⇒ 自然・科学系記事一覧

カメラ用交換レンズの丸洗い

デジタル一眼で天体写真を撮ろうと思ったのですが、購入時に付いていた標準ズームは暗すぎて天体写真にはお世辞にも向いていると言えません。
そこで、明るい単焦点レンズを探したのですが、新品を購入するお金は無く、そんな折、近くのリサイクルショップのジャンクコーナーに格安で、ニコンのF1.4 50mmが転がっているのを見つけました。
「NIKKOR-S Auto F1.4 50mm」です。
1962年からの製造販売で、当時はニコンを代表するレンズだったようです。
それから、4,50年経ち、ジャンクとなってしまったこのレンズを私が手に入れたときには、下左写真の様に、ジャンクレンズにはお決まりの、カビがレ ンズに蔓延っていました。

丸洗いするニコンの交換レンズNIKKOR-S Auto F1.4 50mmの写真

写真では少しに見えますが、白い菌糸がレンズ面積の3分の 1ぐらいに伸びていました。
カビは絞りを挟んだ両面(下右のレンズ構成図の赤い面)に付いていましたが、それでもけっこう綺麗に撮れ、やっぱり単焦点レンズは綺麗に撮れるなぁ、と感動したぐらいです。

Web検索すると、同型レンズのカビ取りに成功している諸兄がいらっしゃいました。
今思えば、これを見て「簡単そうだ!」と早合点したのが運の尽きでした。

レンズ名が刻印してある飾りリング(最前のレンズを押さえている)から取れません。
このリング外しのために、同サイズのゴムで出来た円い筒状の物(吸盤オープナー)が売られていますが、買うことも無いと思い、台所にある空き瓶を探し回りました。

「なめ茸」の瓶詰めの瓶の口の直径が飾りリングの直径に近かったです。
そこで、レンズの前面をティッシュペーパーで保護し、その上に薄いゴム手袋の平らな部分を当て、その上から空き瓶の口を押し付けて回しましたがビクッとしません。
ピント合わせに回すリングの先端部分も外れるはずなのですが、こちらもゴム手袋をして回しましたが全く動きません。
離れるはずの境目に潤滑剤のCRC−556を流してみましたが動きません。
ところが、翌日になると、飾りリング、ピント合わせリングの先端部共に軽く回って取れました。
潤滑剤が奥まで染み込むのに時間が掛かったようです。
(非球面レンズを使用しているレンズでは、非球面レンズがプラスチックで作られている可能性が高いのでプラスチックを傷つける溶剤などは慎重に使ってください)

レンズ筐体先端の銀色のリング(フィルターをねじ込むところ)は、横に直径1mmほどのネジで止められているのでこれを取らないとリングは回りません。
これだけ取ると、レンズユニットが抜けます。
交換レンズを途中まで分解したところ

左側の細い筒部分は太い筒部分にねじ込んであるので、緩み止めの接着剤を除去すれば簡単に取れます。
太い筒の中には、上のレンズ構成図で示した、絞りと絞りを挟んだ2枚凸レンズ(凸レンズと凹レンズをバルサムで貼り付けたもの)が納まっています。

ここまで来れば後は簡単と思ったのですが、上写真右のレンズを抑えているリングが全く緩みません。
押さえリングには穴や切り込みが2つあり、この穴や切り込みに、カニメ回しと言われる道具を引っ掛けて回します。

これも買うほどのことは無いと思い、木片に釘を打ち込んだ、下写真の物を作りました。
木片に釘を2本打ち込んで作ったカニメ回しの代用品の写真
しかし、全く回りません
緩み止 めのネジがあるのかと探しました見つかりません。エタノールやCRC−556を垂らして一晩放置しても動きません。
後部には緩み止めのネジがありましたが回らず、行き詰まりました。

諦めて組み立てましたが、カビを見る度に何とかしないと思い立ち、レンズの丸洗いを決意しました。
カビがあるのは絞りを挟んだ面ですから、レンズユニットを洗剤液の中に沈めれば、絞りを制御するレバーがあるスリットから洗剤液が入るはずです。
心配なのは絞りへの影響ですが・・・
ぬるま湯に台所用の中性洗剤を溶かし、その中にレンズユニット入れて、瓶を洗うようにレンズユニットを振って中の洗剤液を振り動かしました。
カメラ愛好者から「何ということを」と叱られそうですが。
それから、よく水ですすぎ、レンズユニットの内部の水を抜きました。
もちろん、このままでは完全に水を取ることは不可能です。
絞り制御レバーが出ているスリットから少量のエタノールを流し込みました。
次に再びレンズユニットの隙間から液体(水+エタノール)が出るようにユニットを傾けます。
エタノールは揮発しますから、レンズユニット内部の水は少なくなっているはずです。
これだけでは内部が乾きそうにありませんから、絞り制御レバーの出ているスリットから乾いた空気を送り込みました。
注射器状のもので交換レンズの隙間から乾いた空気を入れて乾かす

乾いた空気を送るのに使ったのは、100円ショップで売っていた、化粧品を詰め替えるための大きな注射器状のものです。
この作業は時間が掛かります。時折、絞り羽根を広げて(絞った状態)にして羽根にも乾いた空気を当てて乾かします。
羽根に水分が残っていると水が接着剤になって羽根が軽く動きません。
絞り羽根が軽く動くようになったら、レンズユニットを日向に置くか、レンズユニットの横部分をドライヤーなどで温めます。
(素手で持てないほど熱くすると、レンズを貼り合わせているバルサムが融けるおそれがあるので熱くしないこと。バルサムが融けたり剥がれるとカビどころではありません)
すると、内部の水分が蒸発して冷たいレンズに付くのでレンズが水滴で雲ってきます。
そこで、また、乾いた空気を送ります。
レンズの曇りが無くなるまで繰り返します。
乾いた空気を注入するには観賞魚用の水槽に空気を送るポンプが使えそうです。
密閉容器に乾燥剤のシリカゲルと一緒に入れて乾かすことも出来そうです。ドライフラワーを作るときには草花をシリカゲルの中に入れますから。
電子部品が一つも入っていない昔のレンズだから出きることですが、レンズの丸洗いはお勧めしません。後々、錆が出ることが考えられますから、レンズを廃棄する覚悟が無ければ絶対してはいけません。
非球面レンズを使用している近年のものは内部のレンズがプラスチックで作られている可能性が高いので、化学薬品や熱に弱いので特に注意が必要です。

綺麗になったのが下写真左、右はニコンD40に装着したところですが、違和感が無いです
丸洗いで綺麗になった交換レンズNIKKOR-S Auto F1.4 50mm