コイルの自己誘導現象を利用して点灯させていた蛍光灯のしくみ

最近の照明器具は省エネ機運の盛り上がりでLEDが多く使われ、LEDの前はインバーター式の蛍光灯が使われていました。
インバーター式蛍光灯は、比較的高い周波数の交流を作って小型トランスで昇圧して蛍光管を点灯させるものです。
インバーター式の前は、蛍光管、点灯管、安定器、スイッチ、テレビやラジオに妨害を与えないための高周波電流バイパス用コンデンサー、という極めて簡単な構造の蛍光灯が使われていました(今でも簡易的な照明や安価な物は使われています)

今回取り上げるのは、もっとも古いタイプの蛍光灯照明器具で、 下図はその回路図です。
従来型蛍光灯照明器具の回路図
蛍光管の内部には 水銀とネオンやアルゴンガス が入っていて、ガラス管の内側には紫外線で白色光を出す蛍光物質が塗ってあります。
そして、管の両端にはフィラメント(電気を流すと熱くなる)が付いています。

点灯管は“グロー管”とも呼ばれ、蛍光灯を点ける時に青く光る物です。
内部に は温度によって曲がる バイメタル という物が作るスイッチと、ネオンやアルゴンガスが入っています。
バイメタルは温度によって膨張する割合が違う2種の金属を背中合わせに貼り付けたものです。
同じ温度でも張り合わせてある金属の膨張率が違うので、温度が高くなると膨張率が高い金属が大きく伸び、膨張率が低い方に曲がります。
常温では、バイメタルで作られたスイッチは開いていて電気を通しません。

安定器 は外部から見える所にはありませんが、鉄心にエナメル線(細い銅線にエナメル塗装をして絶縁したもの)を数千回以上巻きつけた、一辺が4,5センチメートルほどの四角い物です。
理科の授業で作った電磁石みたいなものですが、磁力が外部に漏れないように鉄心が輪になっています。
安定器は磁力が外部に漏れないようになっているのが重要です。

スイッチは、説明するまでも無く普通のスイッチです。
で、“蛍光管両端のフィラメント”“点灯管”“安定器”“スイッチ”は直列に接続されて家庭用電灯線100ボルトに繋がっています。
蛍光管を点灯するためにスイッチを入れると、点灯管内部のバイメタルで作られたスイッチの電極の間で放電が始まります。
スイッチの電極間は1ミリメートルほどで狭く、ガスが入っている為に100ボルトの電圧でも放電を始めます。
青く光っている時です。
放電すると熱を出し、バイメタルが熱くなり、バイメタルは曲がりスイッチを閉じられます。
すると、蛍光管の両端のフィラメントに電気が流れ、フィラメントは熱を出します。
その結果、内部の水銀は蒸気になり、ネオンガスなども活性化されます。その間にバイメタルは冷めて、バイメタルで作られたスイッチは元に戻り開きます。 電気を流さなくなります。
直列に繋がっている安定器にも電気が流れなくなりますが、その瞬間、安定器の内部にたまっていた磁力が電気に変わり、瞬間的ですが、高い電圧が発生します。
この高い電圧は蛍光管の両端のフィラメントにかかり、ガスが活性化されて放電しやすくなっている蛍光管を放電させます。
一度放電状態になると、それ自身が放出する熱で放電しやすい環境を作るために100ボルトで放電が続きます。

ここまでの蛍光灯の説明で注目することは、 鉄心にエナメル線を巻いただけの安定器が電気を蓄えていたという現象 です。
スイッチを開いた衝撃で高い電圧が出たという解釈は間違いです。
なぜなら、スイッチを開けばその瞬間に電気の供給を断たれ、高電圧を生み出すエネルギーの源は安定器に求めるしかないのですから。

それではどのくらいのエネルギーが蓄えられているか考察してみましょう。
エナメル線をなどを巻いた物をコイルと言いますが、(安定器もコイルの一種)コイルに電源を接続する前は、コイルに流れる電流は0アンペアーです。
(電流の単位はアンペアーと言います)
電源を接続して十分時間が経った後に流れている電流をIアンペアーとします。

コイルを流れる電流は電源を接続した瞬間に0からIアンペアーにはなりません。
自己誘導 ”という現象が邪魔をして徐々にIアンペアーになっていきます。

ここで、自己誘導の説明をしておきます。
磁石の近くで金属のような電気が通る物体を動かすと電気が起きる現象をご存知でしょうか。
この現象は“ 電磁誘導 ”と呼ばれますが、自転車に付いている発電機から原子力発電まで、殆どの電気は電磁誘導によって起こされています。

電磁誘導を踏まえて、電線甲に電気を流す場合を考えてみます。
電線に電気を流すと磁石のような力が働く場が出来ます。(磁束が通っている場といいます)
電磁石で経験的にお解りと思います。

ところがです、電磁誘導現象では、磁石のそばにある電線を動かすと電気が起きるのですから、 電線甲にも自分が作った磁力によって電気が起きてしまいます。
この場合、電線を動かすことに相当するのは、電源から電線に供給する電気の変化になります。
この現象を自己誘導と言います。
自己誘導によって起きる電気の流れる向きは、電源から電線甲に流している電気と逆向きです。
同じ向きでしたら、コイルに供給する電気より出る電気が多いという有り難いことになるのですが、無から有を生じるのは哲学ぐらいで。

