音波を探査に利用する動物(動物のエコロケーション)について

エコロケーション(echolocation)とは、電波、音波などを放射し、物体に当たって反射してきた、電波、音波などを分析して、物体の位置を知る方法です。
エコロケーションを使用している動物で有名なのは、コウモリとイルカです。
コウモリのエコロケーションは、1950年代、Griffin,D.R によって髪の毛ほどの細さのピアノ線も避けられる能力があることが確認されました。
コウモリは鼻から3万から12万ヘルツの超音波パルス(注1)を放射し、物体に当たって撥ね返って戻ってきた微かな超音波を耳で受け、放射してから反射して戻って来るまでの時間と音速から物体までの距離を測ります。
音の秒速は気温10度で337メートル程なので、放射してから戻ってくるま で1秒なら1秒間に音が進む距離337メートルの半分が物体までの距離となります。

コウモリが超音波の反射を使って探索できる距離は、持続時間1ミリ秒の超音波を毎秒10回ほど放射するという観察結果から考えて17メートル程度になります(注2)
最長距離が17メートルというのは短い気もしますが、音速が気温や気圧などで変化し、気温は数メートル離れただけで違う事もあるのですから、17メートルが限界なのかも知れません。
しかし、餌を捕る直前は超音波パルスを毎秒200回程度放射し、闇夜に飛んでいる蛾を毎秒1匹の割合で捕食できると言いますから近距離ではかなりの精度だと想像出来ます。

物体までの距離は反射して戻ってくるまでの時間で判りますが、物体の大きさは、反射して戻ってくる超音波の大きさで知ります。
反射面(物体が大きい)が広ければ、反射する超音波の量が多い訳です。
また、放射する超音波の周波数を変えられるということから、周波数による反射量の違いから物体の大きさ・材質を知るのかも知れません

その他、波である音には、ドップラー効果と言われる現象もあるのでこれも利用していると考えられます。
ドップラー効果というのは、音源とその音を聞く側の間の距離が変化すると音の高さ(周波数)が変化するというものです。
すなわち、反射して戻ってくる超音波の周波数が高くなっていれば、自分(コウモリ)と物体の距離は縮まっているということですし、周波数が低くなっていれば、距離が広がっているということです。
コウモリがドップラー効果を使って居るという根拠には、コウモリが広範囲の周波数の超音波を放射できる事実から推測できます。
放射する超音波の周波数を変えられるという事は、周波数の変化が判るということです。

こう考えてくると、コウモリは非常に複雑な聴覚を持って居ることが想像できます。
これについて、菅乃武男氏(注3)は、コウモリの聴覚細胞には、超音波が反射して戻ってくる時間毎に反応する細胞があることを発見しています。
すなわち、時間差(距離)と反応する細胞がハード的に対になっているので、脳は反応した細胞からの信号で直ぐに物体までの距離が認知できます。

ところで、コウモリは音の世界をどう感じているのでしょう?
身体を上下左右前後にすばやく動かして、障害物を避けたり、蛾を捕食するのですから、私たちが眼で外界を認識するように、可視光の代わりに超音波を使った三次元像として認識されているに違い有りません。
私たちの場合、「眼で見るのではなく脳で見ている」と言われますが、外界に向けられた窓が“眼”であれ“耳”であれ、外界を脳に写し取る機能は代わりが無いのかも知れません。

次に、人間にもエコロケーションがあるか? です。
眼そのものが可視光の反射を利用しているのですからエコロケーションがあると言えるのですが音に限ってみますと、眼の不自由な方に耳栓をして音が聞こえないようにした実験があります。
その結果によると、音が聞こえないと耳が聞こえる時より行動が不自由になるということです。
ただ、人間は可聴音である波長の長い音波を使うので物を識別する能力をどんなに磨いても波長の短い音波を使うコウモリには勝てません。
波長の長い音波は、一定方向に集中し難いし、小さな物体では反射率も低いのです。
例えば、スーパーで買い物をしている時に他人の携帯が鳴っても直ぐに携帯の持ち主に視線が行くのは、携帯の呼び出し音が高い音(周波数が)を出しているからです。
太鼓のように低い音ならだいたいの方向が判るだけです。

(音だけ でどこまで行動できるか探るのは、夏休みの自由研究に最適かも・・・・)

注1:3万から12万ヘルツの超音波パルス
ヘルツは、波の1周期が1秒間に何回かを表す時の単位です
家庭に来ている電気は、糸魚川より東は50ヘルツ、西は60ヘルツ
時報の最初の音は440ヘルツ、0秒を表す音は880ヘルツです。
3万ヘルツというと、音波の波が1秒間に3万回ということです。
パルスは、一瞬だけ出るものです。
1秒だけ音を出しても、持続して出さなければパルス音です。
コウモリの出す超音波は、かなり大きな音で、聞く事が出来たら夜はその音で眠れなくなる程だそうです。

注2:
毎秒10回超音波を放射するということは、放射した超音波が物体に当たって反射してくるまでの最長時間が、0.1 秒以内でないと、次に放射する超音波の反射と混じってしまいます。
音の秒速は気温10度1気圧で337メートル程なので、音が 0.1 秒間に進む距離は33.7メートル、これはコウモリと物体までの往復の最長距離なので、物体まではその半分の約17メートルがコウモリの探索範囲と考えれます。

注3:
菅乃武男
1990「音波情報を処理するコウモリの神経機構」サイエンス8月号