インピーダンスとは,不整合損失の求め方

電気のインピーダンスZというのは、R+jB という複素数の形で表される交流電流の抵抗です。
ここで、“j”というのは、数学で虚数を表すときに使う記号“i”と同じ意味です。電気では電流を“i”で表す慣習がある為に“j”を使います。

電気部品の中には電気を蓄える働きのあるコンデンサーと、電気を磁気エネルギーとして蓄えるコイルがあります。
コンデンサーは2枚の電極で絶縁物をサンドイッチ状に挟んだものですから、理想的なコンデンサーでは、2枚の極板に直流電気を加えても電気は流れません。
コイルは、銅線のように電気が良く通る金属線を環に巻いたものですから、理想的なコイルに直流電気を加えても電気を通すだけです。
直流電気を掛けた直後の現象についての詳細は別の機会に譲る事にし、 今号で重要なのは交流電圧を掛けて定常状態での現象です。

コンデンサーに交流電圧をかけると電流が流れます。対向した2枚の電極板間を流れる電流は、電極板の間に電流計を入れても測れませんが、変位電流といわれます。
一方の電極と電源を結ぶ導線の間に電流計を入れれば測れます。この電流は 電導電流 といいますが、位相はコンデンサーに掛けた電圧より90度進みます。
位相とは、周期的に変化するものの或る一点(例えば、振幅が0になる点や最高になる点)に着目した時に周期は変わらずに その一点が時間軸に対してどれだけ動いたかを、0~360度の範囲で測ったものです。
1サイクル(1周期)ずれると360度位相がずれたことになります。
コイルに交流電圧をかけると電流は電圧より90度遅れます。

電気関係の計算では、位相を含めて扱うので 複素数 を使い、電気抵抗とも言える交流電流の通り難さをインピーダンスと表すのです。
例えば、コイルのインピーダンスZは
Z=R+jωL
ω=2πf
で表されます。
ここで、Rはコイルを作る銅線の直流での抵抗、 Lはコイルのインダクタンス(コイルの能力を表す値と思ってください)
πは円周率、fは流す交流電気の周波数

さて、テレビや携帯電話、パソコンなど、全ての電子機械は多くのコンデンサーやコイルを組み合わせていますが、 マイクロホンやイヤホン、アンテナなどを接続する入出力端子から本体部分を見れば、電子機械の内部がどうなっていようと、入出力端子から見たインピーダンスが重要になってきます。
というのも、電子機器の出力端子の出力インピーダンスと、その信号を受ける機器の入力インピーダンスが合わない場合には、信号が反射されて出力機器に戻ってしまうからです。
インピーダンスの異なる部分を繋いで信号を送ると反射が起こるのは 分布定数回路 で解析が必要な高周波電流を扱う上では重要なのですが、 インピーダンスを単に電気抵抗とみた場合でも別の意味で重要です。
例えば、携帯電話のイヤホン端子のインピーダンスを8Ω、その端子に挿し込むイヤホンは3種類用意しました。
イヤホンAは入力インピーダンス4Ω
イヤホンBは入力インピーダンス8Ω
イヤホンCは入力インピーダンス16Ωです。
どのイヤホンが一番大きな音を出すことが出来るでしょうか?
答えは計算すると判ります。
携帯電話のイヤホン端子からは、Eボルトの信号が出ていると仮定すると、イヤホンに流れる電流Iは、 I=E/(Zo+Zi)
但し、Zoは携帯電話のイヤホン端子の出力インピーダンス、 Ziはイヤホンの入力インピーダンス、
計算結果Iから、イヤホンで消費される電力Wを求めるには電力は抵抗掛けるその抵抗を流れる電流の二乗ですから、  W = I * I * Zi
E=1として実際に計算しますと
イヤホンAは 0.027、 イヤホンBは0.031、 イヤホンCは0.027
ここでは、イヤホンから大きな音が出るということは、それだけ電力を消費すると考えると、 携帯電話のイヤホン端子の出力インピーダンスと同じ値を持つイヤホンの場合が一番大きな音が出る事が判ります。
100円ショップのダイソーで売られていたラジオ(確か300円)の説明書には、専用のイヤホンでないと音が小さくなると書かれています。
製品の説明書きを見ると、別売りの専用イヤホンは入力インピーダンスが普通に売られているイヤホンより高くなっていました。
これは、音声信号を増幅する電子回路の出力インピーダンスが高いのに、部品代をケチる為に回路を簡略化し、インピーダンス変換を行っていないのです。昔々のラジオにはこの手法が多かったです。

