人の細胞の寿命は決まっている、細胞は自ら死ぬ

先日、某健康番組を見ていましたら、『古い細胞から新しい細胞に生まれ変わらせると若々しくなる。だから細胞が死ぬことも大事だ・・・・云々 細胞の新陳代謝を促すためには・・・・云々』
ゲストやスタジオで観覧していたお嬢様たちは例の如く頷いていました。
が・・・・
元来へそ曲がりの私は、テレビに向かって呟きましたねぇ。
『細胞を早く若返らせたら、早く死ぬやんけ』
ひとつの細胞が分裂を繰り返す回数は決まっているというのが定説ですから。
という次第で、今回は細胞死 について調べてみました。

周知のとおり、多細胞生物の場合、細胞の誕生は受精 に始まります。
その後、細胞は成長し(体積を増し)、新しい細胞(『娘細胞 』という)になり、各々の娘細胞も成長し、分裂を繰り返し、人間で言えば100兆個ぐらいの細胞を持つ個体が出来上がります。

細胞が分裂して娘細胞が生まれてから、その娘細胞が分裂するまでの期間を『細胞周期 』といいます。
細胞周期は、大きく4期に分けられます。
  • 第1間期(G1期)
  • DNA合成期(S期)
  • 第2間期(G2期)・・・・DNA量はG1期の2倍ある
  • 有糸分裂期(M期)・・・・染色体を作って分裂する、DNA量は元に戻る
と書けばたいそうですが、早い話、 DNA を合成(synthesis)する期間と有糸分裂期 (mitosis)の2期間の前後に2つの空隙(gap)があるというだけです。

この各期間の長さですが、哺乳動物細胞の試験管内における実験では、それぞれ、5時間、7時間、3時間、1時間というデータがあります。
しかし、同質細胞でも環境によって大きく変化するようです。

多細胞生物の場合、たくさんの細胞がそれぞれの環境において勝手に増殖を繰り返していては個体としての調和がとれないので時間調節する期間が必要ですが、その期間は多くの生物の場合はG1期にあります。
時間調節は細胞周期にとらわれず、長期間周期を停止させます。

細胞にとって環境が悪くなった時、アメーバーのような単細胞生物の場合は、G1期(種類によってはG2期)で細胞周期は停止し、環境が整うまで生き長らえます。
人間のような多細胞動物の場合もG1期で停止し、環境が整うのをまって細胞周期が回転し始めます。

さて、細胞の寿命はどのくらいなのか?
ゾウリムシの観察(奈良女子大学・高木由臣博士)によれば、分裂350−400回で老化が表れ、最大寿命600−700回で死ぬ。
1年以上低温下で保存した別の株(サブクローン)もほぼ同じ回数の分裂後死ぬことから、細胞の寿命は時間ではなく、分裂回数によって制限される。ということです。
多細胞生物の細胞を培養しての実験では、50−100回の分裂で死ぬということです。
このように、一般の細胞は増殖させて行くと、老化し、ある期間を経過すると死滅しますが、 生殖細胞 ガン細胞 は例外です。

肝心の問題、細胞の老化・死はなぜ起こるか?
考えられているのは、エラー説とプログラム説です。
エラー説は、DNAが損傷を受け、複製、翻訳、転写時にエラーが起き、細胞分裂の度にエラーが蓄積されて死に至る ※1
というものです。
プログラム説というのは、細胞内の遺伝子などに○○回分裂したら死滅と書き込まれているというものです。

有力なのは、プログラム説で、遺伝的早老症 ウェルナー症候群 )がその証拠と言われています。
ウェルナー症候群は10−40代で発症し、全身に老化現象が起きます。
この病気は第8染色体と相関がありますが、老化を引き起こす要因は複合的なものらしく原因不明です。

プログラム説を支持するもうひとつの論拠は生物種によって細胞の寿命が違うということです。
たとえばカメ(亀)のように寿命の長い動物の細胞は、寿命が短いネズミの細胞より長生きなのです。
この例で判るのは、細胞が生まれたときから、種によって寿命(分裂回数)が決まっているということです。

しかし、たとえば胃壁の細胞は強酸に耐えるために、他の組織の細胞より新陳代謝が活発なのですから、細胞ごとに死まで分裂回数が違うのかも知れません。
※1
複製:元のDNA を鋳型にして別の DNA を作る
転写:DNA を鋳型にして RNA を作る
翻訳:RNA を元にタンパク質を合成します(翻訳)