大気が安定しているとは、真夏の蒸し暑い日でも雨が降らない理由

入道雲 ”というのは周知の通り“積乱雲 ”のことで、この意味はもくもくと盛り上がった雲塊が幾重にも積み重なったように見えるので解りますが、入道雲の方は、“入道=坊主頭の恐そうなお坊さん”なのでしょうか。
異称の謂われはさておき、雲は地表の水蒸気を含んだ空気塊が温められて上昇し、気圧が低い上空に昇ると空気塊の温度が下がり、温度が下がる事によって空気中の水蒸気が追い出されて水滴になることにより出来ます。

ところが、真夏の蒸し暑い日には、湿った空気が太陽で温められているのに何故雲になって雨を降らせてくれないのでしょう?
この理由は非常に簡単です。
空気塊が上昇し続ける為には、この空気塊の温度は常に周囲の空気より高くなければなりません。
大空に浮かぶ熱気球を思い浮かべてください。 高度が低くなると、ガスバーナーが点火され、熱い空気を気球に入れていますね。

大雑把ですが、数値を使って考えてみましょう。
伸縮自在且つ質量ゼロの袋に40度の空気を入れ、空気の温度30度の地表に置きます。
当然、袋は上昇します。
地表から100m上空のそれぞれの温度は、周囲は100mに付き約0.6度下がるので29.4度です。
袋の中の温度は0.6度より下がり、100mあたり約0.98度下がるので39.02度ぐらいになります。
最初10度あった温度差が100mで9.62に縮まってしまいました。
袋の中の温度が0.6度より下がるのは、上空に昇って気圧が低くなる事により、袋の中の空気が膨張し、周囲の空気を押し退けるという仕事してエネルギーを失うからです。

袋の中の温度は周囲の気圧により変わるので、上昇続ける内に周囲との温度差は無くなってそれ以上上昇できなくなります。
袋の中には水蒸気が入っていますが、水蒸気が水や氷にならない間は熱エネルギーに変化を与えないので、乾燥した空気と同じと考えて構いません。
それで、空気塊が上昇する事により温度が下がる割合を乾燥断熱減率と呼び、100mあたり約0.976度になります。
“断熱”というのは、上昇する空気塊と周囲の空気の間で熱移動が起きない状態で、という意味です。
乾燥断熱減率は、「系の内部エネルギーの増加量は、外から加えられた仕事量と熱量の和に等しい」という熱力学第一方程式と「気体の体積は圧力に反比例し、絶対温度に正比例する」というボイル‐シャルルの法則により求められます。(一般には状態方程式)

私が雷雨が欲しいと願う日は、以上の説明の様に熱い空気が途中で力尽きてしまう状態で、気象的には“大気が安定している”と言います。

雷雲が発生する場合

  • 熱く湿った空気を入道雲にするには、もっと上空に昇らせて、温度を低くして空気中の水蒸気を水滴にしなければなりません。
    上空に昇らせるにはもっと空気を熱しなければなりませんが、都会では、 直射日光によってコンクリートやアスファルトが非常に熱くなるので近傍の空気は異常に熱くなり、 エアコンや自動車の廃熱でも空気が温められます。
  • 都会以外の雷雨は、湿った熱い風が山の斜面に吹き付け、空気塊が斜面を駆け上って上空に行く場合が多いようです。
    山間部で雷雨の発生が多い理由です。
  • 熱い空気の下に冷たい空気が入り込み、冷たい空気が熱い空気を押し上げる場合もあります。
    これは寒冷前線通過時に起きる雷雨です
  • 陸で温められた空気の下に冷たい海風が入り込むことで上昇することがあります。

湿った熱い空気が自力で上昇し続ける理由

熱い空気を押し上げる理由は様々ですが、ひとたび或る高さまで昇った空気塊は今度は自力で上昇し始めます。
この説明も至極簡単です。
或る高さというのは、水蒸気が水滴になる高さ、即ち雲の底の高さですが、水蒸気が水滴になると熱を放出します。
この熱で空気塊の温度が上がり更に上昇し、水滴が凍りになれば更に熱を放出するので空気塊も上昇続けます。
水蒸気が水滴になる状態での空気塊の温度変化の割合を湿潤断熱減率と呼びます。
水蒸気が水滴や氷になるときに熱を出す理由は、水滴や氷は水分子同士が結合する事ですから、水蒸気のときに活発に動き回るのに使っていたエネルギーを外部に棄てなければ結合できないからです。

入道雲の場合は湿った空気が雲中を上昇する速さは毎秒数十メートルから百メートルに達し、雲の頂上部は零下数十度という高層に届き、水滴は氷になり、氷は重いので雲中を落下するのですが、上昇気流が強いため再び上昇、水滴を付け、それが氷になり落下、そして上昇、これを何回も繰り返し、雪だるまを作る時の雪玉が転がるごとに大きくなるように氷は年輪のような層を作って大きくなって行きます。
(氷が雲中を高速で移動する事により 静電気 が起こります)

そして、氷はついには上昇気流に乗れなくなって、大きな雹となって地上に落ちるのですが、このとき、雹の周りの冷たい空気も一緒に地面を叩きつけるように落ちてきます。
雷雨が来る前に冷たい風を感じるのは、この冷たい空気が地面に当たって拡散したものです。

雷雲の特徴

雷雲が普通の雨雲と違うところは雷雲から落ちてきた冷たい空気が地表近くにある熱く湿った空気を押し上げ、再び雷雲を作り、冷たい空気を落とすの繰り返しで、雷雲を次から次へと作って行くことです。

ところで、雷雨のときに上層と下層で風向きが違う事があります。
単純に考えて上層と下層の風向きが正反対の場合は、積乱雲を真横から見られたら、ピサの斜塔のように傾いている状態になります。
上層と下層の風の差を鉛直シアーと呼び、例えば積乱雲が右に傾いていたら左側を風上、右側を風下とします。

積乱雲が傾いていると、前述した冷たい空気は雲の上層部で作られるので風下に落ちます。
このため、落ちてきた冷たい風によって新しく作られる積乱雲も風下に出来、積乱雲は風下に移動するようになります。
(積乱雲、入道雲、雷雲はイメージによって使い分けているのでご了承ください)