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洗濯物が乾く理由と飽和水蒸気圧の簡単に説明

水で洗った衣類などを屋外に干しておくと、当たり前ですが、乾きます。
気温が高く晴れた日などは厚手の物でも半日も掛からずに乾いてしまうのに、冬の気温が低い日は晴れていてもなかなか乾かないことがあります。なぜ、でしょう?
極寒の地では屋外に衣類を干して凍らせて氷を落としてまた干すという方法をするそうですが、このページでの説明は屋外に干しても凍らない状態での話です。

洗濯物が乾く理由を考える上で次のような実験をしてみましょう。
蓋の無い容器に水を入れて放置したら、容器の中の水はどうなるでしょうか?
  1. 水量が減る
  2. 水量は変わらない
1年365日の殆どの日では、1の水量が減るになります。
しかし、2の水量が変わらない、になることがあります。
水量が減る問題を考える前に水を考えてみます。
水分子は酸素と水素が共有結合したものです。共有結合は分子がお互いに安定な状態になるために持っている電子を共有するものです。安定というのは、希ガス元素(ヘリウム、ネオン、アルゴンなど)の様に他の元素と化合し難くなることを言います。
水分子は、電子1つが足りなくて不安定な状態の水素原子と、電子2つが足りなくて不安定な酸素原子が出合って生まれます。
酸素原子は水素原子に電子1個をやって、水素原子が持つ電子2個を酸素原子に取り込んで安定化します。
電子2個は、水素と酸素で共有される訳です。
こうして酸素と水素は水分子になるのですが、異なる種類の原子同士の結合で、また、結合の向きが直線状に無いために分子上で電気の正負が偏って生じています。
磁石の一端がN極、他端がS極の様になっているように、水分子は水素原子の部分がプラス、酸素原子の部分がマイナスを帯びています。
水分子極性のイメージ
このため、水分子同士が近づくとプラスの電荷を持った水素とマイナスの電荷を持った酸素が緩く結合します(水素結合ですが、氷の水素結合より緩い状態)。緩い結合なので水分子は動き回ることが出来ますが、人混みの中を急いで先に進もうとしても人が邪魔で先に行けないように水分子も液体の水の中では水分子がたくさんあるためにあまり動けませんし、動けるほどのエネルギーを持っていません。持っていたら気体になっていますから。
ところが、液体の水と空気が接している面では、空気中には動きを邪魔する分子が少ないので液体中の水分子が空気中に飛び出します。
これが蒸発で、水分子が飛び出しますから液体の水の量は減っていきます。

液体の水から飛び出した水分子は、液体の水面上にたくさん存在し、やっと液体の自ら解放されるぐらいの運動エネルギーしか持っていないので、水分子がくっつき合ってまた水になってしまうこともあります。
水面上に風が当たって飛び出した水分子を吹き飛ばしてしまえば、飛び出した水分子がくっつき合って液体の水になる割合はずっと少なくなり、器内の水分子はどんどん空中に飛んで行き、器内の液体の水は減って行きます。液体の水から水分子が飛び出す割合は水温が高い方が分子が持つエネルギーが大きくなるので増えます。
これが洗濯物が乾く理由です。
洗濯物では衣類の表面から液体の水が無くなると衣類の奥から毛細管現象で水が表面に運ばれて来ます。

次に、水を入れた容器に蓋をしたらどうでしょうか。
ジュースが入っていたペットボトルに半分ほど水を入れて栓をしたものを思い浮かべてください。
ペットボトル内の水が空気と接している面から水分子が飛び出すまでは栓をしないときと同じですが、密閉された容器内なので飛び出した水分子は狭い容器内で他の水分子とくっついて液体の水に戻るものが多くなって行きます。
時間が経つと、液体の水から飛び出した水分子の数と液体の水に戻る分子の数が同じになる平衡状態になります。
このとき、容器の空間内に入れるだけの水分子がある訳で、水分子が容器を圧す力、すなわち別途ボトル内の気圧は最大になります。
このときの気圧を、飽和水蒸気圧と呼びます。
完全密閉された部屋にたくさんの洗濯物を干して前記のペットボトル内の様に洗濯物から飛び出した水分子と、液体の水に戻る分子の数が等しい平衡状態になったらいつまで経っても洗濯物は乾きません。

