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植物が根から葉に水などを送る仕組み

2020年12月8日更新

根で吸収した水を葉に運ぶ通路には“道管(どうかん)”と“仮道管”と呼ばれる2つがあります。
道管は細長い細胞で、上下の細胞膜がありません。
仮道管は道管より短い細胞で作られています。
仮道管も道管と同じ働きをするので煩わしさを避けるために、ここでは道管として話を進めます。

植物が根から吸収した水を葉まで送る仕組みはどのようなものでしょう。
太陽光が葉に当たると葉の温度が上昇しますが、葉中の細胞は高温には耐えられないので 葉から水を蒸発させて水の気化熱で葉の温度を下げようとします。
ストローでコップに入ったジュースを飲むときは吸い続ければジュースはコップから口の中に移動します。
これを植物でたとえると、吸うという動作は太陽熱によっ て葉から水を空中に蒸発させることです。
ストローは道管で、ストローの最下部は根、コップ内のジュースは土中の水分などに当たります。
これで、植物が根から葉に水を送れる理由になるかというと、まだ足りないのです。
ここまでの説明は、昭和40年代ぐらいまで使われていた井戸の水汲みポンプと同じで、 樹高10mまでの植物の答えにしかなっていません。
⇒大気圧を利用した汲み上げポンプ

樹木の中には高さが10m以上になるものがあります。
ユーカリやアメリカ杉などでは樹高100mを超えるものがあるようですが、 樹高数10から50m程度なら身近に目にする大高木類に属する“杉”“檜”“欅”などがあります。

この問題の解決の糸口を見出したのはHales(1769)です。
水分子は水素原子と酸素原子で作られていますが、 当メルマガで話題(粘度や水で)にしたことがあるように 水素原子は他の水分子の酸素原子と結びつきたがります。 (→水素結合による凝集力)
ですから、ある水分子が動くと、その水分子に引っ張られて近くの水分子も引っ張られます。
あまり良い表現ではありませんが、俗にいう“芋蔓式”です。
根から葉まで水が繋がっていれば、葉から蒸発する水を供給するために最上部の水分子が動き、 その水分子に吸引されてその下の水分子が上方に引っ張られます。
これを“蒸散凝集力説”といいます。
この説は葉を切られた枝や幹には水が昇って行かないことや 素焼きの器から水が蒸発するときの吸引力の測定によって正しいとされています。
植物が葉に水を送る仕組み:蒸散凝集力説の実験図

しかし、蒸散凝集力説だけでは全て説明できないこともあります。
芥川竜之介の小説「蜘蛛の糸」のように100mもの高さまで水分子が連なっていたら、 自重で切れてしまうのでは、という心配もあります。
水分子の列が切れないようにするために道管は細く出来ています。
これは道管の側壁と水分子の間の吸着力を利用して、水分子列が崩れるのを防ぐためと考えられています。
また、Dixon(1914)によって根から葉まで運ばれる水は、純水より凝集力が強くなっていることが証明されています。
このとき、Dixonはモチノキから採取した液体の凝集力を133から277気圧と計算しました。 (後の研究者は30気圧とした)
仮に、凝集力が30気圧としても、 冒頭に触れた井戸水の汲み上げポンプの例でお解りのように、 1気圧で10mですから樹高100mの木で必要なのは10気圧で 道管の側壁と水分子の粘着力による損失 (松の木の実測では10mあたり1.5気圧、100mで15気圧) があっても100mの樹高で合計25気圧ですから 十分な値となっています。

次の問題は、根から葉までの水の連なりが途中で切れた場合です。
葉からの水分の蒸散によって水を引き上げる力を得ても、 途中で水の連なりが切れていたら意味がありません。
切れたらこの木は枯れてしまうのか?
この道管は使えなくなるのか? ということです。
実際、樹木は常に風によって揺さぶられているので 道管が切れて空気が混入したり、 極寒地帯では水が凍ることにより道管内に泡が発生します。
道管内の水が凍ったことによって発生する気泡は 気温の上昇する春に再び吸収され 道管は復活する可能性があるようですが、 外部的要因で切れてしまった場合は、 近くに新しく出来る道管を使って迂回し、 最終的は次の季節に新しくできる道管に役割を引き継ぎます。
落葉樹だけでなく常緑樹も古い葉を落とすように使えなくなった器官は棄てて行く、 という植物の本性がここにもある訳です。

また、雷に撃たれたりして道管部が壊れた場合には、 葉で作られた栄養素を運ぶ“師管部”の一部が道管部の役割を代用します。
中心部がくりぬかれたように空いている木が枯れないのはこの例です。
幹の中心部が無くなっても枯れていない欅

ところで、小学生だった頃、“ヘチマの水採り”をしたことがあります。
ヘチマの水は化粧水になるというので、 子供の遊び心に大人びたものが入り込むような実験でしたが、 この場合は茎を切ってしまいますから「葉の蒸散による汲み上げ」は期待できず、“根圧”によります。

根圧は2から5気圧程度、 根の細胞が呼吸で得たエネルギーを使って行うポンプ作用によっています。
呼吸によるかは、細胞に供給される酸素を少なくすると 根圧が下がることによって証明されています。
このように根圧は能動的ですが、 一方の蒸散凝集力は、 太陽熱によって葉から水が蒸発することにより葉内の細胞の原形質や液胞から水分が失われ、 細胞内の浸透圧が上がり、隣接する浸透圧の低い細胞から水分を引き入れるという受動的な現象です。

根が得た水分を葉まで送る力は葉の蒸散凝集力と根圧によるのですが、根圧が特に重要なのは草類です。
多くの樹木、とりわけ年中葉を持っている常緑樹の場合は根圧は 土中の水分を道管に押し込む役割に留まり、植物体内にくまなく水分を供給する力は蒸散凝集力によっていると考えられています。