インピーダンスが異なる部品を繋ぐとそこで電気信号の反射が起こります。このときに重要なのが 波動インピーダンス といわれるものです。
波動インピーダンスは、アンテナとテレビ受像機間を繋ぐケーブルの様に送る信号の周波数が高くなり、 (テレビ電波がアンテナで高周波電流に変換されて受像機に送られる)信号を流す導線がコイルやコンデンサーになってしまう場合に重要な概念です。
僅か数mmしか長さがない銅線がコイルやコンデンサーになってしまう回路を、“分布定数回路”と呼びます。
分布定数回路で身近なのは、アンテナとテレビを繋いでいるケーブルです。このケーブルを同軸ケーブルと呼びます。
中心に銅線、その周りに絶縁物として発泡ポリエチレン、その外側を、銅の網かアルミ箔で覆い、更にその外側をビニール樹脂等で覆っています。
電気的には、中心にある銅線は、無数の抵抗とコイルが直列に繋がって出来ていると考え、中心の銅線と外皮銅網(アルミ箔)の間には無数のコンデンサーと抵抗が並列に入っていると考えます。
同軸ケーブルの場合には、高周波信号を送るのに重要な波動インピーダンスZは、
Z=138/√(k)×log(D/d)
で近似的に求められます。但し、kは中心の銅線と銅網の間に入っている物質の比誘電率。Dは銅網が作る断面の直径。dは中心の銅線の直径。

同軸ケーブルが持つ波動インピーダンスを同じ波動インピーダンスの値を持つケーブルや機器に接続した場合には、信号がスムーズに流れます。
このときは、中心の銅線と銅網の間に電界が閉じ込められ、外部に電波が漏れたり、外部から電波を拾う事はありません。
しかし、値が合っていないと反射が起こります。

反射が起こると
  • 入力した信号(進行波)と反射した信号(反射波)が合成されて信号が乱れる
  • 反射波が大きい場合には主力側の電子回路を壊す畏れがある
  • 想定した電力が伝わらない
等の問題が起きます。

電圧定在波比(VSWR)の求め方

出力インピーダンスZaを持つ部分と入力インピーダンスZbを持つ部分を繋げて信号を流した場合の反射する割合は電圧比で表せば
電圧反射係数k= (Za-Zb)/(Za+Zb)
電圧定在波比(VSWR)Sは、電圧反射係数kを使って
S=(1+|k|)/(1-|k|)
となります。|k|はkの絶対値をとる

不整合損失の求め方

波動インピーダンスが合わないために生じる不整合損失 Mは、 電圧定在波比(VSWR)Sを使って
M=(1+S)^2/(4S)
となります。 (1+S)^2 は(1+S)の二乗を表します。

ちょっと例を出し て計算してみましょう。
山奥に住むA氏は、自宅では携帯電話が圏外になってしまうので、携帯電話に強力なアンテナを付けることにしました。
でも、アンテナが手に入らないので見よう見まねで自作することに。
やがて、恰好良いアンテナが完成、A氏は知らないが、一部始終を見ていた神様が測ったところ、この自作アンテナの入力インピーダンスが10Ωと判明。
さて、携帯電話の出力インピーダンスは50オーム、高周波出力1Wです。
A氏の自作アンテナからは何ワットの電波が出るでしょうか。
アマチュア無線の無線従事者資格試験に出そうな設問ですが、アンテナとテレビを繋いでいるケーブルを繋いだ場合は、このケーブルのインピーダンスは
75Ωなので、電圧反射係数kは、k=(50-10)/(50+10)≒0.666666
電圧定在波比(VSWR)Sは、S=(1+|k|)/(1-|k|)=5
不整合損失Mは、M=(1+S)^2/(4S)=1.8
したがって、アンテナから放出される電力Poは
Po=P/M=1/1.8≒0.5555
A氏の自作アンテナからは、最大でも携帯電話が出す高周波電力の半分強しか放出されない事になります。
以上述べてきましたように、電気関係ではインピーダンスを合わせるということは重要なのです。