生命誕生 続化学進化説

アンモニアやメタン、水素などの原始大気から生命が生まれたという考えは1924年ロシアの植物学者オパーリン(Oparin,Aleksandr Ivanovich 1894-1980) が著した『生命の起源』に端を発し、1953年のアメリカ、シカゴ大学のユーレー( H.C.Urey)と大学院生であったミラー(S.L.Miller)が行った、 フラスコの中で地球原始環境を模し、7種類のアミノ酸が作られる事を確認しました。(→ミラーの実験)
その後、“アルデヒド”の生成が確認されました。
アルデヒドに紫外線を当てると、“糖”と“塩基”が合成され、さらに、糖と塩基は、燐酸と結合し、 細胞のエネルギー源である“ATP”と分子数は少ないながらも遺伝情報を持てる核酸(RNA)が作られます。

このように無生物操作によって、無機物質から有機物質が作られることが確認された訳ですが、1958年F・H・C・クリックは、 DNAからRNAが作られ(→ 転写)、RNAの情報を元にアミノ酸が結合してタンパク質が作られて(→ 翻訳)
逆の流れは無いという原則を提唱して、分子生物学会では有力視されていました。
(→この説をセントラルドグマcentral dogmaという)ですから、RNAからDNAを持つ生物は出来ないと考えられていました。

しかし、1970年ウィルスが引き起こす癌(ガン)を研究していた、 H・M・テミンは、RNAからDNAを作る酵素を発見しました。(→逆転写酵素)
彼は次のような手法を使いました。
先ず、遺伝物質としてRNAしか持たない生物を考えます。
この生物が増える為には
(1)RNAからRNAを複製する
(2)RNAからDNAを作り、このDNAから転写してRNAを作る。
の二通りしかありません。

ここで、DNAからRNAを作る過程を妨害してみます。
それでもこの生物が増えれば上記(1)が成立し、増えなければ(2)が成立すると考えられます。
テミンは、この生物としてRNAしか持たないウィルスを使い、薬剤でDNAからRNAを作る過程を妨害してみました。結果はウィルスが増えませんでした。
但し、タンパク質を作る為に作られるRNAとDNAを作ることが出来るRNAは別のものです。
前者をメッセンジャーRNA、後者をゲノムRNAと言います。

さて、何となく生物が生まれそうな気がしてきましたが、生きる為には食べなければなりませんが、原始地球には有機物が無かったと考えられます。
そこで考えられたのは、周りに転がっている無機物質を酸化させてエネルギー源のATPを作っていたのではということです。
ちなみに、酸化とは電子を失う反応を言い、酸素という物質の有無に関係ありません。
原始地球にたくさんの酸素があったと誤解しないでくださいね。
このような、無機物質を酸化させて活動エネルギーを得る形態の細菌を“化学合成細菌”と呼び、1890年頃には知られていました。
化学合成細菌は温泉水や深海などに見られ、RNA分子や逆転写酵素が高温に強いことを考えると、 最初に生物が生まれた所は地表に近い温泉水などと考えられています。

しかし、化学合成菌が突然変異してより高等な生物になったと考えるより 化学合成細菌は原始地球上に溢れていた硫黄やアンモニアなどの有害物質を無毒化すると同時に、 大量の有機物を作り出し、有機物からエネルギーを摂る生物を生み出す環境を作ったという方が正しいかも知れません。

次に現れたのは、酸素を必要としない嫌気性細菌(アルコール菌や乳酸菌など)と考えられます、 そして、嫌気性細菌によって化学合成細菌が作り出した大量の有機物が消費され尽くすと無尽蔵のエネルギーである太陽光から有機物を作り出す植物の出現を待つことになるのです。

この流れの中で、有機物を食い潰すだけに見える嫌気性細菌ですが、細菌は、全ての生物に共通な20種全てのアミノ酸を作り出すことが出来る ので、これらの細菌が居なかったら細菌より高等な植物は出現できなかったかも知れません。
植物の名誉の為に一言を添えますと、植物も20種全てのアミノ酸を作り出せます。
また、植物と細菌は栄養面でも共生関係が多く、「必須アミノ酸が多く含まれている物を食べよう!」と騒ぐのは、私たち動物だけです。
細菌と植物の方が桁違いに長いお付き合いなんですから仕方ないですね。