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水平を求める水準器の原理・しくみ

「水平」の決め方を考える前に注意することは、 水平は地面と同じ(平行)ではないということです。
これは地球が洋ナシ形をしているとか、地面が平らではないという事とは関係ありません。
水平を求めたい地点の鉛直方向を示す直線と、90度を成す平面が水平です。
こう決めないと重力を感じている私たちは落ち着きません。
欠陥住宅報道で床の上にボールを置いて転がしていることがありますが、 これは床が鉛直方向に90度の角度を成していないからで、 地面と平行という感覚だけで床面を決めたら住人は転がるボール同様になってしまいます。

話を鉛直に戻します。
鉛直方向は糸に錘をつけてぶら下げた方向で、 地表近くにあるマグマや鉱脈などの影響で僅かですが場所によって違います。
ですから、地球上の何箇所かの鉛直方向を伸ばしても地球の中心で交わる訳ではありません。
水平の最も簡単な求め方は文字通り、洗面器のようなものに水を入れれば、この水面が水平面です。 が、これでは実用的ないので、水準器 というものが市販されています。

デジタル時代なのでのデジタル式水準器もあるようですが、 オーソドックスなのは下の写真のように透明なガラス管に液体と僅かな量の気体を入れた気泡式水準器です。
オーソドックスなガラス管を使った水準器
この型の水準器を説明する前に、糸に錘をつけてぶら下げた水準器を考えてみましょう。
下図のようなものです。
錘を使った水準器の説明図
上図で線OBは傾きを測定している線ABと直角に交わるように作ってあり、 “b”の点が水準器の目盛りの0を示すように作られています。
これは、測定している線(水準器の底の部分)が真の水平線と平行になったときの値ですが、 実際は傾いているので、錘をぶら下げた糸(図の赤い線)は目盛り上の“a”のところにあります。

図のような型の水準器では、測定している線の傾きは図の“θ”、または弧abで表されます。
その理由です。
先ず、図に真の水平線と平行な線を2本引きます(水色の補助線)
この補助線は錘をつけてぶら下がっている線(鉛直線)OAと直角に交わっています。
ゆえに、   ∠DOB+∠BOA=90度
  ∠BOA=90度ー∠DOB  ・・・式1
また、線OCは線AEと直角に交わるように作ってあるので
  ∠BAC+∠BCA=90度
  ∠BAC=90度ー∠BCA  ・・・式2
目的を達するには、式1が示す“θ”と式2が示す真の水平線との傾きが等しいことが証明できれば良い訳ですが、平行な補助線を2本引いてあるので
  ∠BCA=DOB  ・・・式3
となり、式3を式2に入れると、   ∠BAC=90度−∠BCA=90度−∠DOB  ・・・式4
となり、∠BOA=∠BAC となります。
ゆえに“θ”の角度か弧abの長さを測れば、真の水平線との傾きが判ります。

ここまで読まれて、水平線との角度を測るのは簡単だと思われた方は残念でした。
100円ショップで買った水準器の感度は、0.0572度となっていたので、上図のような錘をぶら下げた型の水準器で、傾き 0.0572度が弧abの長さ1mmに相当するような水準器の大きさを計算してみましょう。
大きさは図の半径 r で決まります。
この計算は簡単です。
半径 r の円の円周の長さは、2×3.1415926・・・× r  でこれが360度ですから、
弧abの長さ=0.0572÷360.0×2×3.1415926・・・×半径 r
この式から半径r求めると 1001mm 約1mの大きさになってしまいます。

実用的な水準器

さすがにこれでは大きすぎるので、発想の転換で錘をぶら下げる水準器を逆さにしてみます。
そして錘の代わりに、透明なガラス管で真円を作り、その一部を切り出して、この円弧の ガラス管に液体と僅かな気体を入れたものを使います。
液体の中にそれより比重の軽い気体が入ると、気体は液体より上に動くので、糸でぶら下げた錘の逆になるのです。
下がその模式図です。
ガラス管を使った水準器の原理説明図
上図では ガラス管の曲率(曲がり具合)が誇張されています。
この型の水準器が 小型に出来る理由はガラス管が円の一部だということです。たとえ、ガラス管で半径1mの円が必要でもその一部なら小さなものですみます。
水準器のガラス管部分が下の写真です。
ガラス管の長さ(見える部分)は約3cmあります。
気泡の両端にある線の間に気泡が入っていれば、ほぼ水平ということです
ガラス管水準器の写真
水準器を製作しているメーカーの技量はガラス管で正確な円弧を作れるか、また、熱や気圧でガラス管やその中の液体・気体、ガラス管を支える基盤が変化しないように作れるかにあるわけです。

水準器は 私たちが手作りできる代物ではありませんと思ったところで、乱視の入っていない近視用のメガネの内側は正確な球面の一部ですから。
と、また思ったところで、メガネレンズより確かなのは凹レンズを使うことです。
凹レンズ
使う凹レンズは焦点距離が長いほど精巧なものが作れます。
凹レンズは全方位(360度)に曲率を持っていますから、気泡がレンズの中央になったら全ての方位で水平ということになります。
全方位型の水準器もホームセンターなどで比較的安価に売られています。
全方位型の用途は測量機器や天体望遠鏡の架台に付けて、架台を設置するときに大雑把にでも水平を決めるためです。
一般家庭で水準器を使うのは日曜大工を趣味にしている方ぐらいですが、日曜大工は滅多にしない私も手作り日時計の実験をしたときには水準器のお世話になりました。
日時計は文字通り水平に置かなければ計算どおりには時刻を刻みません。それで、東西南北の水平を水準器で合わせました。全方位型水準器なら一発完璧に設置できますが、持っていないので。