動物の耳のしくみとその聴力

我が家の愛犬が若かりし頃、居間に寝転んでいた愛犬がふと頭をもたげ、その数分後、私が買い物から帰って来たという話です。
家人の帰宅が判るという事象は犬には良くあることで珍しくは無いですが、飼い主としては嬉しい話です。
が、今では彼が寝転んでいる直ぐ脇を通っても気づかずに眠っているか、視線を向けるだけの変わりようです。
図々しくもなったのですが、聴力もだいぶ落ちてきたようです。
かくいう私も、この間、甥っ子には聴こえる遠くの踏み切りの警報音が聴こえないという屈辱を味合わされました。

さて、今日の話題は『聴力・耳』です。
先ず、 人間の耳の構造を音の伝達順に見ますと
耳介→鼓膜→ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨→前庭窓(卵円窓)→蝸牛内の感覚細胞

耳介から鼓膜までを外耳、鼓膜から前庭窓(卵円窓)までを中耳、前庭窓(卵円窓)→蝸牛までを内耳と言い、外耳と内耳の中には空気が入っていますが、 内耳は液体(リンパ液)で満たされています。
鼓膜の振動は前庭窓の膜を振動させるのですが、鼓膜と前庭窓の面積比が耳の機械的な音の増幅比になります。 (鼓膜の方が広い)
この構造は哺乳類の場合は殆ど同じですが、人間の場合は鼓膜と前庭窓の面積比が20ぐらいなので鼓膜の振動が20倍に増幅されることになります。
ここで、内耳は液体で満たされていますから前庭窓の膜が振動しないのでは、(液体は圧力が掛かってもほとんど体積が変わらないから)と疑問を持たれる方が居らっしゃると思いますが、前庭窓の膜が動いた分だけ液体を逃がす機能が付いています。

音の伝達系は全て大事ですが、特に一番大事な部分は内耳のようです。
というのは、内耳は頭蓋骨の中でも最も硬い骨の中に埋め込まれているからです。
オーディオ製品でも高級品になると余分な振動を防ぐために部品を取り付ける基盤が並品よりはるかに堅牢で重いです。
(ビデオデッキは並品でも緻密さをより要求されるの重いです)

犬が超音波(振動数が毎秒2万回以上)を聴くことが出来るのは周知ですが、人間も子供では4万回も振動している音が聴こえるようです。
それが歳をとるに連れて聴こえなくなるのは、鼓膜の厚みが増すことと部品の老化です。
蝸牛内でリンパ液の圧力変化を感じ取る感覚細胞まではいわば機械仕掛けなので聴こえが悪くなるのだと思います。
老化は足からと言いますが、人間でも電気製品でも動く部分が真っ先に壊れます。

さて、犬のように聴こえる音域が広いということは、それだけ音の性質(発信源)を詳細に分析できるということです。
音に限りませんがどんな複雑な波も、フーリエ変換によって示されるように、 対象とする波の周波数よりはるかに高い周波数から低い周波数にわたっている単純な正弦波(sin)或いは余弦波(cos)の集まりで出来ていますから高い周波数まで聴こえるということは、脳の中で音を再構成しなおすときに情報量が多くなってそれだけ対象とする波の性質を把握できるということです。
高い周波数が聴こえないと音質が悪いのは固定電話より携帯電話の音質が悪いということで実感して頂ける思います。

犬の場合はその他に音のリズム感にも優れています。
メトロノームの打つ回数が毎分100から96に変わったことを感知するそうです。

冒頭、室内に寝転んでいた愛犬が遠くから私の帰りを察知していた話を書きましたが、それは、弱い音まで聴こえるだけでなく、音波の性質、リズムを分析する能力にも長けている証拠だと思われます。

こんなに感度、分析能力抜群の耳では24時間365日働き続けると疲労するし、聞きたくない小言も耳をつんざく大声で聴こえて大変だろうと思いますが、 そこは良く出来ていて都合の悪いときは内耳の伝達系を遮断してしまう そうです。
それで、今号の表題【犬の耳に念仏】です。

また、犬の耳介(外に出ている一般的に言うところの耳)には筋肉が17個も付いていて、気なる音源の方向に耳介を向け、より聴こえを良くしています。
人間の場合も耳介に筋肉が9個付いていますが、役立っているのは一部の方だけです。
一部と言うのは耳を動かすことが出来て、それで遊んでいる人です(笑)

耳介の役割は、集音器のように音 を集めることです。
ですから、大きな耳を持っている動物ほど聴力は良いと想像できます。
兎の耳はその典型ですが、 象の耳介は身体の熱を外に出す冷却装置 なので例外です。

耳介で不思議に思うのは、内側(音源に面する方)が彫りの深いことです。
これは左右の耳に伝わる音の位相差を大きくするためだそうです。

そうそう、この前、蛾の嗅覚の話をしましたが音に対する反応もおもしろいです。
蛾が天敵であるコウモリの探索音(餌を探すための超音波)に敏感に反応するのは至極当然ですが、逃げ切れないまで接近された場合、蛾は羽ばたきを停めて仮死状態で地上に落下するそうです。
そのために、コウモリの蛾捕食率は50%に落ちます。

それでも他の獣に比べたらすごい確率だと思いますが、蛾1匹では満腹にならないのが辛いとこでしょう。
確率的には満腹になるまで、0.5×0.5×0.5×0.5×0.5・・・・×0.5 ですから、