電波を発生するのに必要な高周波発振回路のしくみ

一番簡単な電波発信機は火花式ですが、この方式では連続した電波を出せず、音声や映像を送れません。
連続した電波を出すにはコイル、コンデンサー、増幅素子、増幅素子に電気を供給する電池が必要です。
先ず、コイルですが、火花式発信機の場合は、鉄のような物にエナメル線を巻いた電磁石のような物を使っていますが、FM放送の電波のように周波数が高くなると、ジュースなどを飲むストローにエナメル線を一巻きした物もコイルです。スマホやBS放送に使われている周波数の高い交流電流相手では数ミリの銅線でもコイルになってしまいます。

さて、コイルに乾電池を繋ぐと何が起こるでしょう?
答えはただの電磁石になるだけです。
が、乾電池から電気エネルギーはコイルに移り、繋ぎっぱなしにしておけばやがて乾電池の電気は無くなってしまいます。

乾電池の電気はどこに消えたのか・・・
電磁石の場合なら傍にある鉄を引き付けるエネルギーになるのは想像できると思いますが、コイルに電気を流すと磁気エネルギーに変わるのです。
そして、この磁気エネルギーはコイルに電気を流すのを止めると、今度は電気エネルギーに変わります。
電磁石に乾電池を繋いでいて、スイッチを切った瞬間にスイッチで火花が飛ぶのを見たことがあると思いますが、これはコイルに蓄えられていた磁気エネルギーがスイッチを切った瞬間に電気エネルギーに変わったためです。

次にコンデンサーです。
コンデンサーは電気を通さない絶縁体(雲母や絶縁紙など)を2枚の導電体(普通はアルミ箔)で挟んだものです。
コンデンサーの2枚の導電体に乾電池を繋いでも、もちろん電気は流れませんが、乾電池の電気は無くなっていきます。
というのは、乾電池から電気が絶縁体を挟んで、プラスの電気(電荷)とマイナスの電気(電荷)が向かい合うのです。
2枚の導電体の面積が広く、2枚の間が非常に狭ければ、乾電池を外し、代わりにコンデンサーの2枚の導電体の間に豆電球を繋ぐと一瞬点燈します。
コンデンサーは電気を蓄えます、充電です。と言っても、一般的なコンデンサーは、デジカメや携帯に使われている充電式電池のように大きな電気を長い時間蓄えることは出来ません。(電気二重層コンデンサーは充電池代わりになる大容量のものがあります)

増幅素子は小さな電気の変化を大きな変化に変えるものです。
増幅素子には真空管やトランジスター(ICやLSIはトランジスタを集積したもの)が使われますが、原理は道路にある押しボタン式信号機に似ています。
押しボタン式信号機が設置されている道路なら、自動車がひっきりなしに通っていても小学生でも車を停めたり走らせたり出来ます。 悪戯で走っている車を止めてはいけませんが、押しボタンを押すという小さな力が、大きな車を停めたり走らせたりという大きな力に変わったのです。
増幅素子というのはこれと同じで、電源(例えば乾電池)から流れている大きな電気の通路に扉をつけて、 小さな電気の変化で扉を開け閉めして大きな電気の流れを変化させています。
入力する信号の有無で、扉を閉じる、扉を全開にするという2動作だけをするのがデジタル素子で、 入力の信号の大きさに比例して扉を閉めるから・・・少し開ける・・・もう少し開ける・・・全開にするまでを行うのがアナログ素子です。

これで、電波発振器の部品の説明は終わりましたので、コンデンサーに電池を繋いで、コンデンサーに電気を蓄えておきます。
そして、コンデンサーとコイルを接続します。
しかし、接続した瞬間に電波発振器の原理は終わってしまいました。
何が起こったのでしょう?

  1. コンデンサーに蓄えられていた電気がコイルに流れる。
    (コイルではコンデンサーから電気が供給されている間は電気エネルギーは磁気エネルギーに変換されます。)
    発振器の原理1
  2. コンデンサーに蓄えられていた電気が無くなった
  3. コイルに蓄えられていた磁気エネルギーが電気エネルギーに変わってコンデンサーに流れてコンデンサーを充電する。
    発振器の原理2
  4. 磁気エネルギーが無くなった
  5. コンデンサーから充電されていた電気がコイルに流れる

上記の説明で1と5は同じことです。
電気エネルギーが無くなるまで、1~5を繰り返すのです。
これと電波がどういう関係? と思うかも知れませんが、電流がコイルとコンデンサーの間を電気が行ったり来たりするということは交流が発生していることになります。
この交流をアンテナに接続すれば電波が出るのです(実際にはアンテナを接続しなくても回路から漏れ出てしまいますが)
水晶発振器はコンデンサーの代わりにカットした水晶を電極で挟んだ水晶を使います。水晶はカットの仕方で得られる周波数でしか発振素子の役割を果たさないので発振周波数が安定します。

ところで、上記の説明では永久に続くような気がしますが、電気エネルギーが無くなるのはアッと言う間もありません。
コイルには電気抵抗があり、コンデンサーも2枚の導体に挟まれた絶縁物によって電気的な損失が発生します。
コイルやコンデンサーで失われるエネルギーは熱となって放散して戻ってきません。

1~5までのことを長く続けさせるのは外部から電気エネルギーを与えてやれば良いのです。ここで増幅器が必要になります。
そこで下の模式図のようにコイル、コンデンサー、増幅器を接続します。
発振器の基本回路図
コイルLとコンデンサーCが接続された回路から何らかの方法(コンデンサーかコイルを介して)でLC間で起きた振動電圧を増幅器の入力端に加えます。
増幅器では入力端に入った振動電圧と同じ位相の電圧を増幅してLとCの回路に戻します。(正帰還)
同じ位相だと強め合うので振動が続く訳です。
逆相にすると振動が弱め合ってしまいます。(負帰還と言い、増幅率は下がりますが周波数特性が良くなるのでオーディオアンプには多用されます。)
増幅器の入力と出力の位相図
増幅器の増幅率は1倍以上あればよく、大きすぎると波形が歪んでしまい、希望しない周波数の電波まで出てしまいます。
この回路で発振する電波の周波数は上図のfの式で求まります。

電波に使うような高い周波数ではなく、耳で聞こえるような低い周波数ならカラオケをしていて起こるハウリング (マイクをスピーカーに向けて、ボリュームを上げると起こることがある)も発振です。マイクの向きを変えればハウリングは止まりますが、電源を切ってしまえばエネルギーの供給が途絶えて止まります。