では、どのくらいの量なら密閉された部屋の室内干しでも乾くのか知りたくなります。
室温30度、6畳間(容積24300リットル)と仮定して、純粋の水を何グラムまで気体として保持できるか計算してみましょう。
全て、理想状態と仮定しているので実際とは違うのはご容赦くださいませ。

気体の状態方程式 PV=nRT を使います。
Pは圧力[Pa] Vは体積[L] nは物質量[mol] Rは気体定数8.3×10^3PaL/(k・mol) Tは絶対温度
ただし、8.3×10^3は、8.3の10の3乗という意味です(プログラミングで使われる表記法)
物質量nを求める式に書き直すと
n=PV÷R÷T
となります。
Pは飽和水蒸気圧とします。30度で0.05×10^5Paとします。
n=(0.05×10^5)×24300÷(8.3×10^3)÷(30+273)
nは約48.3mol なので、水分子の原子量18を掛けて、仮定した密閉6畳間が含むことが水は約870グラムになります。
実際の部屋には湿度として感じる水蒸気が既に含まれているので、洗濯物から870グラムの水は空中には出ません。
室内の湿度80%の部屋を完全密閉してしまえば既に870グラムの80%の水蒸気が含まれているので、洗濯物からは残り20%の174グラムしか空気中に出て行けません。
下図は温度と飽和水蒸気圧の関係をイメージにしたものです。
この図で解るように室温を上げれば飽和水蒸気圧が上がるのでもっと多くの水を洗濯物から空中に出せますが、そのまま部屋の温度が下がったら飽和水蒸気圧が下がるので、空気中に含むことが出来なくなった水蒸気が液体の水にばって落ちて床や畳が湿っぽくなります。
水蒸気圧曲線を表した図
ですから、湿度が高い雨降りの日に室内干しをするときには、扇風機などで洗濯物に風を当てて洗濯物の表面に留まっている水分子に早く退いてもらって液体の水に戻るのを防ぎ、部屋は出来るだけ風通しよくして湿度が上がらないようにする必要があります。

洗濯物は関係ないのですが、冬季に建物内に結露が起きるのは日中の暖かい気温や暖房によって暖められた空気が夜間に冷えると、上図の蒸気圧と温度のグラフで解るように水分子が気体でいられる蒸気圧が下がるためです。蒸気圧が下がるという事は水蒸気でいられる水分子の数が減ることで、余分な水分子は空気中から追い出されて水滴となって現れます。これが、結露です。
寒い日に建物の窓ガラスや車や電車の窓が水滴で曇るのもガラス表面近傍の温度が冷たい外気で下がることによってガラス表面近傍の空気中に水蒸気として居られなくなった余分の水分子が液体になって出たものです。夏季、冷たい飲み物を注いだガラスコップ面に現れる水滴も同じ理由によるものです。

建物内で結露が起こるのを防ぐ方法は2つあります。1つ目は夜間でも室温が下がらないようにすることです。人の居ない部屋に暖房を入れるのは経済的では無いですが。2つ目は室温が下がる前に室内の湿度を下げてしまうことです。特に、冬季に暖房を入れた部屋の乾燥を防ぐために加湿器で湿度を上げた場合には、室温が下がりだすと結露が生じやすくなります。
もっとも厄介なのは壁の内側です。昔の木造家のように隙間風が吹き込むような造りでは湿気も外に抜けてしまいますが、現代の高気密住宅では加湿し過ぎによって内側に入ってしまった湿気は外に出づらくなり、壁にカビを生やす原因になります。加湿器を使うときは必要最低限の以上に湿度を上げずに、夜間冷える部屋では換気をして湿度を下げてしまいましょう