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電柱の送電線と単相三線式の利点と欠点

高圧送電用の鉄塔に張ってある電線は3本で一組になっています。 これは交流発電機3台分の電力を送るためです。3台分なら電線が6本必要なはずですが・・・
これを解くには、先ず、交流について知っておかなければならないことがあります。
  • 交流は、電流の向きが時間の経過とともに変わり、一定時間後に元の状態に戻り、これを繰り返す
  • 元の状態に戻るまでの時間を周期、周期の逆数を周波数 と言う
  • 位相は、或る点を基準とした波の遅れ進みで、0~360度までで表される

電気的な特性が同じの交流電気を起こす交流発電機を3台用意し、それぞれの発電機をA、B、Cとします。
発電機Aから出力される交流電気を基準にして、Bからは電流の位相を120度進めて出力、Cからの電流はBより位相を更に120度進めて出力します。
当然、発電機1台から2本の出力線が出ているので計6本出ています。 ここで、それぞれの発電機からコイルの巻き始めの一端(または巻き終わりの一端)を出して3台分を電気的に繋いで、この点から電線を出しておきます(下図左)
三相交流の波形と発電機の結線模式図

三相交流発電機の出力線が3本の理由

次に、上図左の赤矢印で指した線と発電機の出力線の間に同じ値の抵抗を繋ぎ、赤矢印で指した線に流れる電流を計算してみます。
この回路に流れる電流の振幅の最大値を$I$、各周波数を$ω$、時間を$t$、位相を$θ$とすると、ひとつの発電機から出る電流は、$ I \sin (ω t + θ) $ となりますから、発電機Aからの出力電流を位相の基準にして、3本の線をまとめてしまうと

$$ I \sin (ω t + 0 ) + I \sin (ω t + 0 + 120) + I \sin (ω t + 0 + 120 + 120) $$ $$ = I \sin (ω t)(1- 2 \sin(30)) $$ $$ = 0 $$
となり電流値は0

発電機3台が共通に使って居る電線には電流が流れないのですから電線は必要ないので除くことが出来ます。
ということで、発電機3台分の電力が電線3本で送れることになります。

三相交流の容量

このように位相が120度づつずれている交流を 三相交流 と呼びますが、電線3本の送電線から発電機1台分づつの電力を取り出すことは出来ませんし、 測定できるのは3本の電線の間の電圧と、電線を流れる電流だけなので、実用上の三相交流の容量は、発電機3台分では無く、電線間の電圧×電流×3の平方根となります。

道端に建っている電柱を見上げてみると

住宅街に建っている電柱に張ってある送電線
  1. 架空地線
    送電線に雷の電気が誘導されないようにしています
  2. 6.6KV三相交流送電線
  3. 写真では良く見えませんが水平に2本張られている動力用200V三相交流送電線
  4. 単相100V電灯用3線送電線
  5. 単相用柱上変圧器2台をV字形に接続して、200V動力用三相交流に変換しています
  6. 需要家へ繋がっています
  7. 需要家へ繋がっています

架空地線の下に水平に3本張られている電線は、高圧6600ボルトの三相交流送電線です。
その下に、上下に並んで張られた送電線が3本あります。
これは一般家庭用の単相3線の電灯用送電線で、上の線と下の線から引き込めば200ボルト、中の線と上または下の線から引き込めば100ボルトが得られます。
所によっては高圧三相交流送電線と単相3線交流送電線の間に、電線が水平に2本張られています。 これは、単相3線送電線の1本(一番上)と組み合わせて200ボルトの動力用三相交流送電線になっています。

三相交流は位相が120度づつずれているので、3本の線の間に電磁石をそれぞれ接続すると、 電磁石の作る磁場が時間とともに回転するので、これらの電磁石の近くにアルミ盤を置けば、アルミ盤に渦電流が誘起して磁力を発生して電動機になります。
家庭用の電動機(例えば扇風機)は、単相交流(電線2本)が供給されるので、 コンデンサーを入れて電流の位相をずらして回転する磁場を作っています。

話は元に戻りますが、電柱の上についている変圧器で電圧を下げて、高圧6600ボルトの送電線からを家庭用の単相3線送電線や低圧動力送電線に送っています。
電気を高い電圧で送る理由は、送電線上で熱として失われる電力が、送電線の抵抗×電流の二乗 で表され、電力は電流×電圧で表されるので、 同じ電力を送るなら電圧を高くすれば電流が小さくて済み、失われる電力が少なくて済むからです。

家庭向け送電線が3本の理由

一般家庭用には、上下に3本張られている単相3線送電線から送られていますが、どうして3本必要なのでしょうか?
現在は家庭でも単相200V仕様のエアコンやIHが多いので家屋内の配電盤まで単相200V(電線3本)が来ている場合が多いですが、古い家屋の場合には単相100V(電線2本)です。
単相3線式送電線の概略図
しかし、電柱の送電線は家庭に200V仕様のエアコンが普及する前から3本1組でした。
送電線の銅線は安くないのに昔から3本一組だった理由は、2本1組より3本1組の方が送電線に掛かる費用を安く出来るからです。
この送電方法を単相3線式と呼びます。
単相3線送電線には交流が供給されている訳ですが、一瞬だけ考えれば、100ボルトの乾電池2個を上をプラス側にして上下に直列に繋ぎ、 上の乾電池のプラス極から1本(a)、2個の乾電池の間から1本(b)、下の乾電池のマイナス極から1本(c)の電線を出して送電線3本にしたのと同じになります。
単相3線式送電線の中央線に電流が流れない理由の説明図
ここで、送電線 a と送電線 b の間に抵抗R1を繋ぎ、送電線 b と送電線 c の間に抵抗R2を繋いでみます。R1=R_{2}のときは、 直感的に解ると思いますが、送電線 b の電流値は打ち消しあって0になります。三相交流の話のときは電流が流れない線は除きましたが、 この場合で除いてしまうと100ボルトが取り出せなくなるので除けません。
また、負荷抵抗R1と負荷抵抗R2が同じ値だったので送電線 b に流れる電流は0でしたが、負荷抵抗R1とR2の値が異なったときには送電線 a と送電線 c の電流の差が送電線 b に流れます。家庭向けの電力供給では負荷が変動するので送電線bに流れる電流が問題になります。    

