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いい加減な聴覚

夏休みの宿題:自由研究に困っている方へと思って考えてみました。
音は空気の振動です。 別の言い方をすれば、主に窒素と酸素を含んだ気体の圧力の変化です。
耳は1円玉が落ちた時に生じる圧力の変化も判るほど精巧な圧力センサーなのですが、圧力変化を分析する聴覚神経や脳神経を含めて考えると、その欠点が露呈してしまいます。

それは、例えば、草むらや林の中では虫の音がどこから聞こえてくるか判らないことです。
音がする方向を探る決め手は、左右の耳に入る音の位相差と強弱、視覚情報です。
下図を見てください。
音源の方向を知る説明図
前方斜めAで虫が鳴いていたときは、Aから左右の耳までの距離には、d だけ差があります。
音が空気中を伝わる速さは空気の温度で変化しますが、1秒間に340m進むと仮定し、d を10cmとす れば、0.1÷340波長だけ右耳と左耳に届く音はずれています。
これが位相差です。
解りやすく言うと、左耳に入ると音は右耳に入る音より0.1÷340秒間遅くなっています。
この差が方向を決めます。

頭の真横Bで虫が鳴いているときには、頭の幅が d になりますが、頭が障害物になっているので左耳に入る音の大きさは右耳に入る音より小さくなります。
音を大きく感じる方が音源に近いですから音源は右方向にあることになります。

問題は、真後ろCで虫が鳴いている場合です。
Cから左耳までの距離と、Cから右耳までの距離が同じなので位相差はありません。
頭が障害物になることも無いので音の大きさも同じです。
実際には真正面と真後ろから来る音を間違えることは殆どないのですが、聴覚だけに頼った場合には間違うことがあります。
また、左右の耳からの距離が同じで障害物が無い上方も方向感があやふやです。

要するに視覚情報が無ければ、前方と後方、上方は音の方向感が極めてあやふやになるのです。
音源が遠くなれば、他の物に反射した音も聞こえてくるので、方向感は更にあやふやになります。

自由研究にする場合には、家族や友達に手伝ってもらって、どの方向からの音が方向感が無くなるか?
音の高さによって方向感に違いがあるか?
音のする方向を正確に当てる方法は無いか?
方向感のあやふやさを利用した物は無いか?
などを考えてみてください。

サラウンドステレオ は人間の聴覚のいい加減さを利用したものです。
後方にスピーカーを一つだけ設置するものなどは後方の方向感がいい加減ですからです。
前方のスピーカーだけで後方から音が聞こえるようにしているものもあります。
聴覚には小さな音は大きな音に消されてしまうというマスク効果があり、これも利用されています。マスク効果はは、音楽ファイルではMP3という圧縮形式でも使われています。