生命誕生 化学進化説

今まで何度か進化論について触れてきました。
初めての進化論は、1859年刊行の『種の起源(自然選択による種の起原について)On the Origin of Species by Means of Natural Selection 』です。
著者は、イギリスの生物学者ダーウィン(Charles Robert Darwin)
彼は、1831年22歳の時から5年間、軍艦ビーグル号に乗ってガラパゴス群島などの動植物を観察し、その結果から彼なりに導いた答えを表しました。

その後も色々な進化論が出ては消えていきましたが、ダーウィンの進化論は色々な問題を含みながらも環境に適した物が生き残るという『自然淘汰説』に根強い支持があります。
環境による動植物の隆盛と衰退、強い物が弱い物を追いやる(弱肉強食)、これらは誰もが目にし、また、動物としての私たちが経験するもので、理論以上の説得力があるためでしょう。
しかし、世紀を越えたテーマを残してくれたダーウィンも自然淘汰説の前、すなわち、生命誕生における神の創造を否定し切れませんでした。
遺伝子などの分子生物学が研究成果を見せる中で、“創造科学者”と謂われる人たちの拠り所は、科学的に生命が創れない以上、神が創造したという点なのかも知れません。

前置きは長くなりましたが、今回は、生命誕生に迫ってみようかと思います。
この問題を初めて科学的に考察したのは、ロシアの植物学者オパーリン(Oparin,Aleksandr Ivanovich 1894-1980)でした。
1924年、『生命の起源』の中で地球誕生から冷めたばかりの原始地球を想定し、アンモニアやメタン、水素などの原始大気に放射線が当たり、 アミノ酸や糖が出来て、生命が生まれるという『化学進化説』を提唱しました。

それからほぼ30年後の1953年のアメリカ、シカゴ大学のユーレー( H.C.Urey)と大学院生であったミラー(S.L.Miller)が、 フラスコの中に、アンモニア、メタン、水素を入れ、その中で稲妻を模倣して夜10時に放電(電気火花)させ、翌朝、黄色い液体が出来ているのを確認しました。
この黄色い液体がアミノ酸の一種のグリシンで、1週間放電を続けると、20種あるアミノ酸の内の7種が出来ました。
この実験は『ミラーの実験』と謂われますが、無生物的に無機物から有機物ができることを立証した衝撃的なものでした。

ミラーの実験後、フラスコ内の大気組成を変えて、生物の遺伝情報を持つのに必要な“核酸”の元になる“アルデヒド”まで作ることに成功しました。
アルデヒドに紫外線を当てると、“糖”と“塩基”が合成され、さらに、糖と塩基は燐酸と結合し、細胞のエネルギー源である“ATP”と分子数の少ない“核酸”が作られました。

最も簡単な生物?ウィルスが核酸とタンパク質だけで出来ているように核酸が作られると、生物に必要なのはタンパク質ですが、 タンパク質は多種類のアミノ酸を含んだ溶液に紫外線を当てることによってアミノ酸の前駆状態である“ポリペプチド”が合成されることが確認されたのです。
ポリペプチドというのは、アミノ酸の結合数が少なくてタンパク質になれない状態のものですが、長期間、稲妻や紫外線、熱などを受ければタンパク質が合成される期待が持てます。

さて、核酸やタンパク質が単なる高分子から生物になるには壁があります。
  1. 子孫を作る遺伝情報を持つこと
  2. 突然変異をすること(生き延びるには多少の変異は必要)
  3. 酵素機能を持つこと(活動エネルギーを作るには酵素が必要)

核酸は、遺伝情報を持てる物質なので(1)と(2)は満足しますが、(3)の酵素機能は無いと思われていました。
しかし、T.R.チェックやS.アルトマンにより、RNA自身にも酵素作用があることが発見されて高分子から生物が出来る可能性が確認されました。 (Thomas R. Cech、Sidney Altman:1989年この発見でノーベル化学賞受賞)

次に問題なのは、核酸のDNAが先に誕生したかRNAが先かということです。
結論から言えば、RNAが先と考えられています。
DNAから鋳型が作られてRNAが出来、このRNAからタンパク質が合成されるのですから、DNAが先に出来ていないと困ると考えるのが普通ですが、 これには難問が待ち構えています。

DNAは、グアニン(G)、シトシン(C)、アデニン(A)、チミン(T)という4種類の塩基がデオキリボースという糖で結合されています。
一方RNAは、グアニン(G)、シトシン(C)、アデニン(A)、ウラシル(U)という4種類の塩基がリボースという糖で結合されています。
問題は塩基を結合している糖で、原始地球を模倣した実験(ミラーの実験など)では、リボースは出来てもデオキリボースは出来ないのです。

次に変異性です。
DNAは何らかの原因で遺伝子上の塩基配列に間違いが起きても相補的な二重らせん構造のために修正されて変異し難い特性があります。
その点、RNAは一重構造なので間違いが起きても修正する方法が無く、巧く間違えば変異となります。

また、T.R.チェックやS.アルトマンによってRNAには酵素機能が発見されましたが、 DNAには発見されていないということも、RNAが先に生まれたという考えになっています。

RNAとタンパク質だけの生物?として思い浮かべるウィルスは、病気予防や治療という他に、生命誕生の秘密を解くものとして研究されています。