単相2線(送電線2本)式と単相3線式の効率を計算してみましょう

計算条件は、送電する距離が同じ、送電線上で失われる電力損失は同じ(電力供給側とすれば送電方法が違っても損失は同じにしたい)、負荷に供給される電力は同じ、負荷にかかる電圧は同じ、負荷の力率は考えない(交流用機器はコイルやコンデンサーが入っていることが多く、また、交流にとっては送電線や機器内の配線自体がコイルやコンデンサーと同じになってしまうので電流と電圧の位相がずれ、無効電力が生じるがこれを考えない)
単相3線式の利点を説明する図
先ず、単相2線式の場合
電線の抵抗を$ R_{2}$、電線に流れる電流を$I_{2}$ 、負荷の両端の電圧を$V$とすると、電線上で熱として損失される電力$P_{2} $は、 $$ P_{2} = 2(I_{2})^{2}R_{2} $$ 負荷で消費される電力$P_{2}$は $$P_{2}=I_{2}V $$

単相3線式の場合は、 電線の抵抗を$R_{3}$、電線に流れる電流を$I_{3}$ 、負荷の両端の電圧を$V$とすると、 3線式では上中下に張られた3本の中の線には基本的に電流が流れないので送電線上で熱として失われる電力$P_{3}$は

$$ P_{3} = 2 (I_{3})^{2} R_{3} $$ 負荷で消費される電力$ P_{3} $は $$ P_{3} = 2 I_{3}V $$
となります。
$ P_{3} $の計算で2倍にしてあるのは、3線式では送電線の上の線と中の線の間、中の線と下の線の間の2箇所に負荷が繋げるからです。
ここで、使いたい電力は2線式でも3線式で同じなので $$ P_{2}=P_{3} $$ $$ I_{2}V = 2 I_{3} V $$ $$ I_{2} = 2I_{3}$$ となります。
電線上で失われる電力が同じと仮定しているので
$$ P_{2}=P_{3} $$ $$ 2 (I_{2})^{2} R_{2} = (I_{3})^{2} R_{3}$$ $$ \frac{R_{2}}{R_{3}} = \frac{(I_{3})^{2}}{(I_{2})^2} $$ この式に先に求めておいた$ I_{2}=2I_{3} $を入れて
$$ \frac{R_{2}}{R_{3}} = \frac{(I_{3})^{2}}{2I_{3} 2I_{3}}$$ $$ = \frac{(I_{3})^{2}}{4(I_{3})^{2}} $$ $$ = \frac{1}{4} $$
となります。

これは、同じ電力を供給するなら、3線式の電線の抵抗は2線式の電線の4倍あっても良い ということを表しています。
電線の抵抗は電線の断面積に反比例しますから、3線式の電線の半径は2線式の半径の2分の1で良いので、 電線に必要な銅は、3線式が電線3本必要と言うことを考慮に入れても、2線式の8分の3 で済みます。

次は送電線の電圧降下です。電柱上の変圧器で110ボルトに落として電灯用送電線に給電しても、家のコンセントで測ったら90ボルトでは困ります。
電圧降下は送電線が持っている電気抵抗によって起こります。
2線式、3線式とも電気抵抗$R$の同じ電線を使った場合、 2線式の電圧降下$V_{2}$は、電流を$I_{2}$とすると $$ V_{2} = 2R I_{2} $$ となります。
3線式の電圧降下$V_{3}$は、電流を$I_{3}$とすると、3線式は中の線には電流が流れないので、上の線(または下の線)と中の線で供給をされるときは、一本分の $V_{3} = R I_{3} $ となります。

電圧降下の比 $\frac{V_{3}}{V_{2}}$は $$ \frac{V_{3}}{V_{2}} =\frac{R I_{3}}{2 R I_{2}} $$ $I_{2}=2I_{3}$なので
$$ \frac{V_{3}}{V_{2}} = \frac{I_{3} R}{2(2 R I_{3})} $$ $$ = \frac{1}{4} $$
となり、3線式の電圧降下は2線式の4分の1 で済むことになります。

単相3線式の欠点

単相3線式は、送電線の量、電圧降下が少ない優れた送電方式ですが、このままでは致命的な欠陥があります。
それは、負荷を繋ぐときには、上の線と中の線に繋ぐ負荷と下の線と中の線に繋ぐ負荷を等しくすることが難しい、また、中の線が切断した場合には、上と下の送電線間で直列接続になってしまうので線間電圧が異なってしまうことです。
これらの欠点を解消するには送電線終端に「バランサー」という変圧器を入れて、線間電圧を一定に保ちます。
人口密集地では数百メートル毎に三相6600Vから単相220Vに落とす変圧器が、単相220V送電線から見れば並列接続されているので線間電圧の違いは吸収されてしまいます。

住宅街では単相3線式と低圧動力線が多いと思いますが、 電力をたくさん使う工場や大きなマンション、 商業施設では6600ボルトまたは数万ボルトの高圧送電線を直接引き込んで、 自家設備で、用途に応じて電圧の低い三相4線、三相3線、単相3線などに変換して使っています。