粘土に粘り気がある理由と焼き物用の土

先ず、疑問
庭土や容易に入手できる粘土では焼き物は出来ないのか?
焼き物には、“土器”、“炻器”、“陶器”、“磁器”があります。
  • 土器 ・・・良質な粘土を必要としない。水を通す。
    古墳時代の埴輪や園芸に使う素焼き鉢、屋根瓦、土管など
  • 炻器 (せっき)・・・土器と同じような粘土をより高温で焼いた物。水を通さない。
    備前焼や万古焼き(朱色の急須で有名)、屋根瓦など
  • 陶器 ・・・・日本独特の陶石を粘土にして使う。水を通すので上薬をかける。
    志野焼、萩焼など
  • 磁器 ・・・・原材料の殆どは、中国・韓国・イギリスなどからの輸入。
    水は通さないが装飾を兼ねて上薬をかける。
    有田焼、九谷焼など
冒頭に述べた疑問の答えですが、土器・炻器は良質な粘土・土を必要としないので 、形が崩れない程度の粘り気があれば身近にある土や粘土でも焼ける可能性が高いです。

良質な土・粘土とは

  1. 茶碗などの形が作れること。これを可塑性と言います
  2. 均一に乾燥し、焼いたときには収縮率が均一なこと
    均一でないとひび・割れにつながります。鉱物“石英”が含まれているとひび・割れが少なくなります
  3. 高温で焼いても融けて形が崩れないこと。耐火度と言います
  4. 焼いたときにガラス質が出来て固まること
    粘土に含まれている“長石”や“石英”がガラス質になります
ということで、長石、長石類が風化してできた“ カオリン鉱物 ”が多く含まれているものほど良質と言われます

カオリン(kaolin)とは、中国江西省景徳鎮産陶器の原料産地、高嶺(Kaoling)に由来し、日本では高嶺土と珍重され、世界中で似たような粘土が探され広まった為にkaolinに、 焼き物の世界では“ カオリン粘土 ”とよばれますが、
“カオリナイト”、“ディッカイト”、“ナクライト”、“ハロイサイト”という4種の鉱物からなっているために、鉱物学的には“カオリン鉱物”と言われる歴史があります。
この4種の鉱物の内、“カオリナイト”“ディッカイト”“ナクライト”の化学組成は同じで、二酸化珪素、酸化アルミニウム、水です。
ハロイサイトも二酸化珪素、酸化アルミニウム、水で出来ていますが、ハロイサイトだけは、珪素やアルミニウムの結合相手としての水では無く、水そのものを含んでいます。

カオリン粘土が焼き物用に優れている理由

先ず、可塑性です。粘土と書くぐらいですから粘り気があることが重要です。 この粘り気の原因は“水”にあります。
カオリン粘土に限らず、粘土の粘り気は、それを構成する鉱物或いは微粒子同士の間に水が入り、鉱物にまとい付いている水同士が引き合うことによっています。
この引き合う力は、水分子の、水素原子はプラス、酸素原子はマイナスの電荷(電気)を帯びていることによる水分子同士の電気的な力です。
水が適度の可動性のある接着剤になる訳ですが、鉱物や粒子の形が球では粘り気は出ません。
ピンポン玉同士では濡れていてもくっ付きませんが、同じ材質・体積でも平べったい直方体で、広い面同士の間に水が入ればくっ付きやすいのと同じです。
土に粘土が生じるには含まれる鉱物の形が重要だという理由の説明図
水に触れる部分が広い鉱物が多く含まれていることが粘土にとっては重要です

カオリン粘土の場合、含まれる鉱物が、アルミニウム、珪素、水酸基(水素原子1個+酸素原子1個)によって板のようにシート状に層を作って結合して出来ているので、鉱物の結晶も板状になって、水に触れる表面積を多くしています。
繰り返しになりますが、粘土の場合はカオリンに限らず、板状の微粒子が多いことが粘り気の点から重要です。

次にカオリン粘土は焼くと固くなるということです。
焼き物の手順で説明すると、茶碗などの形を作り乾燥させ、窯に入れ、徐々に窯内の温度を上げ200度以内で数時間置きます。
この間に、鉱物同士の間に挟まっていた水分子(粘り気の元)が蒸発します。技術的にはこの水抜きが重要なようです。 急激に蒸発させると水の膨張(水蒸気なって)によりひび・割れを作ります。

