特定小電力トランシーバーを室内から使う方法

特定小電力トランシーバーというのは、交通整理の方やレジャー目的に使われている小さなトランシーバーです。 無資格で使え、無線局免許も必要ありませんが、技術基準適合証明を取った無線機で出力10mWまで、改造できない、外部アンテナを接続出来ないという制約があります。
特に外部アンテナを使えないという制限は無線機にとっては致命的なものです。無線機で通話が出来る距離に最も寄与するのはアンテナが付けられた高さです。 携帯電話やPHSも無線機なので経験があると思いますが、室内よりは外、同じ外ならベランダや屋上で通話した方が電波が遠くまで届きます。

そこで、特定小電力トランシーバーを室内に置いて、本体を改造せずに電波は高い所から飛ばすにはどうするかです。 アマチュア無線機のようにアンテナ出力端子があれば外部アンテナを接続すればよいのですが、特定小電力トランシーバーの場合には出来ません。
トランシーバーのアンテナに銅線を2、3回巻きつければ、効率は悪いですが高周波電流は取れます。これを増幅して外部アンテナに接続すれば、とは思いつくのですが電波法違反になるので、 電気を使って高周波電流(電波)を増幅しない、トランシーバーとの接続は、非常に疎にするということで考えてみました。
トランシーバーとの接続を「非常に疎にする」というのは、電波法違反逃れという意味だけでなく、 トランシーバーから出る不要な電波(スプリアス)を撒き散らさないという意味があります。

2分の1波長アンテナ図

1/2λアンテナは、使用する電波の波長の2分の1の長さのアンテナでダイポールアンテナと言われるものです。アンテナ素子の長さは上図にあるように計算します。
ダイポールアンテナの給電インピーダンスは73Ωぐらいになりますが、上図のように細長いループ状にすると、73×4で約300オームになります。
これを折り返しアンテナと呼び、給電インピーダンスを上げる他に、効率よく使用できる周波数範囲が広がるメリットがあります
テレビ用の300Ωフィーダー線があれば整合(エネルギーの損失が無い)するので、このタイプのアンテナがFMラジオの室内アンテナとして使われました。
特定小電力トランシーバーの使用周波数はUHF帯422MHzなのでUHFテレビ用200Ωフィーダー線を使っています。
200オームと300オームなのでぴったりと整合しませんが、整合させるためにコイルやコンデンサーを入れても、測定器がないので苦労する割には利が無いと思います。
折り返しアンテナを使わないで、通常の2分の1波長ダイポールアンテナを使う場合は、なるべく低損失の同軸ケーブルを使います。

使い方は、1/2λアンテナを二つ作り、UHFテレビ用200Ωフィーダー線の両端に接続します。
で、片方を室内に置くか、窓ガラスの室外側に貼り付けておきます。
室外側に置けば、ケーブルを室内から出す孔が必要ないので便利です。
そして、もう片方を屋上や屋根の上など高いところに垂直に固定します。
垂直に固定するのは、外で使われているトランシーバーから出る電波が垂直偏波と想定されるので、効率よく受信するためです。 図では室内用は水平になっていますが、室内用も垂直にしてください。
それから、室内用室外用アンテナ、フィーダー線はそばに金属が無い場所に設置してください。
アンテナの固定は中央部分でしてください。中央部分は電圧が低いので絶縁さえしておけば金属パイプに固定しても大丈夫です。 余談になりますが、真の中央で電圧0なら接地できるので、落雷対策に接地することがあります

このシステムの仕組みは、室内用アンテナの近くで小電力トランシーバーで送信します。 すると、送信された電波の一部が室内用アンテナで高周波電流に変換されます。この高周波電流がフィーダー線を通って外のアンテナに流れ、外のアンテナからもう一度電波として放射されます。
受信時は、この逆です。無線用アンテナは送信時受信時で電気的な特性が同じという性質があります。(2つにアンテナの間に簡単な増幅器を入れ、2つのアンテナが干渉して発振しないようにすれば遠くまで飛びますが、送受を切り替える回路を入れないと受信時には使えなくなります。電波法違反になりますから増幅器は入れないでください)
これは無給電中継器ですが、電波を通さない壁を挟んで使う用途に 特定小電力トランシーバー用無給電中継器が商品化されていたことがあるようです。

追補
トランシーバー Clarion JQ-20、VHF用300オームフィーダー線約5mで試行してみました。
1台を室内の奥に置いて、そこから30cmほどの位置に上記の様に作ったアンテナを置き、 フィーダー線で繋いだ片方のアンテナを屋外の高い所に設置しました。
上記のようなアンテナが無い状態で通話距離は約150m、アンテナを使った状態で約170mでした。
屋外のアンテナの位置にトランシーバーを置けば700mぐらい届く環境なので、このページで考えたアンテナは無いよりマシ程度で実用性がありませんでした。
鉄板や分厚い鉄筋コンクリートの内と外とか、電波の通りが酷く悪い所なら或る程度使えるのかと思いますが、 そこそこ電波が届く環境では、トランシーバーとアンテナ間、フィーダー線の損失が多すぎました。
トランシーバーをプラスチックケースに入れて防水して高所に設置、マイクとイヤーホーン端子からの線を屋内に引き込んだ方が遠くの人と通話できます。

下写真の様に、特定小電力トランシーバー(ケンウッド製)をポールの先端に縛りつけて、住宅街で高さ10mまで上げてみると、 スケルチをONにした状態で600m内はほぼ何処でも、場所によっては1km、住宅街を抜けて家が疎らな郊外方向では2km届きました。
高層マンションからなら10km届くというのも嘘では無いようです。
本格的にトランシーバー本体を高所に上げるなら、マイクとイヤーホーンの線は不平衡なのでコモンノイズを拾いやすいですから、マイクとイヤーホーンの線を平衡に変換して延ばす必要があります。

平衡線というのは、2本の線が接地線に対して電位を持っています。
平行線の利点は、コモンノイズは近接した2つの線に同じ位相、強さで乗るという性質を利用して、音声用トランスや差動増幅器などで容易にコモンノイズを除去できることです。
長距離伝送が必要な電話や音響関係では平衡線を使っています

アンテナを含む送信部分を高所に設置するために、送信部分とコントロール部分が分離しているトランシーバーが市販されているので、それを買った方が簡単なような。
2万円台の中継器があるのでそれを買った方がいいかな?
でも、1km、よくて2kmぐらいの通話を確保するために、コストを考えたら道楽ですね
実用的でコストに見合うのは、自動車に付けることぐらいでしょう。
本体をブラスチックケースに入れて磁石でルーフに貼り付け、市販品か自作したイヤーホーン・マイクの線を延ばして窓から車内に引き込めば、車内にトランシーバーを置くよりはるかに遠くまで届きそうです