フッ素がフライパンや歯磨きに使われている理由

フライパンと歯磨きの共通点は何でしょう? フライパンは焦げ付かないというテフロン加工のものです。
クイズで始まりましたが、その答えは“フッ素”でした。
さて、フッ素は、直接的間接的にあらゆる物に使われています。
お手許にある歯磨き剤の成分表示には、薬用成分として“モノフルオロリン酸ナトリウム”、“フッ化ナトリウム”のいずれか、或いは両方が表示されていると思います。
どちらもフッ素化合物で、虫歯予防の為に添加されています(注8:特に重要)
フライパンなどの調理器具にはテフロン加工がされているものが多いですが、これもフッ素化合物を塗布したものです。
その他、身近なものだけでも、カメラなどのレンズ、ガラス器、太陽電池、塗料、歯の治療に使われるセメント(歯を削った部位に詰める物)にも含まれています。
冷蔵庫やクーラーで温度を下げるために使われる冷媒、ヘアースプレーなどの噴射ガスに使われ、 オゾン層破壊の原因とされるフロンガスもフッ素の化合物です。

フッ素は、原子(F)が2個の分子で、常温では淡い黄色の気体ですが、ガラス容器を侵すほど活性力が強く、 自然界では化合物としてしか存在しません。
古くからその化合物として知られていた物のひとつに、“蛍石”があります。

フッ素(fluoride)の名前の由来は、ヨーロッパの中世末(15世紀中)まで遡ります。
鉱石を溶かして金属を取り出す時に螢石を入れると、溶かした物の流動性が増し、金属が取り出しやすくなることが知られていました。
その為に、螢石に含まれているその成分(フッ素)を、ラテン語で fluere(流れる)と言い、fluoride の語源となっています。

前述したように、ガラス容器を侵すほど活性が強いので化合物から分離するのは困難を極め、 1886年 H.Moissan(フランス)が電気分解によって初めて分離に成功し、電気を使わずに分離に成功したのは1986年です。
「戦争が科学技術を発展させる」というのは、戦争を必要悪と考える方が好んで使う台詞ですが、フッ素もこの例にもれませんでした。
第二次世界大戦中、アメリカの原子爆弾製造にはフッ素化合物が使われ、それを切っ掛けにしてフッ素の利用が発展しました。
これから述べるフッ素化合物『テフロン』も第二次世界大戦中に軍事利用されています。

フッ素化合物は今ではあらゆる物に使われている訳ですが、今回は、フライパンなどの調理器具で焦げ付き防止に使われている化合物『テフロン』について書いてみたいと思います。
発明品の中には、偶然から見つけられるものが意外と多いものですが、テフロンもその一つです。
始まりは、冷蔵庫やエアコンに使われる冷媒の開発でした。
冷やすには、物質(冷媒)が気化する時に周りから熱を奪う現象を利用しています。夏、水を撒くと涼しくなるのと同じ現象です。
当時、冷媒としてはアンモニアや亜硫酸が使われていたのですが、私たち素人でも危険だと判るような危険物です。
危険な冷媒の代わりとして、1930年 General Motors 社の T.Midgley は、フッ素と炭素の化合物に着目し“クロロフルカーボン類”を作りました。
それは、沸点摂氏ー29.8度、不燃性、無毒で冷媒として最適でした。
これが、オゾン層破壊問題が起きるまで使われていた冷媒『フロン(flon)』の始まりです。
それ以来、 Du Pont 社は色々なフロンを作りましたが、その中の“クロロジフルオロメタン”は、熱分解させると“テトラフルオロエチレン(TFE)”に変化しました。
1938年 Du Pont 社の R.J.Plunkett は、冷媒開発の為に保存しておいたテトラフルオロエチレンが無くなって、その跡に数グラムの白い粉末が残っているのを発見しました。
テトラフルオロエチレンは室温で重合して、“ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)”が出来たのです。
しかし、ポリテトラフルオロエチレンは加熱してもゲル状になるだけで、化学薬品にも溶解しません でした。

ポリテトラフルオロエチレンの主な特性は
  • 熱に強い
  • 融点は摂氏327度。溶けるというよりゲル状になるだけ
  • 化学薬品・油に強い。強酸・強アルカリにも侵されず、どんな有機溶媒にも溶けない
  • 表面張力が小さい。この為に、個体液体を問わず、他の物質に着きません。
これらの特性を見ると、テフロン加工のフライパンの性質と同じだとお気づきだと思います。
このポリテトラフルオロエチレンが『テフロン(Teflen)』の始まりです。

しかし、テフロンの持つ良い特性は、そのまま悪い特性にもなっています。
熱や薬品に強く、溶けない。他の物質に着かない。
ということは、加工し難く利用できないということです。
それを解決する為に、テフロンの重合体に他の化学物質を重合させて加工しやすいテフロンが開発され、1960,70年代に一般用に商品化されました。

  1. 光学レンズへの利用。クラウンガラス(鉛を含まない)にフッ素化合物を添加して、分散が違うガラスが作れます。
    分散とは、光の色(波長)によって屈折率が異なる現象。 例えば、分散が小さいレンズを使えば、高倍率でも色滲みが少ないルーペ(虫眼鏡)が作れます。
  2. ガラス器への利用。フッ素化合物を添加する事で、オパール(タンパク石)のようなガラスが作れます。また、白濁したガラスも作れます。
  3. ガラスを侵食
    実験器具などに使われている珪酸塩ガラスは、単体のフッ素では侵されませんが、フッ化水素酸には侵されます。 この性質を利用して、ガラスを溶かす、研磨に利用されることがあります
  4. アメリカの原子爆弾製造、マンハッタン計画で、ウラン238からウラン235を分離する為にフッ素化合物が使われた
  5. 重合 1種類の分子が2つ以上結合して大きな分子を作ること
  6. フッ素、フッ化水素、フッ化ナトリウムなどは致死に至る有毒物です