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電気を利用する魚

今号は電気を発生する魚の話です。
シビレウナギ(電気ウナギ)、シビレナマズ(電気ナマズ)の類で、シビレエイなどの一部は日本近海にも棲息していますが、普通はマニアで無い限り水族館でしかお目にかかれません。
その身近でない魚を話題にしたのは、かなり馬鹿馬鹿しい事を思いつきまして。

シビレウナギで無くても 人間を含めて動物は体内で電気を起こし、情報の伝達や筋肉を動かすために使っています。
脳波や心電図、筋電図などは、体内で信号伝達に利用している、或いは運動をすると発生する電気を計測している のは周知です。

生体内で電気を起こすには、イオン(電荷を帯びた原子など)を動かします。
と言うより、イオンが動けば電気が起きてしまう訳ですから、細胞の内と外、細胞内の膜で仕切られている部分の内と外でも電気が起きています。
ただし、この電気はかなり微弱ですが。

もっと積極的に電気を必要とする場合、例えば、運動神経から筋肉細胞に信号を伝える場合は、終板(=しゅうばん:運動神経が細胞に接触している部分)からアセチルコリンという物質が出てイオンが一斉に動くために100ミリボルト程度の電気が起きます。

シビレウナギ は、全長の4割ほどの部分に上記のような構造の起電組織(電気板)を6千から1万個直列に並べて500ボルト以上の電圧を出しています。
シビレウナギでおもしろいのは、電気板が直列になっているものが幾つかのブロックに分かれていて、最初は小さなブロックが起電し、その電気が刺激となって大きなブロックが起電し、大きな電圧を発生すると考えられているところです。

電気の向きは
シビレウナギは頭部がプラス、尾がマイナス。
シビレナマズは頭部がマイナス、尾がプラス。
シビレエイは上側がプラス、下側がマイナス。
というように、様々です。

次になぜ自分自身の電気でしびれないか? です。
魚の皮膚は電気を通し難い性質の上、これらの魚は脂が絶縁材として使われていると考えられています。

電気を発生させる目的ですが、シビレウナギのように高い電圧を発生させるものは、獲物の捕獲、敵からの防御のためで、これだけではおもしろくないので、メルマガに書く気は起きなかったのですが、 ジムナーカス (モルミス科アフリカ産)という淡水魚は非常に興味深い電気の使い方をしています。
この魚は細長く、尖った頭の後ろに一対のひれ、尾は紐のように細長く、背には背全てにヒラヒラとしたひれが付いています。眼は退化しています。
形態もさることながら、先ず普通の魚と違うのは、泳ぐ時も身体を真っ直ぐにして背びれだけを動かすということです。
普通の魚のように、尾を動かして尾びれで推進力を得ることはありません。

ここからが本題なのですが、 ジムナーカスは、低い電圧の電気パルスを毎秒300回程度放出して(頭がプラス、尾がマイナス)、頭と尾の間(すなわちにジムナーカスの周囲)に電場(電気の作用が働いている場所)を作っています。
このとき、他の生物や障害物が近づくと、電場が乱れます。
ジムナーカスはこの電場の乱れを感じ取って近づいてきたのが生物か無生物か、その大きさ・種類を特定しています。

H・W・ケスマン(ケンブリッジ大学)によれば、1センチメートルあたり100万分の1ボルト以下という乱れもジムナーカスは感知し、水道水と蒸留水の識別ばかりか、それらを混合した水も識別したそうです。

自ら電気を起こし、それによって獲物、外敵、障害物などを把握するのは、ジムナーカスやその近縁種だけでなく、 ナイフ・フィッシュ類 (アフリカ・東南アジア・南米産)は電流の変化から感じ取っていますし、 シビレエイの一種は、電気によって周囲の塩分濃度を測って移動しています

前述しましたように、生物にとって電気を起こすことは難しいことでありませんし、電気を信号の伝達手段として使っていることを考えれば、ジムナーカスやナイフ・フィッシュのように特別な器官を持っていなくても鈍いながらも電気の乱れを感じられても不思議ではありません。

ここで、冒頭に触れました馬鹿しい話です。
私たち人間も周囲の電気の乱れを感じ取れるのでは? オカルトっぽくなりますが、誰かに尾行されている気がするとか、視線を感じるとかの最初は周囲の電気的乱れを感じたのでは? と。