植物の根は土壌細菌によって守られている
「植物の生存に土は必要か?」これは愚問かも知れませんね。
小学生の頃には球根の水栽培をやりましたし、スーパーの野菜売り場には根回りに泥の代わりにスポンジが付いている葉物野菜が売っていたりしますから。
このスポンジは土を使わない
水耕栽培
で育てられた証しみたいなものです。
水耕栽培はご存知のように、植物の根を酸素と肥料を溶かした水溶液に浸して育てるものです。
水耕栽培に
人工太陽
と温度調節などの設備をすれば、
野菜工場
となるのも周知の通りです。
さて、地面に育つ多くの植物にとっての土の役割で直ぐに思いつくものは、土は、根を張って体を支える基盤であり、必要に応じて水分や活動に 必要な微量元素を取り入れる所ということです。
しかし、よくよく考えてみると土の中に根を張るというのは大変危険な事です。土壌中にはたくさんの
細菌
などが棲息しています。
園芸愛好家の方で植物の病気に神経を遣われる方は殺菌済みの土を使います。
しかし、マメ科植物の根に
根粒菌
が棲み着いて、窒素を植物が利用しやすい形に変えているというのも広く知られています。
善い菌、悪い菌、どうでも宜い菌と簡単に割り切れるのでしょうか。
土(
粘土鉱物
)が出来た当初は、その土に含まれている特定の
無機物
だけで、或いはその無機物があっても生存できる細菌が棲んでいます。
そこに何処からか植物の種子が飛んできて発芽します。
そして、植物は根を張ります。
根は土壌中から栄養素を吸収する為に酸を分泌します。
また、根は成長するので古い細胞は死に
有機物
となります。すると、ありとあらゆる細菌が集まって来て増殖を始めます。
当然、動植物の死骸などがあった古い土では、種子が根を張る前に細菌の巣となっています。
一方、植物は、消化器官がある動物違って、水分や栄養素を吸収する根という組織が細菌の巣の中に露出しているという(動物の消化器官も解剖学的には、外界と接していると考えるようですが)極めて危険な状況にあり、細菌から身を守る手段が必要です。
そこで、植物はボディガードを善い細菌グループに頼みました。
植物と細菌の
共生
です。
植物は根から
炭水化物
(グルコース、ショ糖など)、
アミノ酸
(ロイシン、グルタミンなど)、
有機酸
(クエン酸、リンゴ酸など)などを分泌して細菌を養います。
細菌の方はというと、根の周りに
コロニー
を作って悪い細菌が根に近づかないようにします。
根の周り3ミリメートル程の範囲に、このような細菌が安定して棲息しています。
細菌は1種類ということは無く、数十数百という種類が植物とは勿論のこと、植物の種類やその場の環境に応じて、細菌同士でももちつもたれ合いで社会を形成しています。
人間の肌や胃などに居て悪い細菌が増殖しない様にしている
常在菌
と同じです。
このようなボディガード的な細菌類は、悪い細菌が居ない場合には、植物の栄養を横取りしているだけですから植物の成長を妨げる方向に働きます。
悪い細菌が居ない例は自然界には無い訳ですが、人工的には無菌状態の水耕栽培で行われており、通常の栽培より成長が良いようです。
ボディガードの細菌類が根の周りに形成されない間に悪い菌に侵入され、植物の抵抗力が落ちていれば病気になるのは勿論ですが、“ 日和見感染症 ”といって、植物が弱っていた場合にはボディガード的な細菌類の一部が病気を起こすこともあります。
土壌中にはたくさんの 細菌 などが棲息しています。土壌1グラム中の細菌数の計測例(Mishustin 1956)
森林・混草地 未耕地 1.086×10 6 個 耕地 2.62×10 6 個
混草地草原・草原 未耕地 3.63×10 6 個 耕地 4.583×10 6 個
植物は土壌中の細菌から自らを守るために細菌と
共生
しています。
人間や動物の皮膚表面や消化器官に生息している
常在菌
と同じです。
これらの細菌類の中で植物にとって最も重要なものは“
外生菌根類
”です。
“
菌根
”というのは、 植物の根の中、または根の外側に菌糸を張り巡らせる細菌類をいいます。
一番解りやすいのは生きている樹木に生えるキノコがその例です。
(キノコは、菌の“
子実体
”)
外生菌根は後者を指し、植物の根を菌糸で覆い、植物の80%が何らかの外生菌根と共生関係にあると謂われます。
外生菌根類は
葉緑素
を持たないので
光合成
は出来ません。
そこで、生活に必要なエネルギーは、根からの分泌物として植物からもらいます。
その代わりとして外生菌根類は、植物の欲しがるもの・・・・例えば、成長を促す植物ホルモン、土壌中の栄養素を吸収しやすい形にしたものなどを与えます。
この結果として、外生菌根類と共生関係にある植物の根は肥大し、細かい根が少なくなります。
(通常、細かい根が土壌中の栄養素を吸収するので容易に必要量が摂れれば細かい根は少なくなる)
このように、植物にとって外生菌根類は重要な共生相手なので、植物は外生菌根類を集めようと、 外生菌根類の成長促成物質“M−因子” を根から分泌しています。
しかし、
植物と外生菌根類の蜜月は簡単には生まれず、また永久(とわ)でも無いようです。
外生菌根類の中で最も観察し易いのはキノコ類、その中でも商業価値の高い“松茸”についての観察例では、2,3年生の若い松に松茸菌が着くと、松は枯死し、松の年齢が20年以上から60年までが蜜月、それ以降は松茸は採れなくなるそうです。
青二才は弄ばれ、大人は“金の切れ目が縁の切れ目”みたいな気が、ふと・・・・
話を戻しまして、ちなみに、1本の松茸が生まれるには土壌面積で100~200平方センチメートル。
土壌体積1500~2000立方センチメールの範囲に、松茸の菌糸が密に生育している必要があるようです。