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ノートパソコンの熱暴走を防ぐ

パソコンの主要部品をつくっている半導体は、温度が高くなると電気抵抗が小さくなります。
(鉄や銅などは温度が上がると電気抵抗が大きくなる。ここが半導体との違いです。 ⇒半導体とは

半導体に電気を流すと半導体が持つ電気抵抗のために熱を生じて半導体が熱くなり、電気抵抗が下がります。
半導体の電気抵抗が下がると設計以上の電流が流れてしまうために半導体は壊れます。
これを、熱暴走と言います。

パソコンの半導体部品で最も多くの熱を出すのは、CPU(中央演算装置)です。
現在の半導体技術では演算処理を速くするほど多くの電流を必要とするために、発熱量が多くなるのです。
この熱を放散してCPUの温度を下げてやらないと壊れてしまうので、CPUに熱伝導率の良 いアルミ板で作られている放熱器(ヒートシンク)を付け、更にファンで放熱器に空気を送ります。
CPUと放熱器の間が密着していないと熱が放熱器に伝わり難くなるので、その間には放熱用のシリコングリスを挟みます(シリコングリスを塗る)

CPUの発熱量が少ないノートパソコンでは、冷却ファンを使わずに、パソコンの筐体底部に放熱板を付けて自然空冷するものがあります。
自然空冷式ではもちろんですが、強制空冷式でも後述する放熱器が汚れていない場合には、 パソコンの底部を中心に扇風機で起こした風を当ててもCPUの温度は下がります。

上記のような方法をとっても室温の上昇などで放熱効果が薄れてCPUの温度が設定より高くなると、パソコンの電源を強制的に落としてCPUが壊れるのを防いでいます。
夏季など室温が高いときに限って、特に動画など重いアプリケーションソフトを使ったときにパソコンの電源が落ちるときはCPUの温度が高くなっていることが考えられます。

また、放熱用ファンが故障している、放熱器に綿埃がたまっているときには、それほど室温が高くなくても直ぐに電源が落ちてしまいます。
下写真左はディスクトップパソコンの放熱用ファンです。
ファンの奥に放熱器があり、その奥にCPUがシリコングリスを挟んでつけられています。
放熱用ファンは四隅のネジを外せば簡単に外せます。
外したところが下写真中央です。綿埃が放熱器のフィンの間にたまっています。
10年以上無造作に使っていたものでここまで酷くなると室温が30度を超えただけで熱暴走を起こして電源が落ちてしまいます。
放熱器を外して丸洗いをしたいところですが、外すと組み立てるのが面倒になるので、厚紙などでフィンの間の埃を掻き出しただけで済ませました(下写真右)

暑いときに限って電源が落ちてしまうときは放熱器の掃除をしてみてください。

デスクトップパソコンでは容易に筐体が開けられるので放熱器の掃除も簡単ですが、問題はノートパソコンです。
もちろん、修理に出せばよいのですが、放熱器が汚れて放熱能力が落ちるのは保障期間が過ぎてからでしょうから、その前に放熱器が埃まみれにならないようにするのが一番です。
埃まみれになって放熱器の効果が薄れてしまえば、筐体が熱伝導率の悪いプラスチックで作られているノートパソコンでは、下に冷却シートを敷いたり、冷却ファンが組み込まれている台の上に載せても殆ど効果はありません。
(筐体底部の冷却板から放熱する機種では冷却シートや冷却台などは効果があります)

そこで、冷却能力が落ちる前に空気の取り入れ口にフィルターを付けて放熱器が誇りまみれにならないようにしてはどうでしょう。

問題はフィルターの材質です。
目が細かくては空気の通りが悪くて冷却機能が落ちるでしょうし、といって、目が粗ければ空気と一緒に埃が入ってしまいます。
フィルターとし てティッシュペーパーを使い、新品を購入して数日しか経っていないノートパソコンで試してみました。
購入して数日ですから放熱器は綺麗なはずです。
下写真左はノートパソコンの冷却用空気の吸入口です。この機種では吸入口の直ぐ内側に吸入用ファンが付いているのが目視できます。
下写真右は吸入口にティッシュペーパーを貼ったところです。
ティッシュペーパーは2枚を重ねて1枚になっていますが、1枚を2枚に剥がして使っています。

ノートパソコンはGateway NV57H  CPUの温度測定はフリーソフトの SpeedFan
パソコンに加える負荷は、640×480ピクセルのMPEG−2動画15分ファイルを、avidemux でH.264動画ファイルに変換するものです。

室温は30.5度
変換処理前のCPUの温度は、測定ポイントCORE1~CORE4までが30~33度
変換時間はツーパス変換で合計約8分
CPUの使用率90~98%

  1. ティッシュペーパーをフィルターにしたとき
    CORE1~CORE4まで最高温度74度
    処理後全てのポイントの温度が40度以下になるまで56秒
    35度以下になるまで2分19秒  
  2. フィルターなしのとき
    CORE1~CORE4まで最高温度70度
    処理後全てのポイントの温度が40度以下になるまで38秒
    35度以下になるまで1分16秒

いつも何気なく使っているティッシュペーパー1枚を剥がした1枚だけで最高温度が4度も上がり、処理後の冷却にもかなりの差が出ることが判りました。
当然のことですが、空気の吸引量が減ると冷却能力が落ちて熱暴走が起こる確率が高くなり、 といって無造作に吸引させると埃まで吸い込んで長い間には放熱器の能力を落としてやはり熱暴走の確率が高くなってしまいます。
しかし、放熱器の掃除が容易に出来ないノートパソコンでは、熱暴走対策は埃を吸い込ませないようにすることが一番かも知れません。 
それには吸引口に付けるフィルターの改善、暑く埃っぽい所ではパソコンに高負荷を掛けないことです(冷却がより必要になるので空気の吸引量が増え、埃も多く入る)

*追補
百円均一(ダイソー)で売られている「レンジフードフィルター標準タイプ」をノートパソコンの吸引口に貼り付けてフィルターにしてみました。
室温は31.5度
変換処理前のCPUの温度は、測定ポイントCORE1~CORE4までが31~33度
変換時間はツーパス変換で合計約8分
CPUの使用率90~98%

  1. レンジフィルターをフィルターにしたとき
    CORE1~CORE4まで最高温度72度
    処理後全てのポイントの温度が40度以下になるまで41秒
    35度以下になるまで1分55秒
     
  2. フィルター無 し
    CORE1~CORE4まで最高温度71度
    処理後全てのポイントの温度が40度以下になるまで28秒
    35度以下になるまで1分12秒

猛暑の日に冷房無しの部屋での使用には耐えられないかも知れませんが、室温が高くなければ、ダイソーで売られている「レンジフードフィルター標準タイプ」が使えそうです。
特に、調理中の台所や紫煙が多い部屋で使うことが多いノートパソコンでは、空気の吸入口につけるフィルターとしてレンジフィルターの転用は有効かも知れません。 
フィルターの面積を広くすればフィルターの目が細かくても必要な量の空気は得られますが、吸入口が底部にあるノートパソコンでは不安定になってしまうので台まで作る必要がありますし、側部にある機種では巧く作らないと格好が悪くなりますね。