコープで、鉛蓄電池に繋いだ状態で電極間の電圧を測ってみました。
自作パルス充電器の出力波形
スケールは、時間軸(横軸)の線間が10μS、電圧軸(縦軸)の線間が2V。波形の基線(最も輝いている水平線)の電圧は約15Vです。
パルスの最大電圧はバッテリーの状態によって異なります。

パルスが基線より下にも出ているのは、鉛バッテリーと接続コード等が持つインダクタンス成分(コイルと同じ作用)のためです。
下の写真は、バッテリーを繋がない状態(負荷はオシロスコープだけ)の出力パルスです。
自作パルス充電器の無負荷時のパルス波形
電圧スケールは5Vなので、パルスの尖頭値は基線から約27V
部品定数が異なる回路のものなのでパルスの尖頭値は違います。
このページの末尾に記載した回路のものです

今回自作したパルス充電器では、パルス幅2~3μ秒ですが、シュミレーションソフトではパルスが出ているときに1A近い電流が流れています。

たまにしか乗らない車に積んでいる2年半使用のバッテリーを、 自作したパルス充電器で計30時間充電した結果、物凄い勢いでエンジンが掛かるようになりました。
開放電圧は、充電終了後一夜置いた朝で12.7Vでした。
見た感じ、サルフェーションは減っていましたが、エンジンがよく掛かるようになったのが、 充電を長時間した結果なのか、パルス充電の効果なのかは判りません。

後日、30kmばかり走ってきました。
電子制御に依存する部分が少ない古い自動車のためか、走行時も気持ち力強くなったような気がしましたが、 エンジン始動時以外の改善度合いは主観の域を出ません。

今回自作したパルス充電器では、バッテリー(鉛蓄電池)の開放電圧が12V台の時には 出力に付けているダイオードD2が熱くなるほどの電流がバッテリーに流れ込んでいます が、 これはパルスには関係なく、出力のダイオードD2の後の電圧とバッテリの電圧の差で電流が流れています。

今回作ったパルス充電器では、1秒間あたりのパルスの数を増やすと、 バッテリーの開放電圧が14V以上あってもダイオードD2が熱くなってしまいます。
これは、急峻なパルスの場合は、ダイオードの順方向抵抗値が通常より高くなって損失が増えるためです。 (フォワードリカバリタイム期間中は順抵抗値が高くなる)
この損失の上に、急峻なパルスの場合は逆方向にも電流が流れるために損失があります。
まとめると、ダイオードに急峻なパルスを流したときに発生す熱は、 順方向損失(順方向スイッチング損失)と逆方向損失(逆方向スイッチング損失)が足されたものになります。

このため、急峻なパルス回路に使うダイオードは通常の整流ダイオードでは無くて、 反応速度が速い高速整流ダイオード(ショットキーバリアダイオード:SBD)を使った方が損失は少なくなります。
ただし、SBDは逆電圧が掛かったときに逆方向に流れる電流(漏れ電流)が大きく、この漏れ電流も当然発熱に寄与し、温度が上がると漏れ電流は更に多くなるために、放熱が十分で無いときは温度が上がり続けて壊れます。(熱暴走)
温度が上がることが想定される場合は放熱を考えてください。

追記
思考錯誤というほどでも無いのですが、タイマーICに供給する電流をつくる3端子電源ICを省いた回路を使っています。(3端子電源ICを焼損してしまったので)
下回路図のとおり、電源ICの代わりに抵抗R9(150Ω)を入れて電流を制限しています。
自作パルス充電器の回路図


2020年12月9日更新部分
回路図右側の電界コンデンサーC3は重要です。このコンデンサーを付けないと鉛バッテリーの充電が進んで端子間電圧が高くなって来るとNE555への供給電力が減少して発振が止まってしまいます。コンデンサーC3は最短距離でマイナス線に接続してください。 ただ、C3を付けると発振が止まらないために外部電源の電圧より鉛バッテリーの電極間電圧が4Vぐらい高くなることがありますから 満充電のバッテリーの場合は過充電にならないように注意が必要です。(この回路は簡単な昇圧回路と同じです)具体的にはこのパルス充電器に接続する外部電源の電圧を下げます。
内部抵抗が約5mΩのアイドリングストップ車用バッテリーでは、外部供給電圧が9.55Vの時に12時間後のバッテリ電極間の電圧が13.65V、外部電源からは約20mA流れていました。


以下は、2020年12月9日更新内容の電界コンデンサーC3を付けない回路でのものです。C3を付けないときは、鉛バッテリーの電圧が下がったときにNE555が発振するので長時間通電していても一定電圧で止まり、放電で電圧が下がると自動的に発振します。
外部電源に出力電圧12.7V定電圧電源(プリンター用12VAC電源アダプターを借用)を使った場合、 接続から48時間後のバッテリーの電極間は13.5V、 パルスの尖頭値は約16V(バッテリーの電極間電圧+3V弱)になりました。
バッテリーの電極間電圧が14Vに達しなければ、補充電の範囲で過充電にはならないと考えています

