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暗い所で本を読むと近視になる理由

昔から暗いところで勉強すると視力が落ちると言われています。
その理由を考えてみました。
星空を眺めると視力が良くなるとも言われますから、暗くても天体のように遠くにあるものを見ると視力が落ちるどころか視力が良くなるか、少なくとも悪くはならないようです。

人間の眼はカメラ(写真機)にたとえられるので、ここでもカメラに登場してもらいましょう。
写真撮影に凝り始めると、「 焦点深度 」とか「 被写体深度 」という用語に出合います。
この二つの用語の意味は正確には異なるのですが、焦点を合わせた時に画像がはっきり写る距離の幅と理解してください。
ポートレートなどで背景をぼかしたり、草花の写真で一点にだけピントが合っている撮り方が被写体深度 を利用した例です。
眼の視力の話で写真の話? と思われるでしょうが、もう少しお付き合いください。
下の図はレンズで被写体の像をCCD(デジタルカメラでレンズが作った像を電気信号に変える部分)面に作ったときの模式図です。
レンズは被写体2にピントを合わせてあり、1番目は被写体2より遠くにある被写体3から出る光がレンズで像を結ぶとき、3番目は被写体2より近くにある被写体から出る光がレンズで像を結ぶときです。
レンズの被写体深度を説明する図
被写体からレンズまでの距離aとレンズからCCD面までの距離bの関係は、レンズの焦点距離を f とすると、上記の「薄いレンズの公式」で求められます。

さて、上図の右側に赤字で「ボケ円A」と「ビケ円B」とあるのは、図で判るとおり、被写体Bにピントを合わせたときの被写体1と被写体3がCCD面に写ったときのピンボケ具合を表しています。
ここで、ボケ円の大きさを1点としか判断できない解像度しか持っていないCCD或いは銀塩フィルムであれば、遠くにある被写体1も近くにある被写体3にもピント合っていると判断するしかありません。
このときの被写体1と被写体3の間隔を被写体深度と呼びます。
被写体深度は焦点を合わせた地点より遠くには大きく、近くには小さくなります。
上図のように実際に距離を入れて図を描くと簡単に判明しますが、レンズの口径と焦点距離、ピントを合わせる地点(上図ではa)までの距離を適当に選ぶと、ピントを合わせた地点より遠くは無視できるほど小さなボケ円に収めることが出来るようになります。
オートフォーカスではないピント合わせ不要なカメラは、この原理を使ってピント合わせを不要にしています。
この方式をパンフォーカスと呼びます。

次に被写体が近くにあるときのカメラの「絞り」、人間の眼の虹彩とピンボケについて考えてみます。
下の図はピントが合わないほど被写体が近くにあるときの様子です。
レンズ系の絞りの効果を表す図
上図で判明するとおり、カメラの絞り(人間の眼の 虹彩 )の直径を狭めると、同じ距離の被写体でもCCD面( 網膜 面)に写るボケ円は小さくなります。
絞り(虹彩)を広げたままボケ円の直径を小さくしようとすると、レンズ(水晶体)とCCD(網膜)の間を伸ばす必要があります。
人間の眼の場合なら、眼球がラグビーボールのように前後に伸びることになり、眼軸が伸びて近視になる 眼軸性近視 となります。
眼に入る光が多ければ、虹彩が狭まるので、水晶体と網膜の距離を伸ばす必要がありませんから、近くを見るときには眩しくない程度に明るい方が良いわけです。
暗いところで近くを見ると、虹彩は広いままで、ボケ円を小さくしようとして、自然と眼軸が伸びて近視になってしまいます。