クリスマスと冬至

先ず“暦”とは何かを考えてみましょう。
言うまでも無く、暦は人間が行動する時の時間的な物差しですから、普遍の暦がある必要はありません。
イスラム諸国や中国・台湾などは独自の暦で年中行事を行っているのは、ニュースなどで報じられるのでご存知かと思います。
日本にも、日本書紀(注1)が伝える西暦紀元前660年神武天皇(注2)即位の年を皇紀元年とした暦があります。

暦の元年はそれぞれの国の神話に基づくものが多いようですが、ただ、地球上に住んでいる限り1日、1ヶ月、1年という名称はともかく、 その繰り返す周期は太陽と月に決められてしまっています。
また、暦には、太陽を基にした“太陽暦(注3)”と、月を基にした“太陰暦(注4)”がありますが、 太陽暦を採るか太陰暦を採るかは、主に宗教と狩猟民族か農耕民族かで決まるようです。

ここで、月に関係する神話を・・・・
日本神話に出てくる月神は、“月読尊(注5)”という男神で、姉である太陽の女神“天照大神(注6)”と諍いを起こして仲が悪くなり、 太陽と月は同時に現れなくなったという記述があるぐらいです。
そして、日本人が抱く月に対するイメージは、かぐや姫の昔話や月面での兎の餅つきのようにけして悪いものではありません。
しかし、西欧では太陽は善で月は悪というイメージがあったようです。
例えば、ギリシャ神話の月の女神は、貞節なダイアナであると同時に、嵐を支配し、魔女たちの保護者であった恐怖のヘカテで、ハロウィーンはヘカテを祭ったものです。
また、月が精神病を引き起こすと考えられていました。
英和辞書で、“lunacy”と引けば精神異常,狂気(月Lunaの光に犯されると狂人になるという俗説に基づく)有名な満月の夜に現れる狼男の伝説には、lunacyの影響があると考えられています。

私たちが古代人だとして1年の始まりを何処に置くか考えてみましょう。
もちろん、時計や方位磁針(コンパス)はありません。
太陽を直接観測するのは眩しいし、太陽と地平線との成す角度を求めるのは非常に難しいです。
で、思いつくのは太陽が作る陰です。
平らな地面に1本の棒を立て、その棒が作る陰の軌跡を調べれば、真南が判ります。
※最後に注意項目あり1年中、陰が最も短い向きが真北ですから、その反対側は真南です。
その真南の位置で最も陰の長い日が“冬至”で、最も陰が短い日が“夏至”です。
冬至は太陽の高度が最も低いので陰が長く、夏至は最も高度が高いので陰は短くなります。
このように、冬至と夏至をどちらかを1年の始めにするのが観測上便利です。
2者択一ですから、どちらを1年の始めにしますか?
当然、冬至になります。
夏至はこれから日が短くなり、草木は枯れるのですから相応しくありませんが、冬至は、これから少しずつですが日が長くなり、しばらくすれば草木も萌えてきます。
という訳で、昔々は、冬至を年始めとしていました。
中国では、前漢(紀元前202?後8)以前の年始めが冬至でした。
(中国に由来する占いは、現在では“春分”を年の始めとしています)

今度は、“クリスマス”を考えてみましょう。
クリスマスは、キリストの生まれた日とされています。
聖書に拠れば、天使ガブリエルがマリアに神の子が宿ったと告げた、いわゆる「受胎告知の日」は、3月25日で、それから9ヶ月後の12月25日に生まれたとされています。

クリスマスにはもう一つの意味があります。
ギリシャ神話にはクロノス(注7)という神が居ました。
クロノスは、ゼウスに追われてイタリアに逃げ、サトゥルヌスという神になり、人間に農業を教えました。
それを感謝し、古代ローマでは12月17日から7日間にわたって人々は贈り物を交換し、ローソクに火を灯し、サトゥルヌスを称えお祝いしました。
このお祭りの最終日がクリスマスで太陽神ミトラ(注8)が復活する冬至の日に合うように計画されました。
後に、ミトラはキリスト教徒によって葬り去られました。
しかし・・・・・キリスト教徒にとっても、この世の太陽であるキリストが復活する日は、実際の太陽も復活する冬至である必然性があったのです。
現在、クリスマスと冬至の日付が合わないの計算上の狂いだそうです。

聖書に拠れば、天使ガブリエルがマリアに神の子が宿ったと告げた、いわゆる「受胎告知の日」は、3月25日で、それから9ヶ月後の12月25日に生まれたとされています。
と記述しましたが、聖書には、3月25日の日付は無いとご指摘を受けました。
牧師さんのHPを拝見したところ、現在の聖書には無いようです。
しかし、教会暦には、3月25日が受胎告知の日とされています。
このHPにも3月25日になった経緯が説明されていなかったので無い頭を絞って考えたのですが、昔のキリスト教徒は、キリストと太陽を同一視していたのでキリストの生誕を冬至に合わせる為に旧約聖書の一部を書いたと言われるダニエルの「ダニエル読解書」古代ユダヤ教聖典、マタイ福音書などを解釈して得た日付だと思われます。

棒の陰で太陽の動きを知る方法

その日の間で、太陽の高度が最も高い時刻が、その地点での12時です(地方時)。
明石市より東では標準時より早く来ますし、西では遅くなります。
日本の標準時12時は、東経135度の明石市で最も太陽高度が高くなる時刻ですが、この東経135度は地理上(地図上)の経度では無く、天体観測によって得た135度です。
よって明石市に在る日本標準時の塔は、地図の東経135度上には在りません。

注1:日本書紀
奈良時代に完成したわが国最古の勅撰の正史。
神代から持統天皇までの朝廷に伝わった神話・伝説・記録などを記述した編年体の史書

注2:神武天皇
記紀伝承で、第一代の天皇

注3:太陽暦
地球が太陽の周囲を1公転する時間を1年とする暦

注4:太陰暦
1ヶ月を月の満ち欠け周期である29日或いは30日とし、1ヵ年を12ヵ月としたもの

注5:月読尊(つきよみのみこと)
記紀神話で伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の子で天照大神の弟。月神

注6:天照大神(あまてらすおおみかみ)
伊弉諾尊の娘、日神

注7:クロノス
ギリシア神話で、ゼウスの父。世界の支配者であったが、ゼウスに覇権を奪われた

注8:ミトラ
インド・イラン人の神。リグ‐ヴェーダでは契約と友愛の神。
ペルシアにおいても契約の神であったが、次第に曙光神・太陽神・戦闘神となり、 ローマに入ってミトラ教の主神となった。

ミトラ教
ペルシア起源のミトラを崇拝する宗教。
前3世紀頃起り、小アジアで発展、ローマ軍団に採り入れられローマ帝国全域に広まった。