光行差

天体の位置を角度の分以下まで求めるときに考慮しなければならないのが「光行差」と言われる現象です。
光行差の説明によく使われるのが、垂直に降っている雨の中を走る車中から見ると、雨が斜めに降っているように見える現象です。
この場合は、雨が天体から来る光で、車が地球となります。

通常、私たちが持つ感覚は自分が居る地点を座標軸の原点に採っています。
このため動いているものに乗っているときには無意識に座標軸の変換が行われ、自分は止まっていて周囲の景色が動いていることになります。
車中から見る雨の場合も、雨が斜めに落ちて来ると見えるのは動いている車中に居る私だけで、外に居る人には雨は垂直に落ちていると見えています。

座標軸の変換が行われたために、垂直に落ちている雨の速度に、自分が乗っている車の速度が加わって―――車は雨とは90度方向に 走っているので雨の速度の横成分として車の速度が加わる―――斜めに落ちて来るのです。

光行差の説明に使う自動車内から見る雨の落下速度の説明図

ですから、車の速度が変われば、雨の落ちて来る角度も変わります。

これと同じことが天体から来る光にも言えます。
観測者が動く原因は、地球の公転と自転があります。
前者を年周光行差、後者を日周光行差と呼びます。
地球の公転速度は太陽に近くなる近日点では速く、太陽から遠い遠日点では遅くなるので、年周光行差も変動します。
また、地球上の観測点の緯度によって自転によって生じる観測点の速度が異なるので、日周光行差は観測点によって異なります。
但し、天体の位置は地球の中心を基点にした「地心赤道座標」または「地心黄道座標」で表されるのが普通なので、日周光行差は方位と高度で天体の位置を表す地平座標でのみ考慮されます。
(地平座標は人工衛星の追跡や月の観測に使われますが、観測点の位置を3次元で正確に求めなければ光行差を補正しても正確な値になりません)

更に、惑星の位置推算では、地球が動くだけでなく惑星も動いているので惑星光行差と言われる現象も考慮する必要があります。
もちろん、太陽系や太陽系の所属する銀河系も動いている訳ですが、この二つの動きは恒星の動きに含めて計算されて光行差の計算には含めません。

次に、光行差の求め方に移ります。
前述のとおり、車中の人から見れば垂直に落ちて来る雨の速度に車の速度が横向きの成分として加わります。
ですから、雨と車の速度を方向を持ったベクトルで表すと、雨の速度のベクトルと、これに90度の方向で車の速度を合成して出来たベクトルの値が車中から見た雨の速度ベクトルになります。
解りやすく言うと、雨の速度ベクトルと車の速度ベクトルを90度で挟んで作った四角形の対角線が車中から見た雨の速度ベクトルになり、光行差をもじると雨行差になります。

天体の場合は光が垂直に観測点に落ちて来ることは極々稀でしょうから、光の速度のベクトルを斜めに採ります。
そうすると、光の速度ベクトルと地球の公転速度のベクトルが作る四角形は平行四辺形になり、光行差は本来の光が持つ速度ベクトルと平行四辺形の対角線に当たる合成ベクトルの方向(角度)の差になります。

光行差をP、地球の公転速度をV、光の速度をC、光行差によって見える方向(角度)をQとすると
sin(P)=V/C*sin(Q)
となります。