自己誘導の強弱は自己インダクタンスと呼ばれ、単位はヘンリー(H)で、コイルに誘導される電圧をコイルに流れる電流の変化割合で割ったものです。
自己インダクタンスL=コイルに誘導される電圧V / コイルに流れる電流の変化割合(A/S)
この式をコイルに誘導される電圧Vを求める式に書き直すと
V=L×コイルに流れる電流の変化割合(A/S) ・・・式1

V=L×コイルに流れる電流(A) /時間(S)
となります。

蛍光灯で点灯管のバイメタルで出来たスイッチが切れた瞬間に安定器に誘導される電圧を求めてみましょう。
安定器の自己インダクタンスを50ヘンリー(H)
安定に流れている電流を1アンペアー(A)とし、 この電流が0.01秒で0になったと仮定すると
V=50×1/0.01=5000
となります。
短時間ですが、5000ボルトという高い電圧が蛍光管の両端にかかるために蛍光管は放電を始めることになります。

話をコイルが蓄えるエネルギーの考察に戻します。
コイルに電源を接続した時点から、コイルに流れる電流は自己誘導による逆向きの電流によってIアンペアーになるまでT時間かかると仮定します。
計算を簡単にするためにコイルを流れる電流は、0からIアンペアーになるまで直線状に変化する(仮定1)
コイルには抵抗が無く完全に電気を通す(仮定2)とします。

ここで、時間0からT時間までの任意の時間tの瞬間を考えてみます。
コイルに流れる電流はi、コイルの両端の電圧vです。
電力はPは電圧×電流で計算できるので
時間tの時に電源からコイルに流れ込む電力pは

p=v×i        ・・・式2

このときのコイル両端の電圧vは、式1で表される自己誘導で起きる電圧です。
なぜなら、コイルを作っている電線(エナメル線)が抵抗無く電気を通すと考えると自己誘導による電圧しか考えられないからです。

自己誘導によって起きる電圧は式1の
V=L×コイルに流れる電流の変化割合(A/S) ・・・式1
で表されますが、0からIアンペアーになるまで直線状に変化する(仮定1)としたのでコイルに流れる電流の変化割合(A/S)は一定で、自己インダクタンスLも変化しないので0からT時までの間のコイル両端の電圧vも一定です。
それを判りやすくするためにvを大 文字のVとして式2は
p=V × i   ・・・式3

さて、ここで読者の皆さんには折り込みチラシ裏にでもグラフを書いてもらいたいと思います。
縦軸は電力で0からPまで、横軸は時間で0からTまでです。
そのグラフに原点から右肩上がりの直線を引いてください。 傾きは適当でよいです。
グラフ P=V*i
この右肩上がりの直線が式3で、時間tの時に電流iとしてコイルに流れ込む電力を表しています。
イルに電源を接続してからT時までの間(電流は0からI)にコイルに流れ込む全電力量Sは式3 p=V×i を時間0からTまで積分した値になります。
積分と言うと難しいですが、先に描いてもらったグラフで、縦軸の時間Tの点を右肩上がりの直線まで垂直に伸ばして出来る三角形の面積です。
三角形の面積は、底辺×高さ÷2ですからら
底辺の長さは、TT
高さは、PP
全電力量S=T×P÷2   
高さPは、時間Tの時にコイルに流れ込む電流Iとコイル両端の電圧Vの積なのでで
全電力量S=T×I×V÷2   ・・・式44
また、コイルを流れる電流は、T秒間に0からIアンペアー変化しているのでコイル両端に現れる自己誘導起電力Vは式1からら
V=L×I/T   ・・・式55
式4に式5を代入して整理するとと
全電力量S=L×I×I÷2 (W・S))
で表されます。。
コイルに流れ込む全電力量Sは、コイルが作る磁力となって保存されます。。
これを電磁エネルギーと言いますが、 電磁石のように物を引き付ける力として利用すれば減りますし、 コイルの外部に漏れてしまっても減ってしまいます。。

蛍光灯の安定器の場合は、家庭用電源である交流が接続されているので、流れる電流は常に変化しているので、流れ込む電力を電磁エネルギーとして蓄えたり、電気として放出したりを繰り返しています。
そのため、 損失がまったく無い安定器ならば安定器で電力が損失することはありません。
実際には、巻いてあるエナメル線の直流抵抗、鉄心での磁力の損失、磁力の漏れなどがあるため、数ワットから数十ワット程度の損失があります。

話は蛍光灯から離れますが、扇風機の電源をオン・オフした時にテレビやラジオにノイズが入ることがありますが、これは扇風機のモータを構成しているコイルに蓄えられていた電磁エネルギーの一部が電磁波(電波)となって放出されたものです。
この他、火花が出た場合も同様です。
火花と言えば、コイルの自己誘導によって起きる高電圧を積極的に利用している例に自動車などのエンジンがあります。
自動車が電子部品の塊のようになる前の自動車は気化したガソリンに点火するのに使う高電圧は自己誘導によっていました。
変わった使い道では、世界で最初の無線通信機は、自己誘導による火花発信機でした。