空き地や荒地にイネ科の雑草が多い理由

道端や荒地などに生えている雑草には イネ科植物 が多く含まれています。
道路端に繁茂するイネ科の雑草
(2019年6月23日撮影 道路に繁茂するイネ科の雑草)
イネ科植物というのは、米を実らせて収穫する の仲間です。
ネコジャラシ(エノコログサ)などのイネ科の雑草は、都会の道端から山奥まで至る所に生えていますし、日本的な風情をかもし出してくれる ススキ 笹類 もイネ科です。
雑草だけでなく、 (あわ)、(ひえ)、 (きび)、 鳩麦 などのように我々の祖先を養ってくれたのもイネ科ですし、現代に住む我々を養ってくれている もイネ科です。

ここでは、イネ科植物の役割を考えてみますが、予備知識として、日本の土壌は、“ アロフェン ”が多いために植物の生育にとって必要な微量元素を保持し難いということを憶えておいてください。
その為、江戸時代には人糞が下肥として売買されるほど肥料が必要でした。
田畑の場合は肥料を施して農作物を作れば良いのですが、それ以外の土地の場合は植物が育たない裸地となってしまい、景観ばかりか土砂の流失といった防災上も重大な問題を引き起こします。

ところが幸いなことに、酸性土壌を好み、普通の植物では吸収できない リン酸アルミニウム を吸収し、土壌から流出しやすい ケイ酸 を体内に蓄積できる植物が存在します。
それがイネ科植物です。
火山性の山地、河川敷、道路傍、道端、荒れ地などの痩せ地にススキや笹類などのイネ科植物が多い理由です。
また、困窮した農民が痩せ地で 粟、稗、黍などを作れたのも、痩せ地におけるイネ科植物の優位性のお蔭です。

イネ科植物は長期的にも重要な働きをします。
というのは、ケイ酸を植物体に蓄積したまま枯れ、結果的にケイ酸を土壌中に戻し、当然、枯死した植物体は腐り、それを有機物として土壌に与え、腐植がアルミニウムの活性化(リン酸との結合)を抑制し、土壌を肥沃にするのです。

ただ、 リン酸 の多くは植物が吸収できる可溶性として土壌に戻らないので肥料として補給する必要があります。
現在、田畑地となっている所でもイネ科植物が繁茂して肥沃になったために耕作地として利用できるようになった所も少なくありません。
このような土壌では、肥料を施した上で、大根・ゴボウ、芋などの根菜類や落花生、タバコ葉、桑などが作られています。

イネ科植物の超有用植物は、何と言っても稲です。
イネ科植物が体内にケイ酸を蓄積するということは、成長するのにケイ酸を必要とするということで、稲も例外ではありません。

温暖多雨な日本の気候条件と有用元素を引きつける力の少ない土壌(アロフェン)では、ケイ酸やその他の有用元素は川に流れてしまいます。
しかし、川の水を水田に取り込めば、稲はその水からケイ酸などを吸収して成長できます。
また、稲の植物体には10%ものケイ酸が蓄積されているので、稲藁を肥料として田土に戻せば川の水だけでは不足するケイ酸を補充できます。
このように、稲の水田耕作は、痩せた土壌の多い我が国に適した農産物であり農法なのです。

ちょっと郊外を散歩するとうっとうしいほど目にするイネ科の雑草も、裸地になるのを防ぎ、植物の生育できる土壌を作り上げていると思えば、ちょっと親しみが湧くかもしれません。