無線LANに付ける簡単な外部アンテナを考える

家庭用の無線LANシステムに付ける外部アンテナを考えてみました。
最初に断っておきますが、頭の中で考えただけです。その理由は後述します。
無線LAN機器の中には、外部アンテナを接続できるものがあります。
市販されている専用アンテナを付ければ飛躍的に通信距離が伸びるかも知れません。
特にカード式の子機を使用している場合には、パソコンを置く位置と電波が良好に伝わる位置を切り離して自由に選べるので、外部アンテナを使わないときよりは高速で通信が出来るでしょう。
では、自作するとしたらどんなアンテナが良いでしょう。

線状アンテナ

最も簡単なものは、モノポール(またはユニポール)・ アンテナです。
モノポール系で一番簡単なのは、下図のように、テレビとアンテナを接続するのに使う同軸ケーブルの中心にある銅線を、使用する電波の波長の4分の1だけ出したものです。
モノポールアンテナ
電波の波長は電波が1秒間に進む距離約30万kmを周波数で割ると求められます。
2.4GHz帯(2412MHzから2472MHz)を使う無線LAN機器の場合は、中心周波数をとって300000km÷2442MHzで約12.29cmとなり、その4分の1は約3.0cmとなります。
アンテナ端子に同軸ケーブルを繋いで、その端から中の銅線を 3cm出しただけですが、アンテナです。
5GHzの無線LAN機器の場合には長さは約1.5cmでますますアンテナらしくなくなってしまいます。(アンテナと同軸ケーブルとのインピーダンス整合は考慮していません)

モノポールというのはダイポールに対して付けられています。
モノポールアンテナの芯の銅線を90度折り曲げ、同軸ケーブルの外皮銅網線やアルミ箔に長さ3cmの銅線を接続して、 折り曲げた芯線と180度を成す角にすると、入力インピーダンスが約75オームのダイポール・アンテナになります。
ダイポールアンテナ
入力インピーダンスは交流回路の抵抗で、出力側と入力側のインピーダンスが等しいときに送れる電力が最大になります。 (高周波電流を流した場合には、インピーダンスが合っていないと送った電流が反射して入力端に戻り、最悪、送信回路を壊してしまいます)

上記のような簡易接続のダイポールアンテナも同じなのですが、モノポールアンテナは同軸ケーブルの外皮に高周波電流が乗ってしまいます。
同軸ケーブルは高電位の芯線とそれを取り囲んでいる低電位の外皮との間に電界を閉じ込めているので、芯線だけを露出させると、不平衡状態が崩れてしまうからです。
そこで、アンテナの基部分で外皮を接地します。しかし、高い周波数になると接地出来なくなるので、同軸ケーブルの外皮部分を4分の1波長の長さで折り返します。
スリーブアンテナ
こうすると、外皮部分に高周波電流が流れなくなります。
この理由は簡単で、折り返した外皮のアンテナ基の反対端は何にも繋がっていないので電流はゼロ、電圧は最大になっています。
高周波電流がアンテナ上を正弦波様に流れていると仮定すると、この端から4分の1戻った部分(折り返した点)では電流が最大、電圧は ゼロになっています。
抵抗は、電圧÷電流なのでゼロになります。すなわち短絡していますからその先に電流が流れません。
このアンテナをスリーブ・アンテナと呼び、露出させた芯線と折り返した部分の長さを変化させると、アンテナの入力インピーダンスを変化させることが出来ます。

アンテナ基部で外皮を折り返さないで外皮を切り落とし、外皮に4分の1波長の電導線を数本付けて、芯線と90度の角度を成すように四方に広げると、 ブラウンアンテナ と呼ばれるものになります。タクシー無線などに使われていますが、自動車側は車体を接地板にしていますから、棒が1本立っているだけです。
ブラウンアンテナ
話が無線LANからそれましたが、カード型の子機で、アンテナ端子が付いているものをお持ちの方は、モノポールアンテナを持っていると好都合です。
と言っても、市販品を求めるのは良いですが、自作して無線LANに接続してはいけません。電波法に触れます。

今回の内容はあくまで話だけです。
無線LANが繋がらない、通信速度が遅いという理由には、電波が弱い、同じ周波数の電波を使っている他の無線機器や電子レンジに妨害されているという理由が考えられます。
このような場合は、希望する方向からの電波を強く受信できる八木アンテナを使うのが一案です。
八木アンテナはテレビ受信用のアンテナに多い型なのでご存知かと思いますが、使用する電波の周波数の2分の1波長より若干短い金属棒を何本か並べた後ろに、 ダイポールアンテナを付け、その背後に2分の1波長より若干長い金属棒を置いたものです。

