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低周波・高周波用電子スイッチの原理

ラジオやテレビ、ステレオなどの電子機器には、音声や画像、ビデオなどの入力端子が幾つもあるものが多く、それらに外部機器を接続しておくと、 軽く押すだけのスイッチやリモコンで自由に入力が切り替えられます。
また、ラジオでAM放送とFM放送を切り替えるのも軽くボタンを押すだけで切り替わります。
何十年も前なら、高級機であっても上記の切り替えは機械的なスイッチが使われていて、リモコンで替えられても本体ではモーターで機械的なスイッチを動かしたり、 電磁石を利用してスイッチを動かすリレーが使われていた部分です。
この部分は今では電子スイッチが使われています。
電子スイッチと言っても難しいものでは無く、「シリコンダイオードやトランジスターは0.6~ 0.7V程度の順方向電圧を掛けないと電流が流れない」という性質を利用した単純なものです。
下図がその回路を簡略化したものです。
電子スイッチの原理
フリップフロップは記憶回路で、右側の端子「S」に電圧を加えるごとに、左側の出力端子「1」に電圧が出たり出なかったりします。
最初、出力端子「1」に電圧が出ていない状態とします。
すると、トランジスターのベースは0Vになりますから、トランジスターのコレクターとエミッターの間には電流が流れません。
その結果、入力端子からコンデンサーを通して入ってきた0.6Vより小さい交流信号はダイオードを通れないので出力端子に出て来れません。
このときのダイオードは上図の右、赤い四角で囲った図の下と同じで、抵抗とコンデンサーが入っている状態です。
次は、スイッチを押します。すると、フリップフロップの「S」端子に電圧が掛かるので、フリップフロップの出力端子「1」に電圧が出ます。
その結果、トランジスターにはベースから電流が入り、コレクターとエミッターの間にも電流が流れ出るので、ダイオードと抵抗2を通って流れます。
このとき、入力端子からコンデンサーを通ってきた信号はダイオードを流れている電流に加わってダイオードを流れることが出来ます。このときのダイオードは抵抗と考えられます。
ダイオードを通った直流は出力端子に繋がるコンデンサーを通ることは出来ませんが、 入力端子から入った信号は抵抗2の両端に現れる電圧を変化させているので変化分がコンデンサーを通過して再び交流の信号として出力端子に出てきます。
再び、スイッチを押すと、フリップフロップの「S」に電圧が加わり、出力「1」の状態を変えて電圧が出なくなり、 トランジスターのコレクターとエミッターの間を不通にしてダイオードに電流が流れ図、信号もダイオードを通れなくなります。

問題は、入力から出力に出る信号を切断したいときです。
機械的なスイッチの場合は、信号はほぼ100%遮断できます。
しかし、ダイオードを使った場合には、ダイオードに電流を流さない状態では、PN接合面にコンデンサーが出来るために高い周波数の交流信号が通過してしまいます。
そのために、PN接合面が作るコンデンサーの容量が少ないものがスイッチング用ダイオード(PINダイオード)して開発されています。
スイッチング用ダイオードでもコンデンサーの容量が大きい場合には、ダイオードを2本以上直列接続にして使います。 こうすると、コンデンサーが直列接続になったのと同じですから容量が少なくなります。

もちろん、音声やビデオ用の電子スイッチ回路はLSI化されているので、汎用回路で個別部品で作ることは少ないと思いますが、テレビアンテナをアンテナマスト上で切り替えたりする工作には使えます。この場合はフリップフロップやトランジスターを使う必要は無いですから簡単です。
長中波用のアンテナの切り替えなら汎用ダイオードでも使えます。
性能本位でしたら、高周波回路用にコネクター(SMA, SMB, BNC,Nなど)に組み込まれたものが市販されています。