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平面型日時計の作り方

日時計の時刻目盛りから話を始めたいと思います。
厳密な理論を辿って目盛りを付けようとすると、先ず、目盛りを付けたい時刻の太陽系での地球の位置を求め、座標変換によって日時計を設置する地点から太陽の見える方向を算出し、それから影針が作る影の位置を求めることになります。

しかし、この方法を実行するには、地球の運行法則を知り、球面三角法、微積分などの計算法を知らなければなりません。
惑星の運行法則は、ケプラー(Johannes Kepler1571-1630)の著作“新天文学(Astronomianova 1609年)”で発表された、いわゆる、 ケプラーの法則

第1、惑星は太陽を焦点とする楕円軌道を描く。
第2、太陽から惑星に 至る直線は等時間に等面積を描く(面積速度保存の法則)

を待たなければなりませんが、遺物として残っている最古の日時計は、エジプトのトトメス三世時代(B.C.1500年頃)ですから、別の方法で時刻目盛りを刻んでいたはずです。

ここで、電灯が無かった昔の生活を考えてみましょう。
日の出と共に起きて、日の入りで寝るという生活ですね。
であるならば、太陽が出た直後の影針が作る影の位置と沈む直前の影の位置に印を付けて、その2つの影が作る角度を適当な数で割ってしまい、その値ごとに目盛り刻めば、生活の目安になる時刻は判ることになります。(影の長さが最も短く時刻がこの地点の正午です)

実際には日中の一番長い日(夏至)の“日の出、正午、日の入り”の時刻の影の位置を使います。
こうして刻んだ時刻は“ 不定時法 ”と呼ばれます。
というのは、日の出日の入りの間を12で割って1時間を刻み、影が1目盛りの間を動く時間を現在私たちが使っている時計( 平均太陽時 )で測ると、夏季は1時間15分、冬季は45分となり、季節によって1時間が異なるからです。

この不定時法は、機械時計が現れるまでは広く使われていました。
時代劇などで「八つ時」と言ったりするのはこの例です。(八つはおおよそ午前2時頃または午後2時頃)

現在、 私たちが水平式日時計に時刻目盛りを刻むには、日時計設置場所を中心に太陽が回っているとして導いた
 tan(A)=sin(緯度)×tan(太陽の時角+L-135) ・・・式1
という簡便な式で済ませます。
但し、Aが求めるもので、南北を結ぶ線との目盛りの角度です。Aの値がプラスの場合は真北から東側です。Lは設置場所の東経です。
太陽の時角は、正午から1時間を角度15度とします。
午前10時なら-30度、午前11時なら-15度、午後1時なら15度、午後2時なら30度となります。
たとえば、映画「男はつらいよ」で有名なお寺・柴又帝釈天の境内に日時計を設置するとすれば、緯度が約35.76度、経度が約139.87度なので、式1に午前8時(時角ー60度)を入れると
tan(A)=sin(35.76)×tan(-60.00+138.87-135.00)
tan(A)= - 0.87
A= - 41.0
午前8時には、真北から西側に41.0度に引いた線上に影が出来ます。

日時計は、南北線を正確に南北に合わせなければなりません。
任意の場所で南北を正確に求めるにはどうしたらよいのでしょう?
方位磁針を使う方法は簡単ですが、磁針が示す北と天の北極、地図上の北が一致しません。
地球の南北は自転軸の方向をいう訳ですが、磁針が示す南北は、自転軸の南北と比較して、国内においては5~10度西に偏っています。
これを“ 偏角 ”と呼び、10年に角度で数10分ぐらい変化します。
偏角の値が変動する理由は地殻が流動性を持っているからで、ちなみに地質学では、岩石に残っている僅かな磁力のNS極を測定して過去の地磁気の向き、地殻の動きを推定しています。
また、方位磁針では偏角の他に地表面の鉱物、周りの 建物等の構造物の影響を受け、真の南北を示しません。