上記追記に書いた簡略のパルス充電器で連続で充電したバッテリー内の比較写真です。電界コンデンサーC3を付けていない回路で行なったもの
2017年7月19日
自作パルス充電器で充電前のバッテリー内部写真1槽
2017年8月5日
自作パルス充電器で充電17日目のバッテリー内部写真1槽
2017年9月4日
自作パルス充電器で充電48日目のバッテリー内部写真1槽
別の槽では
2017年7月19日
自作パルス充電器で充電前のバッテリー内部写真3槽
2017年8月5日
自作パルス充電器で 充電17日目のバッテリー内部写真3槽
2017年9月4日
自作パルス充電器で充電48日目のバッテリー内部写真3槽
と除けているかなぁ、という 感じです。
パルス充電中の電圧は、13.44V。充電器を外して10分後の電圧は、13.2Vでした。
バッテリーの温度上昇は感じられませんでした

実験用にエンジンが始動出来る状態の鉛バッテリーを2個使っていますが、 電解槽6個の半分ぐらいの槽に硫酸鉛の結晶(サルフェーション)が付着しています。
また、電極の劣化程度も異なります。 製造時の品質のばらつきが出ているようです 。


パルス充電器で充電し始めた時の、鉛バッテリーの内部の写真を撮って置かなかったのが残念なのですが、 充電を始めて1ヵ月後と2ヵ月後の結果です。
自動車用12V鉛バッテリーは起電力2Vの鉛蓄電池が6個直列接続になっていますから6槽ありますが、 当然、写真は同じ槽のものです。
充電したバッテリーは自動車には搭載せず、振動の少ない所に置き、充電時間は毎日ほぼ12時間しました。
12時間充電し、その後12時間無負荷の状態で放置、そして、充電という周期です。
先ず、充電を始めて1ヵ月後です

前述したように 既に1ヶ月間充電してあるので、電極に付着している硫酸鉛が剥がれかかっています。

それから、1ヶ月後(充電開始から2ヵ月後)の写真です。

硫酸鉛が少なくなっていますが、2ヶ月間毎日ほぼ12時間の充電ですから、「労多くして功少なし」と言われても仕方ないですね。
充電開始から2ヵ月後、充電終了から室温10度以下の場所に一晩放置後の無負荷電圧は、12.9V。
充電中の電極間の電圧は、15.5V。
自作パルス充電器に供給する電源には、キャノンのプリンター用ACアダプター12V(2A)を使っています。
充電中のACアダプター込みの消費電力は、ワットチェッカー(TAP-TST5)の計測で3Wでした。
バッテリーに感じられる発熱はありません


2019年1月22日追記
このパルス充電器を自作された方から、車体防錆機使用のために毎日タイマーを使って充電していたものの、 エンジンを始動できないバッテリーに3日間パルス充電したところ始動できたというご報告を頂きました。無負荷でのパルスの電圧は1000V以上出ていたとのことです。
ありがとうございました。


2019年12月24日追記
私が作ったパルス充電器では、充電が進んでバッテリーの電極間電圧が高くなるとパルスの尖頭値が小さくなってしまいます。充電器に供給する電圧を高くすればパルスの尖頭値も高くなりますが、バッテリー電極間も高くなってしまいます。
12Vの鉛バッテリーの満充電時の電極間電圧は13.68Vと言われているので、これ以上電圧を上げると過充電になる虞があります。

そこで、パルス充電器からバッテリーのプラス極に繋ぐ間に入れている逆流防止ダイオードD2を除いてみました。
鉛バッテリーの電極間の電圧が13.68Vになるようにパルス充電器への供給電圧を調整して、鉛バッテリー電極間の電圧をオシロスコープで測ってみました。
自作パルス充電器から逆流防止ダイオードを除いたときの波形
縦軸の電圧スケールは20V、横軸の時間スケールは200nS、平均電圧は13.6Vです。
デジタルオシロスコープで測った波形から、パルスの尖頭値は、平均電圧から約90Vでした。

自作パルス充電器が壊れた

2020年12月13日追補

壊れたというより、バッテリに接続するときに極性を逆接続にしてしまったのが原因です。
青空駐車の盛夏の熱いボンネットの中でも動き続けてくれた回路が壊れるときは火花と共に一瞬でした。
バッテリーを繋がないでオシロで出力を見ると尖頭値が8Vぐらいのパルスが出ていますが、バッテリーを繋ぐと全く現れません。
外見からは異常が見られなかったMOSFET 2SK2382が壊れたのがパルスが出ない原因でした。
パルス回路に接続する前に極性を確認してからリレーを使ってパルス回路に接続するように回路を組めばよいのでしょうけど。
もう1つ作っていた物で凌いでいますが、2SK2382は発振周波数を上げるとかなり熱くなるので、発振周波数を上げたいときはもう少し許容損失が大きいものに替えて放熱板を付ける方がよいですね。