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ニュー・セラミックとは

身近に目にする物でニュー・セラミックと称する物が使われているのは、セラミックの包丁、自動車などの点火プラグ、ガスコンロの点火装置(火花を出す為の高圧発生装置)など。
見えない所ではパソコンやテレビの電子部品(ICの基盤、コンデンサー、トランスの磁心、高周波フィルター、発振素子など)、光ファイバーもニュー・セラミックのようです。

ここからは単にセラミックと言い換えますが、セラミックを使った電子部品はかなり前からあり(真空管時代のラジオ少年にも懐かしい、黄色っぽくて丸い形の“セラミックコンデンサー”)、 現代社会ではありとあらゆる所に使われていますが、原理が私には良く解らないので難問です。
仕方が無いのでセラミックの製法の内、これぞ“焼き物”というもの から入りたいと思います。(この製法の物が80%を占めます)

セラミックの原材料は“無機質物質”です。用途によって色々な物質が選ばれますが、これを結晶1個から数個の大きさの超微粒子になるまで細かくします。
次に(物によっては不純物を混ぜて)これを型に入れ、加圧すると同時にこの物質の融点の80%程度まで加熱します。(物によっては加熱だけ)
すると、微粒子の表面同士が結合します。これによって表面エネルギーが失われます。
焼結の理論を研究したG.C.Kuczynski は『粒子系全体の表面エネルギーが減少する方向へ物質移動する現象』と焼結を定義しています。(1949年)

表面エネルギーと焼結

表面エネルギーの主要なものは、物質を切断したときに結合相手を失った原子が持つエネルギーでず。水なら表面張力で水面が盛り上がるように働きます。
ですから、コップ1杯の水を一塊と考え、表面張力で盛り上がっている部分に別の水の塊を付ければ、その水面部分の表面エネルギーは失われて1つの塊になります。
このように焼き固めることをセラミックでは『焼結』と言います。陶磁器の分野の『焼成』に当たるものです。
ニューセラミックのを作るのに必要な焼結・焼成のイメージ図
こんな感じになります。砂を握り締めてそのまま固めた感じです。
微粒子は密に詰まっている訳では無く、焼きあがったセラミックの内部には多少の隙間が出来ます。
この隙間が多いと、人工骨など強度を問題にする用途では欠陥になりますが、耐熱タイルなどのように熱の伝わりを悪くする用途では歓迎されます。スペースシャトルの耐熱タイルなどです。
もっと身近な屋根瓦も内部に隙間を作ることで、断熱性と軽量化をはかっている物の一例です。 ただし、屋根瓦の場合のように水に触れる用途では隙間が多すぎると防水性が落ちることになります。

微粒子間に出来る隙間は、強度を目的としない電子分野の素材としても欠陥になります。 というのは、微粒子間には微粒子を作っている結晶構造とは違う“層(二次層)”が出来ます。 この層が電気に対して絶縁効果が大きければ、セラミック全体の絶縁性も大きくなります。 微粒子同士が微粒子を作る結晶構造同士で結合していないで、この絶縁層だけを通して結合していれば、絶縁性は更に高まります。

電子デバイスとしてのセラミックに重要なのは層

この微粒子間に出来る“層”が、温度や電圧に対して感応する“半導体”的な性質を持っていた場合はセラミックも半導体的な性質を持つようになりますし、 原料となる物質や混ぜる不純物を変えたり、焼結させる温度や圧力を変え、その他の物理的性質を持つようにすることも可能な訳です。
セラミックにとっては、微粒子間に出来る“層”が大事な訳ですから、この層の面積を大きくすることが大事です。 その為には、原料の粒子を出来るだけ小さくすると同時に、焼結するときに粒子同士が融けて大きな結晶に成長し、大きな粒子にならないようにしなければなりません。

粒子間の層の面積を大きくすると問題も起きます。粒子同士の結合をこの層を介してだけで行うと高温に対して弱くなるのです。
たとえれば、夏場など気温の高いとき、個別包装してない飴玉を詰めておいて一塊になることがありますが、温度が上がって飴玉の表面がちょっと融けただけでバラバラになるようなものです。

微粒子同士の 間に出来る“層”が重要な役割を述べてきましたが、 微粒子を作っている物質が共有結合かイオン結合かによっても出来上がったセラミックの性質が異なります。 例を上げれば、共有結合は誘電率が低く、イオン結合のそれは高いです。
その他様々要因によってセラミックの性質は左右されます。未解明な部分が多い分野なので焼いてみなければ、出来上がった物の性質が判らないことも多いようです。

注釈
  • 共有結合
    非金属原子同士の間で、電子を共有することにより結合する
  • イオン結合
    非金属原子と金属原子の間で、静電引力によって結合する
  • 誘電率
    絶縁物に電圧をかけると、プラス電圧をかけた面にマイナスの電気が、マイナス電圧をかけた面にプラス電気が集まります。これを分極と言いますが、この度合いを表す定数です