においの原因は分子

嗅覚で感じる「におい」は、匂いだと良いですが、臭いだと嫌ですね。ご存知のとおり、良いにおいは「匂い」で、悪いにおいは「臭い」です。

においは分子が嗅覚細胞の受容体に飛び込むことで感じます。
分子はエネルギーをたくさん持っている方が活発に動くので、温度が高い分子ほど空中を飛び回ります。
それで、気温が低い冬季より気温が高い夏季に悪臭を感じることが多く、また、調理中の方がよく匂い、冷めた料理からはあまり匂いがしないのです。
そして、分子の種類ごとに においを感じる受容体があって、この分子はこの「におい」と人間側が勝手に決めています。
りんごのような甘酸っぱい匂いのするハーブや化学薬品があるのも、人間が誤魔化されているわけです。

においの元は分子ですから、分子が飛び出さない物には においがありません
鉄のような金属は原子が自由に動き回れる電子を仲立ちにして結合している金属結合です。
金属結合の力は強いで分子や原子が飛び出せないので金属はにおいません。 研ぎたての包丁は鉄臭がすると言いますが、研いだことによって錆びや汚れが取れて現われた鉄が食材の成分と反応して、 臭いの元になる分子が生まれたのです。
塩のように溶媒(たとえば水)に溶けるものはプラスの電気を帯びた原子(イオン)とマイナスの電気を帯びた原子(イオン)が電気的な力で引き合って結合しています。
これは、クーロン力と呼ばれ、強いものです。
ところが、分子になっているものは、分子と隣の分子の間は、分子間力と呼ばれる弱い力で引き合っているだけです。
それで、加熱などで容易に離れて空中を飛び回り、私たちの嗅覚細胞に飛び込んでにおいとして感じさせます。

私たちは全ての分子を「におい」として感じるわけではありません。
たとえば、空気を構成している窒素や酸素は においとして感じません。
空気のにおいを感じる必要がないから酸素や窒素用の受容体が進化せずに感じないのだと思いますが、 中毒を起こすような気体や動植物でも臭いをかんじないものが多いのは困ったものです。

消臭の原理・しくみ

消臭するには、炭(木炭や活性炭)のように臭いの元になる分子を吸着してしまう方法と、良い匂いで嫌な臭いを感じさせなくする方法があります。
臭いの分子を吸着する原理・仕組みは、分子間に働く吸引力によります。分子間に働く力には幾つかありますが、臭いの元になる分子と吸着する物質の分子が無極性(分子全体で見たときには電気を帯びていない)の場合は、ファン・デル・ワールス力によります。
ファン・デル・ワールス力は、無極性分子でも分子を構成している電子が動いていることによって一瞬だけ切り取れば極性が出来ることによって生じる力です。この力は電子の動きによって生じているので極性は常に変わり続け平均的をとれば無極性になりますし、この力は距離の7乗に逆比例して小さくなりますから、分子の極近傍にしか働きません。
ファン・デル・ワールス力を示すイメージ図
活性炭を消臭に使う場合には活性炭の空気に触れている表面は既に無極性の窒素分子や酸素分子で覆われていますから、臭いの原因になっている分子はファンデルワールス力で吸着されることになります。
当然ですけど、何でも臭いは吸着します。スーツが煙草臭くなるのは煙草臭の臭いの原因になる分子を吸着したからです。逆に言えば、煙草臭が充満していた室内は幾らか臭いが消えたということになります。
活性炭や炭が消臭剤に使われるのは、小さな穴がたくさん開いている構造なので空気に触れる表面積が広く、また安価だからですが、消臭を極力の弱いファンデルワールス力に頼っているので空気の動きが少なく、かつ、臭いの原因になっている分子の活動が弱いところでしか効果的ではありません(分子の活動が小さければ臭いは感じ難いのですが)。密閉された空間で分子の動きの少ないところといえば、冷蔵庫冷凍庫でしょうか。
アンモニア分子の様に電気的極性がある臭いの原因になる分子を吸着消臭する場合は、電気を使った方が効果的です。たとえば、静電気を帯びたフィルターを通すとかです。アンモニア分子は原子が偏って結びついているために分子に極性がある訳ですが、有極性分子が持つ電気による引力や反発力(クーロン力)の方がファンデルワールス力より圧倒的に大きいです。

消臭に使った活性炭や炭を再び消臭に使えるようにする方法は、 臭いの付いたスーツから臭いを除くのと同じです。付着した臭いの原因になっている分子を洗い流すのですが、臭い分子を吸着している細孔は洗い流し難いので長時間洗うか、活性炭などが燃えない程度に焼くしかありません。