交流送電と直流送電の利点と欠点

家庭や工場に送られてくる電気は、一定の時間ごとに電流の向きが正反対になる交流電気です。
家庭用のクーラーや冷蔵庫、照明などは単相交流、工場や大型商業施設などには三相交流が使われいます。 テレビやコンピューターなどの電子機器の内部では電流の向きが変わらない直流を使っています。

電力の送電方法について、直流電気が良いのか、交流電気が良いのか、と大議論になったことがあります。
電池を実用化したエジソンは、直流で家庭や工場に電気を送る方が良いと主張し、交流発電機や電圧を変える変圧器を発明したファラデー は交流で送る方が良いと主張しました。
この議論はファラデーが勝ち、現在は殆どの場所で交流送電が行われています。

交流送電のメリットは直流送電のデメリット

交流送電の利点は、変圧器を使って電圧を自由に変えられることです。
電力は、{ 電圧×電流 }で表されますが、送電線上で熱として失われる損失は{ 電流の二乗×銅線の抵抗 }なので、 電流を小さくして損失を少なくし、電圧を上げて電力を多くする方法がとれます。
直流送電では損失を少なくするために高電圧で送ると消費側では電圧を簡単に下げる方法がありません。 直流モーターで発電機で回して変換するか、電子回路で下げるにしても高電圧ですから安価には作れません。

変圧器というのは、損失が少ない特殊な鉄を芯にして2つ以上のコイルが巻かれたものです。
例えば、Aコイルの巻き数をN、Bコイルの巻き数をMとし、Aコイルに100ボルトの電圧を加えると、電磁誘導によってBコイルに現れる電圧は 100×(M÷N)となります。
変圧器は大きな物では鉄道沿線にある鉄道用変電所や郊外にある電力会社の変電所で見ることが出来ます(都会では地下に変電所がある)
電柱の上に載っている箱状や円筒形の物も変圧器です。小さいものでは、ラジオなどに付属しているACアダプターです。 ACアダプターはノートパソコンやスマホ充電用の軽い物では無くて重いものです。

交流送電のデメリットは直流送電のメリット

交流送電の欠点は、コンデンサーによって損失を受けるということです。
コンデンサーは送電線間や送電線と大地の間に自然に作られてしまいます。 特に、海底ケーブルのように送電線を狭い空間の中を長距離通さなければならないときにはコンデンサーとしての値が大きくなり、それだけ損失が多くなります。
直流送電では基本的にコンデンサーは 直流を通さないのでコンデンサー効果による損失はありません。
また、交流送電は電流の向きが周期的に変わるために末端の負荷と同期をとらないと発電機が暴走するという欠点があります。

交流電気の欠点

その他、交流電気には直流電気には無い欠点があります。
例えば、ニクロム線を使った電気ストーブに交流電気を流した場合、交流電気の電圧と電流は0ボルトを基準にして、時間に対して正弦波を描きます。
電圧値と電流値がプラスの最大値からマイナスの最大値まで、1秒間に50回(または60回)変わります。
電圧と電流の向きがマイナスになっても発熱するのでそれは構いませんが、電圧と電流の値が小さくなっている期間は発熱量も小です。極端な話、電圧か電流の片方が0なら熱が作られません。
(電気回路にコイルやコンデンサーが入ると、電流が遅れたる進んだりするので一方だけ値が0になることがある)
このストーブは直流なら○○カロリーの熱量、交流なら△△カロリーの熱量と表記するのは不便です。
そこで、この電気ストーブを直流電気で作動させた時と同じ発熱量を得るには、交流電気ならどのくらいの電気が必要かと考えてみると、 交流の電圧値が描く正弦波の最大値は直流の場合の約1.41倍(√2)の電圧が必要となります。
ということは、同じ発熱量を得るには直流なら100ボルト、交流なら最大値が141ボルトの電圧が必要になります。
これでは取り扱い上不便なので、交流141ボルトを 実効値 100ボルトの電圧と表記します。
交流電圧計は最大値の約1.41分の1の値で目盛られています。
送電の話に戻しますと、上記の説明で解るとおり、 100万ボルトの超高圧送電線を直流で送るときには送電線を支える鉄塔や碍子は100万ボルトに耐えれば良かったのに、 交流で送るときには141万ボルトに耐えなければならなくなり、建設費が余計に掛かります。(碍子はセラミックなどで作られている電線を支える絶縁器具です)

実際は、直流送電と交流送電の良いところを組み合わせて使っています。
絶縁が保ちづらく、コンデンサー損失が無視できない長距離区間は、交流を直流に変換して直流送電にし、その区間が終わると、直流を交流に変換して交流送電にします。