この後、窯内の温度を上げ、500度を超える頃からアルミニウムや珪素と結合していた水酸基が2個くっ付いて(水酸基が2個なので水素原子2個、酸素原子2個)酸素原子1個を残し、 残りは水となって蒸発します。
ですが、カオリンを構成する鉱物の原形はほぼ保たれています。
土器や炻器を焼く場合の温度はこの位なので、粘土に含まれていた水や有機物(動植物の遺骸など)、気孔が無くなり、収縮した分だけ強度が増したに留まります。

陶器や磁器を焼く場合は、この後900~1500度まで窯内の温度を上げます。
800度ぐらいまで鉱物の原形が保たれますが、これ以上になると鉱物の結晶が壊れ再結晶化し始めます。

カオリン粘土の場合はアルミニウムが含まれているので、ムライト(二酸化珪素と酸化アルミニウムからなる針状結晶)クリストバライト(高温で出来る二酸化珪素の結晶)が作られます。
一方、粘土に含まれている長石が溶けてガラス質になります。
焼き上げりのイメージとしては、金網入りのガラスという感じで、ただのガラスより強度が増しています。
金網に相当するのは、ムライトの針状結晶。ガラスは長石と石英によって作られます。 このように、同じ焼き物と言っても、カオリン粘土を使ったものは、土器・炻器と陶器・磁器は全く違うものなのです。

日本の陶器用粘土

日本では白色のカオリン粘土が採れる所は限られていたので、陶器用粘土を作る方法が発達しました。
カオリン粘土の主成分は、アルミニウム、珪素なので、これと同じ成分を持つ“石(ろう石など)”を扁平な微粒子にして、長石を混ぜれば陶器用の粘土になります。
扁平な微粒子にするのは、前述したように粘り気を出すためです。

粘り気を出す為に有機物を使う方法もあります。
採掘された土或いは粘土は、水で洗われ、ゴミ、動植物の遺骸などが取り除かれ、粒子を細かくする必要があれば扁平に砕かれます。
その後、むしろなどを掛けて 1週間から1年間放置します。このように放置することを“寝かし”と呼びます。
寝ねかしの間に粘土に付いている有機物が細菌によって分解され、細菌の遺骸、放出物などで粘土の粘り気が増すと言われます。
寝かしは科学的には曖昧な手法のようですが、陶芸の教科書では、寝かしてない粘土は使うなというほど重要視されています。
中国では、動物の尿をかけて寝かせる方法が採られたこともあるようで、向こうが透けて見えるほど薄い焼き物が出来ると言われます。 宋時代の物は、粘土を尿中に長期間浸し、カオリナイト (カオリンを構成する鉱物の一)と尿素の複合体を作り、 この複合体を水中ですり潰すと極薄い小片のカオリナイトになるそうで、これを使ったと推測されています。
(むしろは稲藁などをシート状に編んだもの)

白磁のボーンチャイナとは

「ボーンチャイナ」は、中国のカオリン粘土で作られた白い磁器に魅せられたイギリス王侯貴族の願望によって作られた『 軟質白磁 』です。
製造法の確立は1744年頃。
この白磁の特徴は、動物の骨を焼いて作った“骨灰”を使っていることです。
その為、『 骨杯 』とも言われます。

原料比の一例は、 カオリン  20−45パーセント
長石     8−22パーセント
骨灰    20−60パーセント
シリカ    9−20パーセント
長石とシリカ(二酸化珪素)はガラス質を作るため。
骨灰が50パーセント以上の物を、ファイン・ボーンチャイナと呼ぶようです。

製造法は、骨灰(主成分:燐酸カルシウム)を多量に入れると成型できなくなる上に 高温で焼き締めると形が崩れてしまうため(耐火度が低い)、 カオリン粘土を使った磁器とはかなり異なります。

先ず、カップなどの型を作ります。
その内側に鉱物の石英粉をまぶし、その型の中に骨灰を混ぜた原料を入れます。
これを1250−1300度の窯に入れ、完全に融合させます。
次に型を外し、上薬をかけ、900−1000度で再度焼きます。
肉厚の薄い物を作る場合は削ることもあるようです。

カオリン粘土の代わりに骨灰が多く含まれている為、生地が軟らかいので軟質磁器と言います。
中国の磁器は硬質磁器です。
日本の磁器質は中間に位置するようです。