日食観測用ピンホール望遠鏡を作ってみた

安価な太陽観測用望遠鏡を探していたところ、2012年5月21日の皆既日食に合わせた「太陽観測用ピンホール望遠鏡」なるものを見つけました。
望遠鏡となっていますが、ピンホールカメラのようです。
レンズが付いている望遠鏡で太陽を覗くと失明する危険があり絶対してはいけませんが、太陽観測用に望遠鏡の対物レンズの前に被せる減光フィルターや、接眼レンズの前に付ける減光フィルターも、観測に夢中になって気づかない内に外れたり太陽熱で割れる可能性があり、勧められる観測法ではありません。
そこで、ピンホール望遠鏡が考案されたのでしょう。
ピンホール(針孔)から入ってくる太陽光なら間違っても失明することはありません。

ピンホール望遠鏡の欠点は、ピンホールによってつくられる太陽像は小さく、暗いことです。
下図はピンホールカメラを太陽に向けたときの結像の大きさを計算する方法の説明図です。
ピンホールカメラを太陽に向けたときの結像の大きさを計算する方法の説明図

対物レンズを使っている通常の望遠鏡では、光が物理的性質が異なる媒質境界面で屈折する性質を利用していますが、ピンホール望遠鏡では光の直進性を利用しています。
たとえば、太陽の上端から出た光は遮光板に開けられた小さな孔を通過して下方に進行します。
太陽の下端から出た光は遮光版の孔を通って上方に進行します。
太陽の各点から出た光も孔を通過してそれぞれの位置に応じて進みます。
その結果、孔を通過した光を受ける面(投影版)には太陽像がつくられます。

投影版につくられる太陽像の直径Dを求めるには、上図から解るように簡単です。
Θを太陽の視直径として、 D=2×L×tan(Θ/2)
となります。
太陽の視直径を0.5度 ピンホールから投影版までの間隔Lを50cmとすれば太陽像Dは、約4.3mm。小さすぎますね。
Lを200cmとすれば、約17.4mm。大きさだけは実用的になります。
「大きさだけ」というのは、Lを大きくすると、 光の回折現象 のためにピンホールによって出来る像がぼやけてしまうからです。
地面に落ちた電柱の影を見ると解りますが、電柱の下部の影は電柱の近くに出来るので輪郭がはっきりしていますが、電柱の上部の影はその上部とかなり離れた所に出来るために輪郭がぼやけています。
ですから、 ピンホールと投影板の間隔には像の鮮明度から限界があります。

長い筒を手作りするのは大変ですからホームセンターで売られている塩化ビニールパイプを使うことにすると、下図のようになります。
太陽用ピンホールカメラの組み立て説明図
塩ビパイプの内側を黒く塗るのは難しいので、黒いケント紙を丸めてパイプ内に入れます。
遮光板はAとBの二つを作ります。遮光板Aは木板や金属板で作り、中央に直径1cmほどの孔を開け、塩ビパイプにしっかりつけます。
塩ビパイプと他の素材を付ける接着剤はなかなか入手できないので、ビニールテープなどでつけてください。
遮光板Bはキッチン用のアルミ箔のような薄くて光を通さないものを使い、直径1mmほどの円い孔を開け、その孔が遮光板Aの孔の中央になるようにテープなどで留めます。
遮光版を分けて作るのは、ピンホールの大きさを簡単に変えられるようにするためです。
投影板は半透明のビニールや薄い紙を使います。
写った太陽像を透かして見るようになります。

手許に塩ビパイプがあったので試作してみました。
下左は塩ビパイプの端をアルミ箔で塞いで中央に直径1mmほどの孔を開けたもの。
下中央は試作した望遠鏡。視線が太陽の見える方向と同じになるので太陽光が眼に入りやすくて好ましくないですから、ダンボール板に塩ビパイプが通る孔を開けて写真のように通して太陽光を遮ります。
下右は太陽像を写す投影版。半透明のレジ袋を切って塩ビパイプの端を塞ぐように張ったもの
塩ビパイプを使って作った太陽用ピンホールカメラの写真
太陽光を遮る板をつけないときは、地面に映るピンホール望遠鏡の影が望遠鏡の断面(円です)と同じようになるように望遠鏡の向きを調整すれば太陽に向きますが、遮る板をつけた場合にはこの板の影で調整するので手間取ります。

下写真は実際に太陽に向け、写った太陽像を撮ったものです。
自作の太陽用ピンホールカメラで見た太陽面の写真
パイプの長さは655mm
パイプの内径は24mm
太陽像の大きさは計算では5.7mmになります。
ほぼ計算どおりの大きさで写っています。 
Webカメラのレンズを外して、投影板の代わりにつけると、パソコンで太陽像が見られ、拡大も出来るので見やすいかも知れません。
一眼レフカメラのレンズを外してカメラボディーをつけると、Webカメラより鮮明な太陽像が撮れると思いますが、カメラ内にゴミが入ってしまうので要注意です。

投影板を半透明にしないで白い板に直接投影させれば、視線が太陽を向かず、投影板の材質を選ばなくてもはっきり見えますが、投影板を太陽方向に対して斜めに設置するか、斜め方向から見ることになるので、ほぼ真円の像が歪んでしまいます。
下写真は45度傾けた投影板に写った太陽像

投影板につくられる太陽像が暗いのは、もちろん、太陽光を取り入れるピンホールの大きさが小さいからです。
カメラや望遠鏡などのレンズの明るさを表すF(焦点距離÷レンズの有効口径)がピンホール望遠鏡の場合は、ピンホールの直径を1mm、Lを50cmとしてもFは500となってしまいます。
ピンホールの直径を大きくすれば像がぼやけ、小さくすると像が暗くなり、また回折現象のために像がぼやけます。
像が暗くても(Fが大きくても)よいなら、適当な凸レンズの有効口径を小さくしてピンホールの代わりにつけた方が見やすい太陽像が出来ると思いますが、安全に日食を観察するという趣旨ですから仕方がありません。

夏休みの自由研究にするには、ピンホール望遠鏡で黒点が見えるか?挑戦してみたら如何でしょう。
ピンホールの大きさで像の鮮明度が変わりますし、投影板の材質によって見やすい見難いがあります。