電波の反射を利用したアンテナ(開口面アンテナ)

しかし、無線LANのように使用する周波数が高くなると、光と同じように扱うことが手軽に出来るようになります。
光が放物面鏡で集められるのは周知ですが、電波も金属で作られた放物面で集められます。
電波が集まる位置に、無線LAN機器の外部アンテナ端子に繋いだモノポールやダイポールアンテナを置けば、希望方向から飛んでくる無線LANの電波を何十倍も強く受信したり、 逆に強く送ったり出来ます。(衛星を利用した通信用パラボラアンテナや電波天文学で使う電波望遠鏡には、金属板や金属網で作ったパラボラとダイポールアンテナを組み合わせたものがあります。)

USB接続タイプの子機をお持ちの方は、電波が集まる位置に子機を置きます。
衛星放送受信用アンテナと同じパラボラアンテナですが、無線LANの使用周波数は衛星放送のそれより低いので、面の精度はよくなくてもいいのですが、 パラボラのアンテナの直径は1m以上欲しいところです。
直径が1mの放物面なんて作れないという方は、性能は落ちますが、もっと簡単な方法があります。
2.4GHz帯の無線LANをご使用の場合は、横50cm、縦16cmのダンボール板か厚紙と台所で使うアルミ箔を用意してください。
先ず、ダンボール板の片面にアルミ箔を貼ります。
次に、アルミ箔を貼った面を内側にして真ん中で90度に折り曲げます。
そして、アルミ箔を貼った面の方を親機からの電波が飛んでくる方向に向けます。
電波は90度に折り曲げた2等分線上の折り曲げた部分に近いところに集まるので、ここに、モノポールやダイポールアンテナ、USB接続の子機を置きます。
コーナレフレクターアンテナ
アンテナを向ける方向、モノポールやダイポールアンテ ナなどを置く位置は受信状態を見ながら最良点を探します。
このアンテナはコーナレフレクター・アンテナと呼ばれるもので、巧く作れば送受信能力は10倍も向上します。 但し、子機内部のアンテナのインピーダンスが下がるために不整合損失が増えますから、たぶん10倍には届きません。
無線LANの親機や子機に外部アンテナに接続する端子が付いている場合には、コーリニアアレイアンテナも使えます。針金で作った簡単なものでもレフレクターアンテナ以上に使えます。

効果なほどは判りませんが、妨害電波を防ぐだけなら、妨害電波が飛んでくる方向と無線LAN機器の間に大きなアルミシートを貼ってしまうことです。
例えば、木造アパートにお住まいで、隣室でも無線LANを使っているというときには、隣室の間の壁に、ホットカーペットの下に敷いて床に熱が逃げないようにするアルミシートを貼ってみるとか。 薄っぺらいものが百均ショップで210円で売っていました。
アルミシートで送受信能力を高めることも出来ます。
アルミシート:親機 ⇔ 子機:アルミシート
という配置にすれば、子機や親機の反対方向に飛んでいってしまう電波が、アルミシートで反射してアンテナに当たるので多少ですが、改善が見込めます。 (理論的にはアンテナの虚像が1本増えるので2倍になります)
また、光を鏡に反射させて方向を曲げるように、周波数が高い電波になると、鏡の代わりに比較的小さな金属板を置いて曲げることができます。 マイクロ波回線では無給電中継機と呼ばれています。

さて、無線LANに自作アンテナを付けると法律に触れる理由です。
無線LANの無線機器は、アンテナを含めて無線機器が「技術基準適合証明」を受けているので、誰でも申請などの手続きをせずに使えます。
アンテナの自作或いは自作部分を付加、市販アンテナの改造、無線機器本体のケースを開けるなどをすると、技術基準適合証明の効力が失われて、不法無線局の開局に当たります。
受信するだけならどんなアンテナや機器を使おうと自由ですが、無線LANの機器はパケットを送信するので違反になり、 ソフトウェアーで受信専用に変更しても、設定を変更するだけで容易に送信状態に変更できるので違反になります。
直ぐに使える状態の、無線局免許の要る無線機、無線従事者資格の必要な無線機を持っていると取締りの対象になります。
違法無線局の開局が許されるのは、自身や他人の生命財産を守る手段が無線局の開局しかないと思われたときです。
電波は小出力でも遠くまで届く便利なものなので、 電波が届く範囲を必要最小限にして、電波の便利さを出来るだけ多くの人と享受しようというのが電波法の趣旨です。