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ACアダプターの仕組みと整流回路

ラジオや小さなアンプ(スピーカー・一体型)などに使われているACアダプターを例に交流から直流を得る方法を説明します。
携帯電話の充電器やノートパソコン、テレビ、カーナビ、パソコンの周辺機器などのACアダプターは、ノイズが残ってもかまわないので、 ここで説明するACアダプターとは仕組みが異なり、重量が軽く、コストの安いスイッチング方式です。
スイッチング方式のACアダプターについては、 ⇒ 携帯電話用充電器の仕組み を参照してください。

先ず、電灯線の交流100Vから電圧の低い交流を取り出すためにトランス(変圧器)を使います。
変圧器は特殊な薄い鉄板を重ねた鉄芯にエナメル線(絶縁のために塗装した細い銅線)を何百回、何千回と巻いた コイルが一つ以上で作られたものです。

変圧器の原理は、コイルの近くで磁石を動かすと電気が起きる電磁誘導を利用し、一つのコイル(一次コイル)に交流電気を流し、 磁界の向きが1秒間に50回(東日本)或いは60回(西日本)変わる磁界を作り、同じ鉄芯に巻かれた別のコイル(二次コイル)に電磁誘導によって交流電気を発生させます。
このとき、二次コイルに発生する電圧は、一次コイルの巻き数と二次コイルの巻き数の比となります。
例えば、家庭用電灯線に繋ぐ方の一次コイルの巻き数を500回、二次コイルの巻き数を1000回とした変圧器を作れば、 500:1000=100:200となり、二次コイルには200ボルトの電圧が発生するので、200V仕様の海外電気製品を使うことが出来ます。
この変圧器の一次コイルに200Vの電気を繋げば、二次コイルには100Vの電気が起きるので、 200Vが供給されている国では日本国内向けに作られた100Vの電気製品を使うことが出来ます。
外国に長期滞在する方は、国内向けのラジオやパソコンを使うために変圧器を使う方が居ます。

ここからは、乾電池3個分の4.5Vの直流電圧を得るというACアダプターを例にして話を進めます。
後に述べる理由によって、変圧器で100Vの交流を6Vの交流に変換します。
交流電圧・電流の波形は下の図のようになっています。
交流の波形
次に6Vまで下げた交流電気を直流に変換します。
これを整流と言い、上図の波形で、0Vから上のプラス側だけ、或いは下のマイナス側だけの電気を取り出します。
これには整流器、すなわち半導体素子であるシリコン・ダイオードが多く使われています。
ダイオードは、非常に純度の高いシリコンに不純物を加えて、シリコン原子の一番外側にある電子(価電子)の数を、一つ多いN型半導体、一つ少ないP型半導体を作り、この2種の半導体を接合させたものです。
接合面は、価電子が一つ多いN型半導体と一つ少ないP型半導体が電気的な中和を起こして電荷(電気)を帯びていない部分になります(この部分を空乏層と呼ぶ)
空乏層を挟んでN型半導体とP型半導体に電圧をかけると一方向にしか電気が流れないダイオードになります。
整流器は、昔は小電力用には半導体のセレン整流器、真空管の2極管、大電力用には真空管の一種である水銀整流器が使われていましたが、 最近は電車の直流モーターを動かすような大電力用にもシリコン・ダイオードが使われています。

交流電気をシリコン・ダイオードに通すと下のような波形の電気が得られます。(プラス側だけ取った例)
半波整流回路の波形
これで交流から直流が得られましたが、交流電気の1周期の半分しか電気が使われていないので勿体無いですね。
それに、この方法では、半分の時間が0Vになっています。このように交流電気の半分しか整流していないので半波整流と呼びます。
この電気でラジオを鳴らそうものなら、東日本の場合なら50分の1秒ごとに0Vの時間が100分の1秒間あるので、声や音楽がボコボコとなってしまいます。
整流器が高価だった頃は、後に述べる方法で回避したのですが、現在では整流器をもう一つ、または3つ使って、 一つの整流器では利用できなかった部分も利用して電気が途絶える部分を少なくしています。
実際の電気回路は後回しにしますが、複数の整流器を使って得られた電圧の波形は下図のようになります。正弦波を0の基線から上に折り返した形ですね。
全波整流回路の波形
この整流を全波整流と呼びますが、これでも電子機器の電源には使えません。電気の流れていない時間は一瞬になりましたが、電圧の低い部分があるからです。
ラジオなどの音響機器に使うと、100ヘルツまたは120ヘルツの「ブーン」という音(ハム音)がしてしまいます。
そこで、全波整流した電気に電解コンデンサーを並列に入れます。
コンデンサーは絶縁物を金属板で挟んだもので、電圧をかけると電気を蓄え、掛けた電圧が下がってくると電気を放出する働きがありますから、電圧の高いときに充電して低くなったら放電して波形を平らにします。山を崩して、その土で谷を埋める訳です。
下の図は交流6Vを全波整流する回路に100マイクロファラッドの電解コンデンサーを接続して100オームの負荷抵抗を接続したときの電圧の波形です。
全波整流回路の後にコンデンサーを入れた波形100
変動が少なくなってきましたが、もう少し変動を抑えたいですね。
変動が残っているのは、電圧が低くなったときにコンデンサーが供給する電流が少ないためですから、コンデンサーの容量を増やしてみましょう。
下の図は470マイクロファラッドにしたときの電圧波形です。
全波整流回路の後にコンデンサーを入れた波形470
ACアダプターの入力端子があるラジオなどなら十分な変動に収まりました。
もっと変動を少なくしないとハム音が出たりしますが、ACアダプターを使えるものはその内部回路で、電圧が低くなった値以上の部分は抵抗などで消費させるという形で変動を抑えています。
ACアダプターは下の回路図で作れます。
ACアダプターの回路図
変圧器は、全波整流するために、必要な電圧の2倍得られるコイルの中間から線を出したもので、中間から出した線を基準にすると、電圧は同じで位相が180度異なる電気が得られます。
コンデンサーC1は整流時に生じる高周波電流を外部に出さないためについています。コンデンサーC2は、電解コンデンサーで、電圧の変動を少なくするためについています。 通常、この後に電圧安定化回路が付きますが、このままの電源回路でオーディオアナログアンプのように増幅回路にプッシュプル回路が使われている回路の電源にするときには電流が電源方向に流れる瞬間があるので、その電流を吸収するためにもコンデンサーC1やC2が必要になります。電圧安定化回路を付けたときはその後に大容量の逆電流吸収用のコンデンサーを入れます。
なお、 整流用のダイオードD1かD2のどちらかを除くと、単波整流回路になります。

上記の全波整流回路はトランスの2次側が希望する電圧の2倍になる巻き数の中間から線を出さないと使えません。
そこで、ダイオードを4本使って下図の様にすると2次側から中間電極が出ていない変圧器でも全波整流が出来ます。
ブリッジダイオードによる整流回路図
上図赤い四角で囲った部分はダイオード4本で作ることが出来ますが、放熱板に取り付けやすい容器にダイオード4本組み合わせて入れてあるブリッジダイオードを使うのが簡単です。
ブリッジダイオードからは導線が4本出ていますが、交流を入力する端子2箇所には「~」が、直流出力には「+」、直流出力「−」が印刷または刻印されています。