方位磁針が不正確なら“北極星”を思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、残念ながら 北極星は天の北極にありません。
地球の赤道面と天球の交点を0度、天の北極(自転軸方向)90度とする座標系(赤道座標)で89度20分ぐらいの位置ですから、地球の自転による日周運動で天の北極を中心として角度1度未満の円を描きます。

北極星を使って真北を求めるには、望遠鏡で北極星を覗き、最も東に位置したときと最も西に位置したときに印をつけておき、その中点を採るという方法があります。
でも、日周運動で東から西に動くのには12時間掛かりますから一般的な方法ではありません。

パソコンやスマホが手軽に使える現代での 現実的な方法は、予めプラネタリウムアプリなどで 北極星が子午線を通過する時刻を調べておき、子午線通過時刻に北極星が見えた方向を真北とします。
北極星は12時間で2度弱しか動きませんから子午線通過時刻に多少の誤差があってもかなり良い値が得られます。 子午線通過時刻から真北を求めるのは太陽を使っても出来ます。
予め太陽の子午線通過時刻を調べておき、この時刻に太陽が作る影の方向が真北です。

先に計算例に挙げた柴又帝釈天境内に設置したと仮定しての話です。
柴又帝釈天から最寄り駅の京成柴又駅まで300m徒歩4分だそうですが、上記の式1によって正確に作られた日時計を見て柴又駅発車時刻の4分前に帝釈天を後にして駅に歩き出しても、殆どの場合において乗り遅れるか電車を待つことになります。
というのは、式1には、 この式によって時刻線を刻んだ日時計を目盛り盤の南北線を南北に合わせて設置して求めた時刻に均時差を加えないと 平均太陽時(日本標準時)にならないからです。
均時差で補正しない日時計の時刻は、視太陽時です。遠く離れた場所に移動することは無く、日の出と共に起き、日の入りで寝る古代の様な生活には視太陽時でも困りませんが、国や地域ごとに標準時が決められている現代では不便です。

任意の日の均時差 h を求める式を掲げておきます。
均時差 h を求める式は、均時差は4年と1年周期のそれぞれの成分が重なっていますが、近似的には以下の式で表されます。
日時計の精度は上手に作っても1分ぐらいなので十分な近似です。
h=7.7sin(g)-9.9sin(2*(g+w)) 分
但し、g=359+0.986d 度
g+w=280+0.986d 度
d は年初1月0日からの経過日数

計算すると判るのですが、均時差は下図に示したように+15分から-15分の幅で変動します。
日時計の均時差の年変化を示す図
下写真は日時計の実験中
自作した平面型日時計の精度確認中の写真
水平式日時計の影針となる棒を時刻目盛り盤の南北線上に設置場所の緯度だけ傾けて付けなければなりません。 (工作のし易さや耐久性から三角板を使うことが多い)

子午線とはある地点の天頂と天の北極と南極とを通過する天球上の大円
影針とは日時計で時刻を示す影を作る棒や三角板

日時計の精度

日時計も時計ですから誤差が気になります。 日常使っている日本標準時に合わせるためには先に触れた「均時差」で補正しなければなりませんが、 日時計には最新鋭のコンピューター制御の工作機械を駆使して作っても原理上克服できない誤差が存在します。
1つは、光が波の性質を持つことから生じる回折現象です。 海釣りを堤防でする方は実感していると思いますが、堤防の内側でも波は小さくはなりますが入ってきます。 これと同じ事が日時計の影針が作る影にも生じて影が先鋭にならないのです。
もう1つの大きな理由は、太陽が無視できないほどの有限の大きさを持っているからです。
 日時計の針の影が太陽が大きいために先鋭化にならない説明図
上図は誇張して描いていますが、日時計の時刻目盛を詳細に描くために日時計を大きくすると影も大きくなって細かい目盛が読めなくなってしまいます。ですから、ある程度の実用性を求めるなら大きければよいというものでは無いですし、大きなモニュメントなら時刻目盛を細かく入れても意味がありません。